戦いの中で
「あ、葵!!」
標的は、葵であった。
何の目的があって攻撃したのかは不明だ。
しかし、この攻撃を受ければ、葵は確実に死んでしまうことだろう。
「させるかよ!」
瞬一は、葵と黒い弾の間に入り、
「あらゆる害から身を守る不可視の壁よ、我を守れ!」
結界を展開させ、その攻撃を弾く。
そして、時間をほぼ開けずに、
「聖なる雷よ、我の右手にその力の一部を宿せ!」
すかさず右手に雷の塊を作り、悪魔目掛けて走る。
同時進行で、大和は、春香の体をなるべく傷つけないように、軽い竜巻を起こして、春香を攻撃した。
しかし、この二つの攻撃は、どちらも当たらない。
「ぐわっ!」
まず瞬一の攻撃は、体を捻って避けられて、隙が出来た瞬一の体に、蹴りを入れる。
一方大和の攻撃は、当たる前に黒い何かに打ち消されて、消滅した。
「ちっ……あっつい弾でも喰らいやがれ!ファイアボール!」
今度は晴信が、春香と悪魔の二人に同時に攻撃をする。
だが、これらもすべて、当たらなかった。
「くそっ!」
「……大和、剣だ。剣の峰打ちかなんかで、一之瀬を気絶させろ。そうすれば、儀式を止められるかもしれない」
「……分かった」
瞬一は、以前にこの状態の人間を見てきているのだ。
だから、気絶さえさせてしまえば、この状態から解放されることも知っていた。
「お前らもだ!春香を気絶させる程度に済ますんだ。体に傷は、つけるなって言うのは難しいから、最低限にしろ!!」
「……よそ見してる暇はあるのか?」
「なっ!?」
瞬一が晴信達に指示を出している間に、いつの間にか悪魔は瞬一の背後を取っていた。
「鮮血と共にその命を散らせ……ブラッディスピア!」
悪魔は、詠唱を始める。
瞬間、その右手は、黒いドリルのような物へと姿を変えた。
「くそっ!雷を纏いし我が剣よ、その姿を具現して我の武器となれ!!」
瞬一は刀を取り出して、そのドリルを止める。
ガギャガガガガガガガガ!!
ドリルが回転し、剣とぶつかりあう音が響く。
それに気を取られている場合ではないと、晴信は悟った。
「今は一之瀬を助け出さないと……済まない、一之瀬!」
晴信は一之瀬に一言、そう謝罪の言葉を伝えると、
「俺の炎で目を覚ましてくれ……バーニングインフェルノ!」
いつもの、およそ詠唱とは思えないような言葉を並べる晴信。
しかし、それはいつものふざけたような物ではなく、願いを込めたような形の詠唱だった。
だが、そんな晴信の魔術も、春香には届かなかった。
「……闇・葬・皆・散!」
「頭文字詠唱を……携帯なしで!?」
科学魔術師であるはずの春香が、携帯もなしに、しかも頭文字詠唱をしたことに、一同は驚きを隠せずにいた。
そう、これこそが“悪魔憑き”の特徴。
悪魔との契約の一歩手前まで来た者が、無意識で発動させる能力の一部なのだ。
「くっ……!炎よ、迫りくる脅威を燃やしつくせ!!」
真理亜が、携帯を取り出して、自分達の周囲を覆う。
するとどうだろう。
目前まで迫ってきていた刃物らしきものが、直後に地面より噴出した炎によって燃やしつくされた。
「おお……やるな、北条」
「ボサッとしてる場合じゃないわよ!今は一之瀬さんと止めないと!!」
真理亜は、剣を取り出して、大和と共に、春香の所まで駆け寄る。
刃ではなく、峰を向けて。
「……俺達は援護に回ろう、葵!……葵?」
「……」
晴信は、葵にそう言葉を投げかけたが。
当の本人である葵は、その場に茫然と立ち尽くしたままであった。
「光の器って、一体なんのことなんだろう……」
葵は、先ほど悪魔に言われたことを気にしていたのだ。
自分が何者なのか……よく分からななくなっていたのだ。
「……葵!!」
「はっ!……ご、ごめん、ちょっと考え事してた」
「ハァ……俺達は後方支援に回るぞ。瞬一と大和達の両方を助太刀するんだ!」
「……うん!」
迷っている場合ではないと判断した葵の顔は、決意に満ちた物へと変わる。
晴信と葵は、呪文を詠唱して、瞬一達を援護する方向へと回ったのだった。




