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Magicians Circle  作者: ransu521
悪魔憑き編
106/309

一之瀬の両親について

「失礼します」


扉をノックして、俺達は中に入る。

時刻は昼休み。

場所は校長室。

そう、俺達は一之瀬の家の場所を知る為に、校長室に来ていたのだ。


「ふむ。三矢谷瞬一か……どうした?」


校長は俺の名前を呟くと、まずはどうしてここに来たのかを尋ねてくる。


「(校長と瞬一って、知り合いだったんだな)」

「(校長先生に名前覚えてもらえるなんて、よっぽどのことをしちゃったんだね)」

「聞こえてるぞ、二人とも」


小さな声で呟いているつもりなのだろうけど。

晴信と葵の小声での会話は、きちんと聞こえてるっての。


「それで、何とかなりませんか?」

「う~む……本来なら例外ではない限り、生徒の個人情報を教えないのが義務なのだがな……」

「けど、おかしいとは思わないんですか?」


冷静に、大和が校長にそう言う。


「兄妹で休んでいるにも関わらず、親、もしくは本人達が連絡を入れないなんて、いくら何でも……」

「そういえば、君達は知らなかったな」

「え?」


大和の発言を遮るような形で、校長がそう呟く。

何だ……俺達が知らないこと?

それは一体……。


「それって、何なのですか?」


珍しく北条が敬語で尋ねる。


「<(`^´)>聞こえてるわよ」

「あれ?」


俺は心の中で呟いたはずなんだけどな。

北条に聞こえるはずがない……。


「口に出してたぞ」

「……我慢しきれなかったみたいだな」


晴信に指摘されて、ようやっと気づく。

そうか……思うだけじゃ足りなかったというわけか。


「一之瀬春香・辰則の二人は、幼い時に両親を亡くしているらしい」

「なっ……!?」


校長のその発言をきっかけに、ここに流れる空気は一気に凍りつく。

……一之瀬の両親が、死んでいる?


「うむ。事故死や病死なら、まだ未練も少なかったろうにな」

「……それって……まさか」


『事故死や病死なら、まだ未練も少なかったろうに』と校長は言った。

すなわち、一之瀬の両親は、少なくともこの二つ以外の理由で死んだことになる。

例えば自殺、例えば……。


「殺された……ですか?」

「!!」


俺の目だけではない。

一同の目も見開かれた。

それだけ、大和が導き出した仮説は、衝撃的なものだった(俺自身もその可能性は考えたが、口に出す勇気を持っていなかった)。

ただ、校長は、そんな大和の仮説を聞いても、動揺しなかった。

顔色一つ変えずに、


「……その仮説は、合っている」

「……え?」


大和の出した仮説を、肯定した。

一番当たって欲しくなかった部分を、当ててしまった。


「まぁ本人達は、もう何年も前、それも小学校低学年の時の出来事と言うことで、あまり公にはせぬがな……目の前で惨殺されたらしい」

「……一之瀬に、そんな過去が」


両親を失った悲しみを知っているわけではない俺が言っても説得力皆無かもしれないけど。

家族が目の前でいなくなるってことは、相当辛いことだと思う。

家族に限ったことではない。

例えばそれが親戚の人でもいい。

例えばそれが部活の先輩でもいい。

例えばそれが唯一無二の親友でもいい。

大切な人を亡くすのは……本当に辛いことで、悲しいことだと思う。


「……ましてや、目の前で、だろ?……俺だったら許してないな。ソイツのことを、地獄の果てまで追いかけてると思う」

「晴信……」


晴信のこの発言は、一之瀬に対する同情から来ているものではないと、何故か分かった。

これは、晴信の本心……つまり、『自分ならこうする』と言ったに過ぎないのだ。


「……こんな空気を作ってしまい、申し訳ない……」


校長は、俺達に一回、そう謝ると。

引き出しの中から紙を取りだし、ペンで何かを書く。


「……これが住所だ。この場所に行くとよい」

「……ありがとう、ございます」


それは一之瀬の家の住所だった。

住所だけではなく、簡単にだが、地図も書いてくれた。


「……私は諸事情があって動けぬ。だから、今回の件は君達に任せることにしよう」

「「「「「はい!!」」」」」


俺を含む五人分の声が重なる。

そして俺達は、校長に一礼し、校長室を後にした。

出る直前に、


「……無事に帰ってくるんだぞ」


と校長が言ってくれたのには、地味に感動した。
















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