ある者達の思考
みんなと別れた俺は、一人で一之瀬兄妹を探しているわけだが。
「……見つかる気もしねぇな」
人の気配はするのに、どこを探しても人が見当たらない。
一之瀬の部屋、一之瀬の兄の部屋、物置等……。
浴室にもいなかった。
他の部屋は別の人が探しているだろうから、この際は無視することにしよう。
「しかし、これから何が起きようとしているんだ、一体」
一人、誰もいない空間に向かって呟く。
答える声は、もちろんない。
……にしても、分からない。
一之瀬の兄、もしくは二人は、一体何を考えているのだろうか?
兄は加害者で、一之瀬本人は被害者?
それとも、二人で何か計画しているのか……それはないか。
一之瀬なら、何か悪いことをしようとしている兄がいたら、全力で止めるか。
それでは、やはり一之瀬は被害者なのか?
「……俺には兄も加害者ではないように思えるんだよな」
一之瀬の兄の話を、ここに来る前に聞いたが、そんなことをしそうな人ではない。
むしろ、妹想い……というか、他人想いの、いい人だと聞く。
最も、それが作られた人格という考えもなくはなのだが。
こればっかしは嘘だとは信じがたい。
「……やはり、二人とも被害者?」
一之瀬の兄は、大和の意見を聞く限りだと、禁忌とも言われる闇魔術を取得しているという。
何の目的で闇魔術を取得したかは不明だが、その際に契約した悪魔との間に何かがあり。
悪魔が一之瀬の兄の意思を操って、こんなことを起こしていることも否定は出来ない。
かと言って、その可能性はやはり肯定も出来ないのだ。
「どっちにしろ言えることは……俺達はまた、面倒なことに巻き込まれたってことだな」
俺達だけではない。
一之瀬兄妹もまた、その点に関しては同じことが言えるだろう。
……とにかく、今は一之瀬兄妹を見つけなくちゃな。
まだ探していない部屋があるかもしれないから、そこを当たってみるか。
Side大和
さっき僕達を襲ってきた黒き軍勢。
あれは、魔術によって精製された、いわゆる人形というやつだ。
その人形は、術者の得意属性によって、付加属性が左右される。
あの人形の場合は黒……すなわち、闇魔術。
「春香の兄さんは、すでに闇魔術取得の儀式を終えている……それがどんな契約条件かは分からないけど、よほどのことがない限り、契約解除をすることが出来ない」
……今回の事件は、春香の兄さんが引き起こしたことではないだろう。
闇魔術を取得する際に、恐らく春香の兄さんは、『自分の心の中に悪魔を住ませる』という条件を提示したのだろう。
通常、契約した後に、悪魔がいつまでも本人に留まっていることは、よほどのことがない限り、そんなことはない。
しかし、春香の兄さんの例があるように、術者の中には、闇魔術を取得する条件として、自分の中に悪魔を住ませるということをする人もいるのだ。
……それこそ、対価となる物を持っていない者の最終条件とも言えよう。
「それじゃあ、春香がいないのは、まさか……」
その悪魔は、春香にも闇魔術を継承させようとしている?
もしくは……春香に闇魔術をわざと継承させて、春香の心を喰らう気か?
……そんなことになっているのだとしたら、僕達は全力で止めなければならない。
……『組織の一員』としてではなく、『春香の友達』として、だ。
「……それにしても、どうして人の心というのは、ここまで弱いのだろう?」
光があるからこそ、必ずそこには闇が存在する。
人の強みが光だとしたら、人の弱みは闇ということになる。
その弱みに付け込んだのが……闇魔術だ。
その弱さがあるからこそ、人間は力を欲する。
……闇は、光の領域が大きくなるにつれて、次第にその勢力を増してきた、ってことか。
これじゃあ、『組織』で対応しなければならないことがたくさん出てくるな。
「……そんなことを考えてる場合じゃない。今は春香達を探さないと」
考えてることに区切りをつけて、僕は春香達の捜索に戻ることにした。




