黒き軍勢
「……静かだな」
「……ああ」
瞬一達が中に入ると、そこは無音の空間であった。
瞬一達がたてる音だけがそこでは響き、後はおよそそれらしきものなどなかった。
彼ら以外に人がいる様子も……ない。
「……静か過ぎるね。これじゃあ逆に不気味だよ」
葵が、半ば独白するように呟く。
静寂というのは時に、人間に対して恐怖を生むものなのだ。
「一之瀬達は一体何処に……」
それを確かめる為に、瞬一達は靴を脱ぎ、中に入ろうとした。
その時だった。
「!ちょっと!前、前!!」
「……え?」
靴を脱ぐために視点を下にしていた瞬一は、慌てている様子の北条の声を聞いて、半ば焦るように視点を上にあげる。
すると、そこには……。
「うわっ!?」
真っ黒い、人の形をした何かが、瞬一の前に現れていた。
右手には……剣。
「コイツら……敵か?」
すぐさま臨戦体勢に入る晴信。
若干遅れる形で瞬一も体勢を整えて、大和はすでに準備万端のようだ。
真理亜と葵の二人も、瞬一達を援護しようとしたが、
「葵……ここは俺達三人で十分だ。だから、少しだけ避難しててくれ」
「僕からもお願いするよ……真理亜も危険だから、離れてて」
「う、うん……」
「喜んで!!」
葵は若干心配そうに。
真理亜は大和に心配されたのが嬉しかったようで、葵を連れて一旦外に出た。
「……数は?」
二人がいなくなった後で、瞬一が大和に尋ねる。
「八、いや、九……」
「十はいるぞ」
大和が答えようとして、そこで晴信が正確な数字を出してきた。
「こんな狭い通路に十もいるのかよ……」
鬱陶しいものを見るような目をしながら、瞬一はそう呟く。
玄関という空間に、十の敵というのは流石に多すぎた。
満足に戦えないし、逃げ場もない。
戦闘をするのに、最も不適な場所。
だが、条件はどちらも同じなのは事実である。
「……やるぞ、二人とも」
「……ああ」
「うん」
瞬一の言葉に、晴信と大和の二人が頷いた。
そして、瞬一は刀を、大和は剣を出す。
その一方で晴信が出したものは……。
「銃か……」
「俺も剣を出してもいいんだけどよ、流石に前衛は三人もいらないだろ?」
すなわち、晴信は援護する側に回るというわけだ。
「銃以外にも、術とかを使って相手を攻撃してくれたら助かるかな」
「あいよ。ご期待に応えられるようには頑張るよ」
晴信は、銃口を敵に向ける。
瞬一と大和は、それぞれ刀と剣を構える。
すると、瞬一達の敵意を認めたのか、
「……!!」
相手の軍勢も、手にしている武器を構える。
……数で言えば、圧倒的に瞬一達の方が不利。
「……瞬一。僕は右から来る敵を斬る。瞬一は左からの敵を斬って欲しい」
「分かった……峰で斬った方がいいのか?」
敵にも、晴信にすらも聞こえないような声で、二人は作戦をたてる。
「いや、峰なんて甘い考えはやめた方がいい……第一、あの軍勢は、決して人なんかじゃない。だから、本気でかかった方がいい、いや、本気を出して」
「……あ、ああ。分かった」
この時瞬一は、大和に対して恐怖にも似た感情を感じていた。
こんな事態に陥っているというのに、大和の顔には、緊張の色が見えないのだ。
晴信は、言葉こそいつも通りだが、汗をたくさんかいている。
瞬一も、鳴り響く心臓の音を止められないでいた。
だと言うのに……真横に立つ大和からは、それが感じられない。
「(どういうことなんだ?大和って一体……)」
そして、
「!来た!!」
「「!!」」
敵の軍勢は、瞬一達目掛けて襲いかかってきた。




