騎士の目撃
俺は王国騎士、この国の宰相であるデューク・ロード大公様の護衛騎士だ
最近になって宰相様は婚約者というシンデレラ・トゥラヴス伯爵令嬢を伴う様になった
瓶底メガネに暗いブロンド、三つ編みと、とても地味・・・
慎ましい令嬢だった。
何故婚約者を執務室に、とも思ったが
どうやらシンデレラ様は誘拐されたらしく心配した宰相様が常に傍に居るようにと取り計らったそうだ
婦女子を攫うなど許せない!
成程、宰相様の近くは確かにこの国でも最高レベルの警備が敷かれている
国王陛下、王妃陛下、王子殿下、宰相閣下、その近くは安全だ
きっと、心に傷を負った令嬢を安心させる為の宰相様の優しさだろう。
宰相様は城の者から「氷の宰相」と陰では言われているが
ただ法に従い、粛々と職務を遂行しているだけだ
少しだけ眼光が鋭いだけで、侍女や他の令嬢が大袈裟に騒ぎ立てているだけなのに・・・
いつもの様に執務室へと入るお二人を見送り、扉の前で警護する
夕方まで基本的に出てくる事は無い
執務室にはキッチン、トイレ、客間に休憩室と全部揃っているからだ。
10時、そろそろかな?と思っていると執務室の扉が開かれた
「いつもありがとうございます、どうぞ・・・」
シンデレラ様は紅茶と菓子を用意してくれる
宰相様の休憩時間には必ずこういった事を為さるのだ
たかがいち騎士に有り難い気持ち以上に、その心遣いが嬉しい
「ありがとうございます!」
御礼を言うと彼女はうっすらと微笑み会釈してから中へと戻った
地味過ぎると思っていたが、下手な偉ぶった令嬢の侍女達より遥かに素晴らしい方だ、うん。
昼、俺の職務は13時まで、交代要員と13時で入れ替わるのだが、同僚の騎士によると15時の休憩時間にも持て成して下さるらしい。
ガチャン!!
「ん?」
執務室から何か割れるような音が聴こえてきた
「宰相様? シンデレラ様?」
トントントンとノックをして声を掛けるも反応が無い
異変と判断、即座に中へと踏む混む
「ちゅ、・・・、ん、はあ・・・、デューク様、お仕事ちゅ・・・」
「休憩時間だ問題ない」
執務室に入ってすぐの場所には来客、主に身内の文官用に備えられたソファーと机
床にはポッドが落ちていた、音の発生源はこれか
そして、ソファーの上では宰相様がシンデレラ様に覆い被さるようにキスをしていた・・・
「・・・」
「ん?」
「ひゃ!!」
こちらに気付いてシンデレラ様はソファーの端へと飛び跳ねた
「ああ、問題ない、御苦労」
「は!失礼しました!」
俺は何も言えない、ただ問題ないと言われれば出て行くしかない
出て行く間際、シンデレラ様は真っ赤な顔で宰相様に肩パンチをバシバシと打っていた。
「だからダメって言ったのに!もう!」
「ははは、シンデレラが可愛らしいのが悪い」
宰相様が笑った、嘘だろ・・・
この人笑うのかよ、と驚愕する。
パタリと扉を閉めて再び警護に戻るが
「あれ?」
ふと気付く、シンデレラ様がぐるぐる瓶底メガネを外していた
瞳は透き通った碧でとても綺麗な色だった
肌も白く、宰相様にキスをされていた影響か、息を整えようとハアハア上下する胸は意外とあった
「シンデレラ様って、あんなに美しかったっけ?」
実はとんでもない美人なのでは?
騎士は考えたがマジマジと宰相の婚約者を見る訳にもいかず
次の日も変わらずぐるぐる瓶底メガネで地味なドレスを着たシンデレラを見て、気のせいかと深く考える事は無かった。




