それは疾風の如く
一年生のリレーも終わり、お次は俺達二年生の出番だ。
……ついにアイツと対決する羽目になった。
ああいうタイプは、処理が面倒臭いから苦手なんだよな。
俺は心の中でそう呟く。
そうしている内に、
『位置について!よ~い……』
パン!
ピストルの音が鳴る。
第一走者がスタートした合図だ。
「……おい」
「うん?……あ」
突然声をかけられたのに気付いた俺は、その方向を振り向く。
するとそこには……見知った顔がいた。
「柳瀬か……お前がここにいるってことは、お前も第三走者ってことでいいんだな?」
「その通りだ……お前も第三走者か?」
「ああ」
ふむ……コイツが同じ第三走者とはな。
これまたウザイのが……。
「お?俺達の色の方が少しリードしてるみたいだな」
見ると、赤組は少し遅れているみたいだ。
一位は青で、二位は緑。
三位が赤で四位が黄色という順番だ。
……けど、その差も僅差だ。
十分追い越せる距離ではある。
バトンは第二走者に渡される。
「……よし。あのくらいの差なら、俺にだって埋められる」
あまり差がないのなら、俺にだって何とかなりそうだ。
「逃げ出すんじゃねぇぞ?俺に負けるのが怖いからってな」
「誰が逃げ出したりすっかよ。俺の心はそんなに弱くねぇっての」
なめてんのかよ、こいつは。
俺はな、さすがにこんなやつに負けてやれる程、人間出来ちゃいねぇんだよ。
「……そろそろ来る頃かな」
「……勝負だぞ、お前」
「分かってるっての。ちっとは落ち着けよ」
こうしている内にも、バトンを持った走者達がこっちまで近づいてくる。
……最初に到着したのは。
「よっしゃ!俺達が先だ!」
柳瀬の組……すなわち青組のバトンが先に渡る。
ほぼ僅差で、緑が続く。
そして。
「み、三矢谷……頼んだ」
「一位まで引き上げてやるよ!!」
俺はバトンを受け取ると、全力疾走をする。
まずは……二位の緑組のやつを抜き。
「後はお前だけだ、柳瀬!」
「……なかなかやるようだな。だが、そう簡単には追いつかせないぞ!」
柳瀬は、何やら走りながら呟いている様子である。
……足強化の魔術をするつもりか。
なら、こっちは。
「脚部強化!!」
「……え?」
短い時間しか足が強化されないが、詠唱するならこっちの方が手間が省ける。
いちいち長い詠唱をしなくても、一応効果は出る魔術だからだ。
「甘かったな……この勝負、短時間で決着がつくから、むしろこっちの方が効率がいいんだよ」
「ちっ……!!」
俺は柳瀬にそう捨てゼリフ的なことを告げると、柳瀬を追い越し、ついに一位になる。
「瞬一~!!その調子だよ!!」
葵の応援がここまで届く。
何というか……ちっとばっかし照れくさい気もするな。
「……貴様、葵様の応援を受けられるとは……」
「へ?」
な、なんか、後ろから黒いオーラが飛んでくるのですが。
このオーラの正体は、一体……。
「羨ましいだろうがぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うわっ!凄いスピードで追ってきてる!?」
ふと後ろを見ると、もの凄い形相でこっちまで迫ってくる、柳瀬の姿があった。
……いや、これはマジでホラー物だっての。
「全力で走らないと、追いつかれるって問題じゃねぇぞ!!」
「殺す!マジでお前殺す!!」
「体育祭ごときで殺すとかぬかしてんじゃねぇよ!!」
足強化+己の自己暗示で俺は走る。
相手もそれは同様のようで……最早体の限界を超えた走りをしている感覚に陥っている。
「くそっ……パスだ!!」
俺は何とか一位を守り切り、次の走者にバトンを渡す。
……後はこのままアイツらが順位を守ってくれれば、一位にはなれるな。
「……ヤローテメーぶっ殺す……ぐはっ」
全力を出しすぎたせいか。
柳瀬は、バトンを渡した後に、安全な場所に避難して、その場に倒れた。
……最後に『ぐはっ』って言っていたような気がするが、そこは気にしないことにした。




