第7話:最低な男
講義が終わったら今日は愛莉と約束がある。
映画を見に行く予定だ。きっと夜飯も奢らされるんだろうと昼、亜子にメールを送っておいた。返事が無いって事はOKっていうこと。
駅で5時に待ち合わせだ。今は5時少し前。このまま駅に向うしかない。
駅のロータリーに着くとすでに愛莉が待ち合わせ場所に立っていた。
そういう光景を見ると、あれが亜子ならどんなにいいのかと考えてしまう。
愛莉とデートしてるのに姿格好、年齢さえも違うのに亜子と重ねてみてしまう。
こりゃかなり重症ってやつだと思った。
映画も見て、食事を済ませ、さぁ帰ろうって時になって愛莉は面倒な事を言い出した。
「ねぇ、私…祐樹のお家に行きたいなっ!いいでしょ?」
「それ無理」
「なんでよ?」
「家には姉貴が居るから…」
ったく。んな事言わせんじゃねーよ…
「へぇ…お姉さんいたんだ」
「そう。だからダメ」
「じゃあ、お姉さんに挨拶したいな。紹介してくれるでしょ?」
はぁ?何言ってんだコイツ。お前なんかを亜子に紹介するわけねーだろっ!冗談じゃねぇ…
心の中で毒ついているだなんてまるで気がついていない愛莉は腕にしがみついて来て上目使いで見上げてくる。
あーマジうぜぇ。どうすっかな…
とりあえず、家まで連れてって亜子は寝てるってことにして追い返すか。
「はぁ、わかったよ」
「ホント!?やったぁ!早く行こう!」
そう言ってうれしそうな愛莉を家まで連れて行く。
心の中でため息を何度も吐き出した。深夜1時過ぎ。こんな時間に家に押しかける女は今までいなかった。
「ここだけど…」
そう言って立ち止まった俺に愛莉は顔を上げて家の方に向いた。
「ここ?おっきい家だね」
「なぁ、もうこんな時間だし姉貴も寝てるだろうから帰れよ」
「えーー?ここまで来たのに家にも入れてくれないの?」
「俺だって朝早くて疲れてるからもう寝たいんだよ…」
「うーん……」
「な?帰れって」
「…じゃあ、キスしてくれたら帰るっ」
なんだ…そんな事か。さっさと帰ってくれんなら、キスの1つや2つ、してやるさ。
「わかったよ」
そう言って愛莉の腰に手を回し、自分に引き寄せると顔を近づける。
重なり合った唇。
今、重ねているのは愛莉の唇なのに、目を閉じて思い出すのは亜子の顔。
胸が苦しくなった。俺は最低な男だ。
そんな軽い気持ちでした行為を、まさか亜子が見ているなんて、その時の俺は思ってもいなかったんだから。




