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レティーツィアの相談事

 どうやらレティーツィア様はとても急いでいたようで、いくつか挙げた候補日の中で翌日の講義のない時間帯を指定してきました。よほどのことが起こったようです。


「時間はありませんでしたが、レティーツィア様やアレキサンドリアについて何か情報は得られましたか?」


 夕食後、わたくしは自分の側近に集めさせた情報を聞き取ります。お茶会の前に一通りの情報を得ておかなければ相談に乗ることはできません。


「本日はヒルデブラント様とお茶会をしていたようです。詳細はわかりませんが、おそらくそこで何かあったのではないでしょうか? マディリッサ、一年生の講義中の様子はどうですか?」


 側仕え見習いのアンドレアの情報に頷き、一年生の上級側仕え見習いのマディリッサが講義中の様子を教えてくれます。


「ローゼマイン様のご指導もあるのでしょうけれど、レティーツィア様は講義を終えるのが早いです。ローゼマイン様が不在になってからはアレキサンドリアの学生と一緒に過ごしていました。最近はヒルデブラント様と会話する様子がよく見られるようになってきました」


 ヒルデブラント様の名前が出たことに、わたくしは少しだけ眉を寄せました。


「……わたくしが奉納舞のお稽古の時に婚約者としてレティーツィア様を守るようにヒルデブラント様に言ったからでしょうか」


 婚約者同士が歩み寄れれば……と思って言ったことですが、もしかするとヒルデブラント様の言動がレティーツィア様にとって何らかの害になっていて、間を取り持ったわたくしに相談したいのかもしれません。


「うーん、どうでしょう? ラオフェレーグ様が領地へ呼び出されて不在になったことが原因だと思います。ラオフェレーグ様が嫁盗りディッターに申し込んだ頃からヒルデブラント様は接触を減らしていて、講義中に時間を潰すための話し相手をレティーツィア様に変えたような印象があります」

「マディリッサ、それまでヒルデブラント様とレティーツィア様に交流はなかったのですか?」

「講義前後の交流は挨拶程度だったと思います。ラオフェレーグ様の動向に気を付けるように言われていたので、あまりレティーツィア様やヒルデブラント様に注目していませんでした。申し訳ありません」


 謝るマディリッサに「嫁盗りディッターのこともあるので、今後は他領の動向によくよく気を付けるように」と注意だけして、わたくしは他の側近達へ視線を向けました。


「他に何かありますか?」

「レティーツィア様にドレヴァンヒェルが接触を試みているという情報がありました。ハンネローレ様はオルトヴィーン様から何か聞いていらっしゃいますか?」


 イドナリッテの言葉に、わたくしは「いいえ、何も……」と首を横に振ります。


「アレキサンドリアは嫁盗りディッターに参加しませんもの。ディッター関係のお話でなければ、オルトヴィーン様はわたくしに相談などいたしませんよ。ドレヴァンヒェルがレティーツィア様に接触しているならばローゼマイン様の情報を得るためではないかしら?」


 異性が近付く理由は婚約者を探していることが一番多いのですが、レティーツィア様は王命でヒルデブラント様と婚約しています。ドレヴァンヒェルの接触が婚姻を目的としたものではないでしょう。


「ローゼマイン様がいらっしゃらない今、情報を欲する方がレティーツィア様に接触を試みるのは当然ですけれど……社交の経験に乏しい一年生では荷が重いでしょうね」


 同情せずにいられません。レティーツィア様には守ってくれるローゼマイン様がいらっしゃらないのです。もちろん上級生の上級貴族が側近にいるでしょうけれど、身分が違うので他領の領主候補生からの誘いを断ったり質問を回避したりするのが難しい面があります。

 もし今の内にレティーツィア様との間で何かしら約束を交わせば、戻られたローゼマイン様と繋がりを得ることも容易になりますし、約束の内容によっては責任を求めることも可能になります。


 ……わたくしは誰にも言っていませんが、アレキサンドリアにはフェルディナンド様もいらっしゃらないのですもの。


 正確には意識を失っているだけではなく、存在が半透明になっていると聞きました。どういう状態にせよ、レティーツィア様にとって領地にさえ相談できる領主一族がいないという状況は変わりません。

 それに、今はまだ社交期間に入っていないので講義を理由にお茶会を断れますが、社交期間が始まってしまうとアウブが不在の新領地では上位領地からの誘いを全て断ることなどできないでしょう。


「レティーツィア様を守ると姫様はおっしゃいますし、第一位のダンケルフェルガーが庇えば簡単に済むことは多いと思います。けれど、内政干渉と周囲から誹られない範囲でお願いしますね」

「……周囲に誹られない範囲ですか」


 コルドゥラに釘を刺され、範囲の曖昧さに眉を寄せたわたくしと違って、文官見習い達は揃って「あぁ……」と納得したような声を出しました。


「ジギスヴァルト様から指示を受けたコリンツダウムの学生達が色々と動き回っていますから。他領との関係には嘴を挟んできそうです」

「些細なことを咎めたてられる可能性があると考えれば、慎重な行動が求められますよ」


 側近達からも色々と注意された上で、わたくしはレティーツィア様とのお茶会に臨むことになりました。




「ハンネローレ様、早々にお時間を取ってくださって本当にありがとう存じます」


 わたくしがアレキサンドリアのお茶会室へ赴くと、レティーツィア様が碧眼を緩ませ、明らかにホッとした顔で出迎えてくださいました。席に案内されると、すでに盗聴防止の魔術具が準備されています。わたくしはそれを手に取りました。お茶やお菓子の毒見を終えると、早々に本題に入ります。


「お急ぎの相談のようですが、アレキサンドリアで何かございましたか?」

「いいえ、領地の方はローゼマイン様とフェルディナンド様の側近を中心に何とか対応できているようです。ハンネローレ様のおかげで旧アーレンスバッハの貴族達が多少落ち着いたらしく、皆が感謝しています」

「わたくしのおかげと言われましても……何かしたでしょうか?」


 特に覚えのないわたくしに、レティーツィア様が「ハンネローレ様の情報のおかげなのです」と微笑みました。


「貴族院に学生が集まる時期は冬の社交界の真っ只中ではありませんか。一年の中で最も領地の城に貴族達が集まります。その中で突然フェルディナンド様が半透明になり、ローゼマイン様が女神様の呼び出しを受けて去ったわけですから、アレキサンドリアの貴族達に隠すことはできませんでした」


 わたくしでも予想できたように、フェルディナンド様が倒れ、ローゼマイン様が不在になったことで暴走する貴族が出てきたようです。アーレンスバッハの時代に権力があり、新領地の体制に不満を持つ貴族がレティーツィア様を中心にアーレンスバッハを再興させる絶好の機会だと言い出したそうです。


「不満を持つだけではなく、城に残っているローゼマイン様やフェルディナンド様の側近達の妨害を目論んだり、領主一族の居住区域に忍び込もうとしたりする者も出たと聞きました」


 けれど、彼等がいくらレティーツィア様を擁しようとしても、彼女は彼等を拒否してツェントを後ろ盾とし、領地に戻ることなくローゼマイン様の側近と行動を共にしていました。


「そんな中、ローゼマイン様が女神様のご命令でフェルディナンド様の切られた糸を繋いでいることをハンネローレ様が教えてくださったでしょう? それも、ダンケルフェルガーに失われていた記憶の戻った方がいらっしゃるという証拠と共に……」


 わたくしはレティーツィア様やリーゼレータと行った情報交換を思い出しました。ラオフェレーグが報告書を溜め込んでいなければ、もっと早くにお知らせできたかもしれません。ついでに、必死になって処理しなければならなかったことも思い出してしまって少し苛立ったので、想像の中でラオフェレーグに特別指導を行います。


「もしハンネローレ様からもたらされたのが何の根拠も証拠もない情報ならば、貴族達の暴走は止まらなかったかもしれません。その後、クラッセンブルクやエーレンフェストでもローゼマイン様の記憶が戻った方がいらっしゃるという情報も入ってきました」


 クラッセンブルクに関しては奉納舞のお稽古の時にジャンシアーヌ様が口にしていたことでしょう。それだけはなく、エーレンフェストでも記憶の戻った方がいらっしゃるようです。


 ……まぁ、フェルディナンド様の糸を繋ぐためにローゼマイン様が過去へ向かったのですから、エーレンフェストに行くのは当然ですよね。


「それに、ハンネローレ様がわたくしの後ろ盾についてくださったでしょう? それも非常に大きかったのですよ」


 いずれローゼマイン様がお戻りになること、フェルディナンド様が元に戻ること、それまでに領地を荒らせばダンケルフェルガーやツェントの介入が起こることなどが明らかになったことで貴族達が落ち着いたとレティーツィア様は言います。


「フェルディナンド様達が戻られた時に処分される方が怖いと思うのですが……と、ローゼマイン様の側近達が貴族達を脅して回った効果もあったようです」


 ……明らかにフェルディナンド様の処分の怖さが一番効果ありそうですけれど、ダンケルフェルガーの騎士達の言動が役に立つこともあるのですね。


「お役に立てて何よりですけれど、領地の方に問題がないならば相談事とは何でしょう? もしかして奉納舞のお稽古でわたくしがヒルデブラント様に側にいるように言ったことで何か不都合でもございましたか?」


 わたくしの言動で何かあったのではないかと一番気になっていたことを口にすると、レティーツィア様は「いいえ。そのようなことは……」とすぐに否定しました。自分が原因ではなかったことに、わたくしはホッと胸を撫で下ろしました。


「ハンネローレ様が引き合わせてくださったのを切っ掛けに、わたくしとヒルデブラント様は少しずつ婚約者として歩み寄ることができています。実は、昨日がヒルデブラント様と初めてのお茶会でした。交流を持つ方が元王族の威光を使いやすいとおっしゃって……」


 微笑んで語るレティーツィア様の表情にはヒルデブラント様との隔意は見当たりません。ラオフェレーグが不在だから……と言う者もいましたが、お二人が婚約者として歩み寄れるならば、それに越したことはないでしょう。


「その、お茶会で話題に上がったのですが、ヒルデブラント様がラオフェレーグ様とどのように接するべきか悩んでいらっしゃいました」

「ヒルデブラント様が?」


 わたくしが少し首を傾げると、レティーツィア様は一つ頷いて説明してくださいます。


「ラオフェレーグ様はハンネローレ様に求婚して嫁盗りディッターの参加者になったのですよね? けれど、ダンケルフェルガーの領主候補生のままでしょう?」


 嫁盗りディッターに申し込んだ求婚者はアウブ・ダンケルフェルガーに楯突く無礼者。ならば、ラオフェレーグも無礼者であるはず。それなのに、申し込んだことを声高に語るラオフェレーグはツェントのお知らせがあった後も講義などに出続けました。それが、領地として特に対処していないように見えていたそうです。


「ブルーメフェルトはマグダレーナ様を通じてダンケルフェルガーから援助を受けている関係上、アウブの方針で嫁盗りディッターに申し込んだ領地とは個人的な交流を持たないようにしているそうです。ラオフェレーグ様をダンケルフェルガーの領主候補生と、ハンネローレ様への求婚者のどちらの立場で扱うべきかわからない、と……」

「なるほど。それはヒルデブラント様を困らせてしまいましたね」


 ラオフェレーグに味方する貴族の炙り出しや婚約者候補達の動きを確認するために放置されていたことで、周囲の者を困らせていたようです。


「……それで、最近ラオフェレーグ様がお休みされているのは、領地に戻されたのではないかとヒルデブラント様は予想されています」


 今後ラオフェレーグと付き合いをしなくても問題ないかという問いでしょう。わたくしは少し考えました。他領の動向を考えると、まだラオフェレーグへの対応を変えてほしくありません。


「ラオフェレーグは週明けに戻ってくる予定です。あくまで具合が悪くて領地に戻っていただけですから。わたくしにとっては異母弟になるので、それほど交流がなくて詳しくはないのですけれど……」


 そこで言葉を切って、わたくしはニコリと微笑みました。


「でも、そうですね……。ラオフェレーグは嫁盗りディッターに出ないことになりましたが、これからも仲良くしてくださることをダンケルフェルガーは望んでいます、とヒルデブラント様にお伝えください」


 ダンケルフェルガーの風習に詳しければ、ラオフェレーグが敗退したこと、アウブが完全に排除するつもりではないことがわかるでしょう。もしヒルデブラント様にわからなくても、マグダレーナ様に質問すればよいだけです。


「わかりました。明日の講義でヒルデブラント様に伝えます。それで、その、ハンネローレ様。わたくしがご相談したいのはお兄様のことなのです」


 レティーツィア様が少し困ったように眉を下げました。


「お兄様? レティーツィア様のお兄様と言えば、旧アーレンスバッハの元領主候補生では? 処罰を受けたはずの異母兄が何か動き出したということですか?」

「い、いいえ。違います。ドレヴァンヒェルの領主候補生のランスリット様がわたくしの実兄で……」

「ドレヴァンヒェル……? あぁ、そういえばレティーツィア様は養女でしたね」


 ……ランスリット様は四年生ですから、オルトヴィーン様にとっては異母弟ですね。そういえば、ランスリット様は養子縁組で領主候補生になった方では?


 わたくしが脳内でランスリット様やレティーツィア様の養子縁組に関する情報を引っ張り出していると、レティーツィア様が説明してくれます。


「わたくしのお父様はドレヴァンヒェルの領主一族で、生まれはそちらなのです。洗礼式前に母方の祖父である先代のアウブ・アーレンスバッハとその第一夫人だった祖母の子として養子縁組をしました」


 確か、政変の粛清によってアーレンスバッハの第二夫人が亡くなり、次期領主と目されていた第二夫人の息子が二人とも上級貴族に落とされ、第三夫人の息子も事故で亡くなり、領主一族が激減したことが理由だったはずです。


「領地の将来を不安に思ったおじい様が、当時のツェントに孫との養子縁組を願い出たそうです。その頃にはもうお兄様はアウブ・ドレヴァンヒェルと第二夫人の子として養子縁組することが決定していました。そのため、お父様とお母様はわたくしを手元に置いておきたいとかなり渋ったようです」


 グルトリスハイトを失った当時、大領地アーレンスバッハの存続はユルゲンシュミットにとって必要でした。レティーツィア様の養子縁組はほぼ王命だったそうです。その代わり、レティーツィア様を確実に次期領主とするために、ディートリンデを中継ぎのアウブにすること、第三王子を配偶者にすることなどが約束されたそうです。


「お兄様と少し年が離れている上に幼い頃に養子縁組をしたので、交流はほとんどありませんでした。先代領主がはるか高みに続く階段を上がっていくまで、両親は時々アーレンスバッハの城へ様子を見に来てくれました。けれど、お兄様にとっては養母である第二夫人との関係の方が大事だったのでしょうね。王命での婚約が決まったお祝いから始まり、お手本のような社交辞令の手紙が季節毎に届くだけでした」


 ランスリット様とは今年の貴族院で久し振りに顔を合わせたらしく、名乗られなければ顔だけではわからなかったと、レティーツィア様は寂しそうに微笑みました。


「王命での婚約が決まってから、ですか? 養子縁組の時点でアーレンスバッハの次期領主とされていたのですから、もっと頻繁に行き来して関係を深めておく方が将来のためですし、養母である第二夫人もランスリット様を頼りにしたでしょうに……」

「亡くなったわたくしの筆頭側仕えのロスヴィータもハンネローレ様と同じ意見でしたね。それに、洗礼式のお祝いはなかったのに、次期領主に決まったから繋がりを持とうとするなんて……と憤慨していました」


 懐かしそうに、同時に涙を堪えるようにレティーツィア様が目を細めました。筆頭側仕えが亡くなってまだ日が浅いのかもしれません。わたくしは筆頭側仕えのことには触れず、ランスリット様に話題を移します。


「そのランスリット様がどうされましたの?」

「以前からアレキサンドリアの情報やローゼマイン様との繋がりを得ようとわたくしに接触してきていたのですけれど、ここ最近になって突然トラオクヴァール様の王命を盾に、わたくしをアレキサンドリアの領主にしてやろうと言い出しまして……」

「それは驚きますね」


 わたくしとレティーツィア様は顔を見合わせたまま揃って溜息を吐きました。考えをまとめるためにお茶をゆっくりと飲みます。


「おそらくローゼマイン様が不在の間にアレキサンドリアでの影響力を持ちたいと考えているのではないでしょうか。もしくは、ローゼマイン様の力を削ごうとしているだと思いますけれど……。ここ最近になって突然というのが不思議ですね。最近とは具体的にいつですか?」


 わたくしが質問すると、レティーツィア様が少し考え込みます。


「ツェントから嫁盗りディッターに関するお話があった後ですね。それに、奉納舞のお稽古の後からハンネローレ様とお兄様の間を取り持ってほしいとか、婚約者であるヒルデブラント様と共にお茶会に参加するようにとか……実兄なのだから協力しろとおっしゃるのです」


 ここで断ると、ドレヴァンヒェルとの関係が悪化してローゼマイン様に迷惑がかかるかもしれないとレティーツィア様は困り顔になりました。


「ドレヴァンヒェルの両親に相談できれば嬉しいのですけれど、お手紙は誰に見られるかわかりませんから……」

「同母の兄妹ではありますけれど、ランスリット様はドレヴァンヒェルの領主候補生で、レティーツィア様はもうアレキサンドリアの領主候補生です。キッパリとお断りなさいませ」


 わたくしの言葉にレティーツィア様が目を丸くしました。


「断ってしまってよいのでしょうか?」

「同母の兄妹だから何もかも協力しなければならないわけではありません。レティーツィア様は領地を隔てているのですから、アレキサンドリアの事情を優先するのが当然です。それに、お兄様と呼ぶのも止めて、他領の方としての扱いをなさいませ」


 わたくしはルングターゼに呼ばれて初めて知りましたが、「お兄様」や「お姉様」と呼ばれると相手を弟妹として扱いたくなるのです。慕わしく思っているならばともかく、距離を取りたいならば呼び方から変えた方がよいでしょう。


「ハンネローレ様にそう言っていただけて安堵しました。ランスリット様にはキッパリとお断りいたします」


 レティーツィア様の顔がとてもすっきりした印象になりました。疎遠だった実兄からの要望が重くのしかかっていたことがよくわかります。


「それから、ランスリット様がハッキリと言ったわけではないのですが……。どうやらオルトヴィーン様を排除すればランスリット様か第二夫人の息子を次期領主にしてやるとか、嫁盗りディッターでドレヴァンヒェルはコリンツダウムに協力しろ……という意味合いのことをジギスヴァルト様に言われているようです」


 ここでジギスヴァルト様の名前が出てくると思わず、わたくしは顔を顰めてしまいました。


「正確にはコリンツダウムの学生でしょうけれど……。アウブ・コリンツダウムが何やら暗躍しているのは間違いなさそうですね」

「はい。ヒルデブラント様もコリンツダウムやランスリット様に協力を求められて断ったそうです」


 ヒルデブラント様はジギスヴァルト様の異母弟です。コリンツダウムとしてはできるだけブルーメフェルトを取り込みたいでしょう。トラオクヴァール様は領地の方針として断っているようですけれど。


「ヒルデブラント様は領地の方針なので、婚約者であるわたくしの望みでもドレヴァンヒェルやコリンツダウムと個人的な交流を持つことはないとおっしゃいました。そして、わたくしにもランスリット様の言葉を鵜呑みにせず、できるだけ早くハンネローレ様に相談するように助言してくださったのです」


 それで、レティーツィア様は急いで相談してきたのでしょう。ヒルデブラント様はダンケルフェルガーの方針によるけれど、求婚者であるオルトヴィーン様との交流を禁じられても実兄ならば接触が許されるかもしれないとおっしゃったそうです。


 ……今回ダンケルフェルガーが共闘するのはオルトヴィーン様なのです。ランスリット様の接触はあり得ませんね。


 心の中ではそう言いますが、共闘について漏らすことはできません。



「ランスリット様に関する相談はそれだけですか?」

「そういえば、ジギスヴァルト様が第二の女神の化身であるハンネローレ様を娶り、グルトリスハイトを得て次期王になるというお話も聞きました。そのため、ドレヴァンヒェルの次期領主の後押しになるそうです」

「……初耳ですね」


 女神が降臨したことで第二の女神の化身としてローゼマイン様と同様のことを求められる可能性については考えていましたが、そこまで具体的な噂を聞いたことはございません。


「嫁盗りディッターが行われるのに、ジギスヴァルト様が娶ると決まっているなど変だと思いまして……。ハンネローレ様にそのような予定はございますか?」

「予定もありませんし、そもそもわたくしにグルトリスハイトを授けるような力はありませんよ。わたくしに降臨したのは英知の女神ではなく時の女神です」


 エグランティーヌ様が授けられたのは魔術具のグルトリスハイトで、本来の意味でのツェントではないことも知っていますが、わたくしはニコリと微笑んで言い切ります。


「レティーツィア様、ごめんなさいね。わたくし、ジギスヴァルト様と親交を持つ方とは仲良くできません。何より、時の女神が降臨した者にグルトリスハイトを与えられるなどというお話を真に受けるなんて……。神学のお勉強が足りず、虚偽に踊らされる方がアウブでは危うく思えてなりませんもの」


 レティーツィア様が橋渡しをしてもランスリット様とは交流しないと断りながら、わたくしはダンケルフェルガーで起こっていた戦力の分断がドレヴァンヒェルでも起こっている可能性に気付きました。


 ……もしかするとジギスヴァルト様はラオフェレーグと同様の手口でドレヴァンヒェルの力を分断しようとしているのでは?


 嫁盗りディッターの出場対象者が領主一族とその護衛騎士である以上、領主一族を分断できれば大きく戦力を削れます。


 ……ダンケルフェルガーがオルトヴィーン様と共闘する以上、見逃せませんね。早々に情報共有をしなければ……。


レティーツィアの相談事に色々と詰め込んでみました。

彼女の実兄はオルトヴィーンと対立する異母弟の一人でした。

こそこそと暗躍しているジギスヴァルトの狙いとは?


次回は、オルトヴィーンとの情報共有です。

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― 新着の感想 ―
アドルフィーネが好きです(笑) 是非ジギスヴァルトに鉄槌を!
ジギスヴァルトはものの見事に懲りない小物で固着してますねえ。もう奴の持ち物全部金粉化させてしまえ。
>想像の中でラオフェレーグに特別指導を行います。 ハンネローレ様……! ジギスヴァルトはうっとうしいなぁ。貴族的には有能なのかもしれないけど、相手はダンケルフェルガーなんだよ?
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