とある可能性
最終的に言ってしまえば、見つからなかった。
どこを探しても、いない。
人の気配は感じるのに、それらしき人物の姿を見つけることが出来ない。
「そっちはどうだった?」
「駄目だった……いろんな場所を、何回も回ったりしてたけど、見つからなかった」
葵に聞いたところ、同じところを、時間をあけて何回か見てきたとのことだ。
しかし、そこには誰もいなかったのだという。
表情を見る限り……葵以外の他三人も、収穫なしというところか。
「おかしいだろ……学校にはいない、自宅にはいない……」
「かといって、出掛けたとするなら、鍵がかかっていないのはおかしいし……」
「かといって、二人はこの家から出ていないしな」
「「「……え?」」」
俺の言葉に、大和を除く三人が、声を揃えてそう返してきた。
……俺、そんなに変なこと言ったか?
「どうしてそんなことが分かったのかしら?」
北条が俺に尋ねてくる。
……そうか、コイツらはそこまで分かっていなかったのか。
なら、説明する必要があるな。
「お前ら、玄関から家の中に入る時に、下駄箱の中を見たか?」
「下駄箱……そんな物見てどうすんだ?」
「私も見てないよ」
「私も」
やはりな。
この三人は下駄箱の中まで見ていなかったか。
晴信に至っては、見る必要性があるのかと問いかけてきた。
これは重症だと思う。
「俺と、大和も見てたみたいだけど……下駄箱の中に、靴が二足あったんだよ。これが何を意味するか分かるか?」
俺は、晴信達三人に質問をする。
それぞれが答えを真剣に考える。
そして、最初に晴信が導き出した答えは。
「んなもん当たり前じゃねえか。この家は二人暮らしなんだからよ、靴が二足あって何が可笑しいんだ?」
惜しいな。
後もう一歩ってところだな。
「二人暮らしってのはいい点をついたな。けどこれは、家の中に二人がいることを指してるんだ。それこそ、実はもう一足あるとかの例外を除くがな」
「……あ、確かに可笑しいかも」
「何か気付いたのか?」
何かに気付いた様子の葵に、晴信が尋ねる。
すると、若干曖昧な表情を浮かべながら、
「春香ちゃんの家は二人暮らし。そして、家の中には二足の靴……外出しているのだとしたら、この家にある靴は、一足もなくなるはず」
「そう。外に出るのに裸足で出るやつなんて普通はありえない。だから、二人はこの家にいるはずなんだ」
「なるほどなるほど……」
本当に分かってるのかよ、晴信。
我が友ながら、少し不安になってきたぞ。
「けどよ。家の中をこれだけ探しても、俺達以外誰一人いないんだぜ?」
「家の中に一之瀬さんと兄がいるとするのなら、どこにいるのよ?」
「そ、それは……」
晴信と北条に聞かれて、答えることが出来なくなってしまう俺。
『一之瀬兄妹がこの家にいる』という証明が出来ない。
靴があるから、二人は家にいる。
本当にそうなのかすらも怪しくなってきた。
「例えば……どこかに隠し扉か、それに準ずる何かがあるとかね」
「か、隠し扉?」
大和がそこで、隠し扉の可能性を出してきた。
あまりのことに、晴信は尋ね返してしまう。
……隠し扉?
「その可能性があることを忘れてたな……この家には、ひょっとしたら、地下とかにいくことが出来る隠し扉があるのかもしれないな」
「……ねぇ、一つ気になることがあるんだけど」
「どうした?葵」
葵がここで、ある一つの疑問を口にする。
その内容は……。
「この家、外見よりも狭くないかな?」
「外見よりも……狭い?」
俺はそうは感じなかったけどな。
ていうか、外見をもう覚えてないし。
「確か、もう少し奥に部屋があるような気がするんだよね……」
「……とりあえずは、この家の奥まで行ってみよう。そこに、隠し扉があるかもしれないしね」
大和と葵の提案により、今度は全員で、この家の奥に行くことにした。




