婚約者?
「シンデレラ、隣に座っても」
「・・・、どうぞ」
「ありがとう」
「・・・、いえ」
デューク様がソファーに座っている私の横に来ました
近いです・・・
あれからの1週間、最近目まぐるしく環境が変わっていましたが
漸く落ち着きました。
私が行方不明になって2日後
騎士に追われデューク様に保護されて次の日
ロード大公家からシンデレラを保護したとの連絡を受けて
お母様と雪が大公家に来ました。
私は誘拐されていた体なのでトゥラヴス伯爵邸には騎士が数人待機していたそうですが
トゥラヴス家に報せを出したの同時に、騎士団詰め所にも保護したとの連絡をロード大公家から出しました
行方不明自体が狂言なので完全にマッチポンプです、はい。
お母様と雪は慌てて私の元へ来て
「シンデレラ(シンディ)どういう事なの!?」
と、詰め寄って来ましたが経緯を説明すると一先ず納得していました。
流石に大公様がほぼ善意のみで助けてくれた事には首を傾げていましたが
姉様達への説明をお願いして別れます
足の怪我は全治数週間、王子の件が落ち着くまでは大公家邸宅での生活となりますので
私物を少々と侍女のサリーが大公家へと移動して来ました。
こちらで生活するのに私物が少々なのは・・・
「シンデレラさん、このドレスなんてどうかしら!
あ、でもこっちもいいわねえ・・・」
リュシエルお母様が全部準備すると言って憚らないので
毎日毎日毎日、着せ替えです。
髪も元の金髪、メガネも没収
住まいは本邸だと突然の来客があるので奥の離れを1軒丸々私の屋敷にと・・・
大公家凄い・・・
デューク様の御父上である前大公様のカイト様は
「可愛いお嫁さんを連れて来たね、ゆっくりして行くと良い」
と、なんともとらえどころのない様子でした
リュシエルお母様が仰るには、もう引退した身だからあまり口出しするつもりがないだけ、とのこと。
確実に他人は来ないからと素の格好で生け贄、
もといリュシエルお母様の着せ替え人形です。
着せ替えが終わると必ずデューク様が来て一緒にお茶をします
「あのう、デューク様?」
「なんだいシンデレラ」
や、そんな話し掛けただけで蕩けるような笑顔やめてくれませんかね
こんな格好良い方に笑い掛けられた事ないのでどうしていいか分かりません・・・
「毎日来ていますけど、お仕事は大丈夫なんですか?」
「大丈夫、婚約者が酷い目に遭って我が屋敷に保護しているのに平然と仕事に出たらおかしいだろう?」
なるほど、印象操作ですか
「それに・・・」
ん?
デューク様が手を伸ばして私の髪に触れてきました
サラリと手で髪を梳かれます
家族以外では初めてですが、ゾワゾワといいますかゾクゾクといいますか
なんとも言えない感覚に落ち着きません。
「ん・・・、デューク様くすぐったいです」
「シンデレラに会えるからね、いずれ城で仕事を手伝って貰おうかな。
傍に居て欲しいし・・・」
「え?」
またまたご冗談をー、って本気ですか?
「本気だよ、今後の方針が決まったから説明すると
足の怪我が治ったら城で私の作業補助役として働いてもらう」
「え?それはどういう事ですか?
城に行ったら王子との接点が多くなって・・・」
「シンデレラ、逆だよ。
今時点で城の、しかも私の隣にあの舞踏会で消えた姫君が居るなんて誰も思いもしない
それが初恋に浮かれて必至になっている者なら、尚更ね」
「そういうものですか?」
「そういうものさ、それに国王にさえ秘密にしていた婚約者だ、近い内に1度陛下に面通しする必要はある。
シンデレラの場合はトゥラヴス伯爵家の直系の血筋、本来なら君が婿を取り、家を存続しなければならないからね」
そう、我がトゥラヴス伯爵家は直系の血筋は私のみ
お義母様と連れ子のリゼ姉様とシア姉様、白雪姫はそれぞれ血筋が違います
本来なら私が婿を取って家を相続する必要があるのですが
元々お義母様とは話し合いをして互いに納得の結論は出ています
私は庶民になって家庭を築くつもりで、お義母様はトゥラヴス伯爵家当主代行から爵位を返上するという方向でした。
因みに、私と結婚すればもれなく伯爵様になれるので、通常ならば婿は我こそが!と来るものです
しかし、瓶底メガネシンデレラが利いて、私は不人気。
候補として挙がっても、完全に私は視野の外で爵位しか見ていない人ばかりでした・・・
次期伯爵の爵位を背負う私が、ロード大公家の現当主デューク様と婚約を結んでいるのは明らかにおかしい事で
その為の説明に最低でも国王陛下に1度会う必要はあるということです。
王様にまで嘘をつく事になるとは、とても大事になっている気がします。
尚、大公家側は・・・
保護されてきた時には地味で冴えない娘だと思っていたが
それでもデュークが連れて来たという事で夫人として迎える気満々だったものが
いざ着替えた素の美しいシンデレラを見て
「絶対に逃がしてはならない、必ず若旦那の伴侶に」
と気合を入れ直していた。
母リュシエルも
「あんなに可愛い、しかも王子を袖にする芯のある子は絶対に逃がさないわ、うふふふふふ」
と、なっていた
王家からは逃げ切れそうだが、大公家からは逃げられなくなっている事にシンデレラは気付いていない。




