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エーレンフェストへの協力要請(後編)

「……え?」


 思わぬことを言われたというようにシャルロッテ様が首を傾げました。わたくしは少し考えると、ダンケルフェルガーの見解を伝え、「どなたも」に含まれる対象を問うことにしました。自領に入ってくる情報が少ない以上、中止を望む者達の詳細を確認しておく必要があります。


「ルーツィンデ様個人のお考えはどうあれ、ギレッセンマイアーは領地として辞退の意をダンケルフェルガーに伝えていません。今のところ辞退していない四領地の求婚者……少なくともアウブは嫁盗りディッターを望んでいると見做すべきでしょう。個人の感情や考えと領地の思惑が同じとは限りません。シャルロッテ様がどなたもと言い切った根拠を教えてくださいませんか?」


 わたくしが問うと、シャルロッテ様とその側近達はハッとした表情になりました。


「……そうですね。どなたも、という言葉は大袈裟だったかもしれません。ギレッセンマイアーに関してはルーツィンデ様のお言葉を中心に考えていましたから」


 シャルロッテ様は個人の意見を大きく捉えていたことを認め、そのうえでわたくしを見つめました。


「でも、オルトヴィーン様が嫁盗りディッターを申し込まなければ、穏便に話し合いで決まるはずだったのでしょう? 嫁盗りディッターは婚約者がいるにもかかわらず、将来の予定の何もかもをめちゃくちゃにされる横暴極まりないディッターです。わたくし、嫁盗りディッターを望む方は混乱をもたらすカーオサイファの化身ではないかと思います」


 厳しい顔になっているシャルロッテ様の脳裏にはきっと二年前のエーレンフェストとのディッターがあるのでしょう。あれは完全にお兄様の暴走でした。何も聞いていなかったわたくしもあまりにも突然のことに唖然としたのを覚えています。


「シャルロッテ様のおっしゃる通り、嫁盗りディッターは既に決まっている婚約に横槍を入れたり、嫌がる相手を武力で得たりするための横暴極まりない手段です。それを否定することはできません」


 わたくしの言葉にシャルロッテ様は「ダンケルフェルガーでも嫁盗りディッターが肯定されているわけではないのですね」と少し驚いたように呟きました。


「わたくし、あの時も今回もハンネローレ様は巻き込まれたと聞いています。突然申し込まれたディッターで、望んでもいない相手との結婚が決まるなど理不尽だと感じませんでしたか? できるならば話し合いで解決したいと思いませんか? アウブ同士で話し合って決まる方が安心ですよね?」


 シャルロッテ様が嫁盗りディッターを疎み、中止になってほしいと望む気持ちがよく伝わってきます。これほど感情を露わにするのは、ローゼマイン様が奪われそうになった経験があるからでしょう。


「突然の嫁盗りディッターの申し込みはわたくしも非常に理不尽だと感じます。けれど、一点だけシャルロッテ様は勘違いしています」

「……勘違いですか?」

「話し合いで済まない状態だからディッターになるのです。仮に今回オルトヴィーン様が辞退して嫁盗りディッターが中止になったとしても、その後に話し合いの余地などございません。この先、わたくしに求婚する者がいれば、ダンケルフェルガーは何度でも嫁盗りディッターに持ち込もうとするでしょう」


 嫁盗りディッターが中止になればジギスヴァルト様は元王族の威光で求婚の受け入れを無理強いすると予想されています。彼はこちらがディッターに持ち込むことを何とかして妨害しようとするでしょう。予想はともかく、ダンケルフェルガーに話し合いを受け入れる気は全くないと示しておきます。


「……話し合いの余地はないのですか? それはルーツィンデ様のお言葉と違いますね」


 シャルロッテ様は自分達が得ている情報との齟齬に少し眉を寄せました。彼女の側近達も少し不安そうに視線を交わし合っています。


「ハンネローレ様、ダンケルフェルガーは現在情報を得にくくなっているとおっしゃいましたよね? どの程度周囲の様子を把握しているのか確認させていただけませんか? 色々と齟齬があるように思えてなりません」


 わたくしは側近達と視線を交わして頷きます。嫁盗りディッターに関する齟齬はこれまでにも色々とありました。小さな行き違いであっても早々に解消しておかなければならないことは経験上よくわかっています。


「嫁盗りディッターが決定したことでダンケルフェルガーが他領から恐れられていることはご存じですか?」

「横暴な申し込みをした無礼者ではなく、ダンケルフェルガーが恐れられているのですか?」


 わたくしが首を傾げると、シャルロッテ様とその側近達は非常に困った顔になりました。「まさかそこから齟齬が……?」と呟いた側近の声が聞こえます。


「あの、正確には辞退の際に条件や賠償がついたことに対する悪感情なのですけれど……」

「それは……もしかして無礼者が謝罪を要求され、反省もせずに逆恨みしているということでしょうか?」


 シャルロッテ様が自分の中の齟齬を埋めようとするように頬を押さえ、軽く目を閉じました。


「……そうですね。ダンケルフェルガー側から見れば、逆恨みで間違いないと思います。では、それ以外にも嫁盗りディッターによって色々と弊害が出ています。その辺りをダンケルフェルガーはどのようにお考えですか?」


 シャルロッテ様の問いに、わたくしは自分の側近達に視線を向けました。コリンツダウムが妨害のために暗躍していることはわかりますが、他領への弊害と言われても漠然としていてよくわかりません。側近達も明確な意見としては出せない程度の曖昧な心当たりしかないようです。

 ダンケルフェルガー側から声が上がらないことにシャルロッテ様が少し遠い目になって口を開きました。


「交流関係が乱れて大変なことになっています。社交期間にどのように動けばよいのか……全く目処が立たないのです」


 わたくしは再び側近達に視線を向けました。何人かは理解した顔になりましたが、わたくしにはよくわかりません。


「嫁盗りディッターと社交期間にどのような関係があるのでしょう?」

「まず、ツェントが嫁盗りディッターの申し込みはダンケルフェルガーに対する敵対行為なので、辞退する領地は領地対抗戦でアウブに直接申し出るように、とおっしゃいました。そのため、内々に辞退していても現時点では本当に辞退が受け入れられているのか、もうダンケルフェルガーから敵視されていないのか判別できません」


 わたくしは頷きました。確かにどの領地が辞退したのか、それをダンケルフェルガーが受け入れたのか、特に明言していません。正式に決まるのは領地対抗戦だからです。

 それに、これ以上嫁盗りディッターでダンケルフェルガーの学生達を煩わせないようにとツェントがおっしゃいました。そのため、他領の者がダンケルフェルガーの学生に「○○は辞退したようですが、もう敵視していませんか?」と質問するのは難しいでしょう。


「それに加えて、ブルーメフェルトのヒルデブラント様やアレキサンドリアのレティーツィア様が、嫁盗りディッターに申し込んでダンケルフェルガーと敵対した領地とはディッターが終わるまで交流しないと明言しました。そのため、一度でも申し込んだ領地は新領地と交流できません」


 確かブルーメフェルトはアウブの判断で交流を禁じられていたはずです。個人的な交流も完全に止められているでしょう。アレキサンドリアはアウブであるローゼマイン様が不在なので、余計な騒動に巻き込まれないように交流を止めているはずです。とはいえ、フェルディナンド様が戻られたので領地の判断が変わる可能性はあります。


「第二位と第六位の領地が明言したことで、他の領地もダンケルフェルガーの目を気にしてディッターを申し込んだ領地との交流を控えるようになりました。エーレンフェストもお兄様の失言があった後は交流を一旦止めています」


 別にわたくし達が交流を禁じたわけではありませんが、多くの領地がダンケルフェルガーの目を気にするようになったようです。その結果、ダンケルフェルガーは他領の情報を集めにくくなったのでしょう。


「つまり、本来ディッターと無関係の領地にも大きく影響が出ているのですね」

「はい。これまで親しくしていた他領の方々と一年に一度貴族院で交流することを楽しみにしていた一般学生に大きな影響が出ています。特に領地を跨ぐ恋人や婚約者同士は交流を止められるだけではなく、ダンケルフェルガーに睨まれた領地の者との婚約自体を見直すかどうか……という意見まで続出しています」


 思ったより広範囲に影響が出ていることにわたくしは眉を寄せました。別に禁じていないことで勝手に悩み、ダンケルフェルガーの目を避けているのです。内々に辞退を申し出た領地のアウブが直接相談しない限り、この事態をお父様やお母様も把握できないと思います。


 ……これも嫁盗りディッターを貴族院で行うことにしたから出た問題ですね。


「特に、嫁盗りディッターが卒業式の翌日なので……。例年通り領地対抗戦で求婚の申し込みや色合わせを予定していた者達は予定が狂って頭を抱えています。恋人や婚約者と社交期間をどのように過ごすのか、このまま婚約を進められるのか、誰にも答えが出せないのです」

「他領の婚姻にダンケルフェルガーは口を出しませんけれど、嫁盗りディッター後の領地関係や各領地のアウブがどのように判断するのかまで今の時点では明言できませんね」


 ドレヴァンヒェルとは共闘や次期領主の後押しを約束していますが、シャルロッテ様が気にしているギレッセンマイアーやハウフレッツェとの関係がどうなるのかなど、お父様にもわからないでしょう。


「えぇ、だからこそ嫁盗りディッターに一度でも申し込んだことが領主一族以外の貴族の将来にどれだけ影響が出るのか悩んでいる者や、どこでダンケルフェルガーの怒りを買うのか怯えている者は、おそらくダンケルフェルガーの方々が想像するより多いと思います」

「……そうですね。ダンケルフェルガーにとって嫁盗りディッターは嫁側の一族と婿側の一族の戦いなので、無関係な方々にそれほど影響が及ぶと思っていませんでした」


 現在の貴族院の状態をダンケルフェルガーと共有できたことで、シャルロッテ様は少し肩の荷が下りたような安堵の表情を見せました。


「このような状況の中で、嫁盗りディッターの起点となったオルトヴィーン様が辞退すればディッターを中止にできると耳にしたのです。元々ディッターに関係がなかった者達からもオルトヴィーン様は悪感情を向けられ、早く諦めてほしいと願われています。ディッターが中止になれば交流を再開できますから、ここ数日で一気に嫁盗りディッターの中止を望む領地が増えているのです」


 状況は理解しましたが、嫁盗りディッターの中止が望まれている背景に何とも言えない苛立ちを感じます。わたくしはオルトヴィーン様が嫁盗りディッターを申し込んできた経緯を知っているので尚更です。


「嫁盗りディッターがどのようなものか調べもせず、噂に踊らされて申し込んだ者達が、詳細を知って慌てて辞退し、今は再び噂に踊らされてオルトヴィーン様に辞退を迫っているなんて……愚かしい以外に相応しい言葉が思い浮かびませんね」


 わたくしはニコリと微笑んで、お茶を飲みました。それまで同意を示していたわたくしの突き放した物言いに、シャルロッテ様が困惑した顔になります。


「あの、ハンネローレ様……?」

「悪意を向けるならば何度も噂に踊らされている自分達の愚かさか、皆を踊らせるジギスヴァルト様でしょうに……」


 わたくしはこれ見よがしにハァと溜息を吐きました。


「シャルロッテ様、コリンツダウムの噂に踊らされた有象無象と違い、オルトヴィーン様とアウブ・ドレヴァンヒェルは全てをご存じの上で申し込んでいます。他者が少々騒いだところで、その意思を覆すことはないでしょう」


 シャルロッテ様を含めて、エーレンフェストの者達が息を呑むのがわかりました。


「……ハンネローレ様は嫁盗りディッターを中止させたいとは思わないのですか?」

「思いませんし、お父様が決めた婚約者候補以外の求婚者がいる以上は中止にできません。わたくしが中止を望むとすれば、求婚者全員がわたくしとの婚姻を諦めた時です」


 ジギスヴァルト様が求婚を諦めない限り、ダンケルフェルガーは嫁盗りディッターを望むでしょう。お父様はそのために婚約者候補を決めたのですから。


「では、現状が変わることはないのですね」

「えぇ。簡単には変わらないと思います。けれど、シャルロッテ様からルーツィンデ様に助言することはできるでしょう」

「助言ですか?」


 シャルロッテ様は何か良い考えでもあるのかと言わんばかりに、わたくしを見つめます。


「断つべき悪縁に縋りつき、楽な方向に流されないようにお気を付けください、と」

「ハンネローレ様、それは……」


 先程シャルロッテ様が口にした言葉です。断つべき悪縁に縋りつき、楽な方向に流されないように気を付けなければならないのはヴィルフリート様だけではありません。


「ジギスヴァルト様をまだ王族扱いしているようですが、あの方はもう王族ではありません。一年間は元王族として尊重するように言われていますが、その先はダンケルフェルガーより下位のアウブとして扱われる方です。変化した現実を直視して受け入れなければ後で不利益を被る可能性があります」


 ルーツィンデ様だけではなくシャルロッテ様もジギスヴァルト様のことを「王族」と口にしました。まだジギスヴァルト様をアウブの一人として認識していないでしょう。それを指摘されたことに気付いたようで、シャルロッテ様は難しい顔になりました。


「変化した現実を直視することは、思っていたより当事者には負担が大きいのですね」

「えぇ。元王族として尊重することと、下位領地のアウブの我儘を全て受け入れることは同じではありません。ジギスヴァルト様がアウブではなく王族として振る舞うため、ダンケルフェルガーでは嫁盗りディッターで勝敗を定めるのが最善だと考えられています」


 シャルロッテ様は「……そういうことですか」とゆっくりと息を吐きました。嫁盗りディッターがダンケルフェルガーにとって必要な手段で、ジギスヴァルト様に困らされていることをご理解いただけたようです。


「それから、ルーツィンデ様は王族の命令に逆らえない被害者であることは間違いないでしょうが、同時に元王族の命令で噂を広げ、一般の学生達を混乱に陥れている加害者でもあります。その自覚はあるのでしょうか?」


 わたくしの言葉にシャルロッテ様が少し眉を下げました。お友達だからこそ助けたいならば指摘しなければならないことだと思います。完全な被害者ではない以上、ルーツィンデ様を庇いすぎるとシャルロッテ様にも糾弾の目を向けられる可能性があるのですから。


「厳しいことを申し上げましたが、本来の嫁盗りディッターならばダンケルフェルガーと求婚者の領地だけで完結することでした。これほど広範囲に影響が出ていることに関しては対策が必要でしょう。お父様やツェントに相談してみようと思います。有益な情報の数々、ありがとう存じます」

「恐れ入ります。わたくしも色々と気付いていなかったことがあったので、ハンネローレ様とお話しできて幸いでした」


 フッとシャルロッテ様の表情が緩みました。わたくしも真面目で面倒な話し合いの終わりを感じて少し肩の力を抜きます。


「エーレンフェストは上位領地と交流があることから色々と相談されることも多かったのです。その関係はお姉様が構築したものですから、お姉様がいらっしゃらない今は困ることも多くて……。早く戻ってほしいと思わずにいられませんでした」


 図書委員の活動の中でローゼマイン様を通じてわたくしやヒルデブラント様と意見交換できれば、これほど噂が広がる前に止められたでしょうとシャルロッテ様がおっしゃいます。


 ……そういえば、今年は何かと忙しくて図書館へ足を運んでいませんね。


 シュバルツやヴァイスの魔力供給は大丈夫なのか、不意に心配になりました。その直後、上級司書が何人か配置されたことを思い出します。ソランジュ先生からのお願いもないので、問題なく運営されているのでしょう。


「ローゼマイン様に早く戻ってほしいとわたくしも思います。ご相談したいことがたくさんありますもの」

「ハンネローレ様はお姉様が今どちらにいらっしゃるのかご存じですか? どうやらエーレンフェストの過去にいらっしゃったようで、何人か過去の記憶を取り戻した方がいるのです」

「まぁ……」


 わたくしは驚きの声を上げましたが、それほど驚いたわけではありません。ローゼマイン様がフェルディナンド様の糸を繋ぐために過去へ行ったことを知っているので、エーレンフェストに現れる可能性は高いと思っていましたから。


「城にある森でわたくしのおじい様に当たる先代領主の護衛騎士達をお姉様が動員し、様々な素材採集をしている姿を目撃した記憶が戻った方がいるそうです。お姉様が何を目的として動いているのかわかりませんけれど」


 シャルロッテ様の言葉にわたくしはニコリと微笑んで頷きます。ローゼマイン様の目的を考えると、エーレンフェストの城でフェルディナンド様が命の危機に陥っていたのだと思います。側近がいる中で領主候補生が命の危機に陥る状況などあまり想像できませんが、すでにローゼマイン様が糸を全て繋ぎ終えていることは知っています。上手く対処したのは間違いありません。


「ローゼマイン様が戻った時にお話を伺うのが楽しみですね」

「えぇ」


 そこにオルドナンツが飛び込んできました。皆が白い鳥の動きに注目します。お茶会室の中をくるりと回ったオルドナンツは、わたくしの手に降り立ちました。


「ローゼマインです」


 白い鳥から聞こえるのは間違いなくローゼマイン様の声です。皆が息を呑み、口元を押さえてオルドナンツの声を聞き漏らさないように注目しています。周囲にいる者にも声が届くオルドナンツで重要なお話をされるわけがありません。それがわかっていても、何となく体中に力が入ってしまいます。


「ハンネローレ様、ただいま戻りました。レティーツィアやフェルディナンドが色々お手間をかけたと伺っています。お話ししたいことがあるのですが、できるだけ早めにお時間をいただけませんか?」


 三回繰り返したオルドナンツが黄色の魔石に戻ると、その場にいた全員が一斉に息を吐き、体の力を抜きました。


「……驚きましたね。まさかお姉様のお話をしていた今オルドナンツが届くなんて……」

「本当に……。でも、無事にお戻りになったようで安心いたしました」


 顔を見合わせてフフッと笑い合った後、シャルロッテ様が少し考えるように視線を上に向けました。それから、苦笑気味にわたくしを見つめます。


「ハンネローレ様、今日はもう終わりにいたしましょう。お姉様と話し合いをするための打ち合わせや準備があるでしょう?」

「……よろしいのですか?」

「えぇ、重要な情報交換や相談は終わりましたもの。ヴァネッサ、支度を」


 シャルロッテ様は筆頭側仕えに声をかけ、帰り支度をするように命じます。わたくしも必要な情報交換を終えたので、お茶会を終えることに問題はありません。


「気を遣わせてしまい、申し訳ございません」

「いいえ、お気になさらず。……その、これから大変なのはハンネローレ様だと思いますから」

「え?」

「お姉様が長い不在になった後は様々なことが急激に動くことが多いのです」


 シャルロッテ様は頬に手を当てて、ほぅと息を吐きます。


「去年は礎の魔術を攻める方法に気付き、お姉様の帰還直後からエーレンフェストでは防衛戦の準備を始めました。ダンケルフェルガーに助力をいただくことになり、最終的に中央の戦いまで発展したことはハンネローレ様もご存じでしょう? 今年も嫁盗りディッターが控えていますし、ディッターに関係のない領地まで緊張状態になっています。何もないかもしれませんが、何か起こるかもしれません」


 シャルロッテ様が助言か脅しかわからないようなことをおっしゃいました。何が起こるのかわからない怖さがわたくしの側近達にも一気に広がっていきます。


「あの、シャルロッテ様。それは……」

「何かあればアレキサンドリアにいらっしゃる叔父様に相談するのが一番です。お父様はお姉様のお話を聞く時にいつも叔父様を同席させていましたから」


 ……ま、待ってくださいませ。余計に不安になるのですけれど。


 そもそもフェルディナンド様は貴族院に来ることをあれほど秘匿していた方です。とてもローゼマイン様との話し合いに同席してほしいとお願いできません。


「エーレンフェストにいるお姉様の側近に無事のお戻りを早く教えてあげたいので、失礼いたしますね。社交期間も近付いていますし、お姉様を交えてまたお茶会をいたしましょう」


 シャルロッテ様は側近達を連れて笑顔で去っていきました。残ったわたくしと側近達はテーブルにあるオルドナンツの黄色の魔石を見つめます。


「コルドゥラ、どうしましょう?」

「どうしようも何も……。神々の世界でのお話があるはずです。お断りなどできるわけがありません。ローゼマイン様がお待ちでしょうから早くお返事なさいませ」


 アウブ・アレキサンドリアではなく女神の化身としての話し合いになるため、ツェントと同じくらい優先しなければならないと言われ、わたくしは黄色の魔石を手にしました。それからシュタープを出して軽く魔石を叩けば、手の上で白い鳥に変化します。


「ローゼマイン様、ハンネローレです。おかえりなさいませ。わたくしもローゼマイン様とお話したいことがたくさんあるのです。お招きいただけるならば、いつでもお時間を空けますよ」


 シュタープを振ると、オルドナンツがお茶会室の壁を通り抜けて飛んでいきました。


ダンケルフェルガーに忖度して交流に支障を来している他領の方々。

シャルロッテは「ハンネローレ様に取り成しを……」と頼まれて溜息。

ダンケルフェルガーと仲が良いのはお姉様なんですよね……。

お互いの状況を共有できたところにローゼマインが帰還しました。


次は、報告と相談です。

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― 新着の感想 ―
いくら王族とか神族レベルとはいえ、いつでもと返事するのは……w もう少し頑張って!w
ロゼマさん「待たせたな。」
いつでもどこでも台風の目となるローゼマイン。 だって、自重は随分前に捨てたもんね。
感想一覧
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