あやふやな気持ちと立場
コルドゥラからお母様に送った書簡の返事が来るまで、わたくしはどうにもあやふやな自分の気持ちについて考えていました。ケントリプスもラザンタルクも幼い頃から親しくしているし、嫌いではありません。婚約者候補を決められた頃に感じていた気まずさはほとんどなくなっています。それでも、恋でないと思うのです。
……わたくしが間違いなく恋だと思ったローゼマイン様でさえ、恋ではないとおっしゃいましたもの。
ただ一人の命を救うために他領へ乗り込み、礎の魔術を奪うほどの情熱でも恋ではないならば、一体どのような感情を恋と言うのでしょうか。少なくともわたくしがケントリプスやラザンタルクに対して抱く親しみが恋と全く違うことはわかります。
今の心情で二人の内のどちらかを選べと言われても困るのです。二人の内から選べという前に、まず恋の仕方を教えてほしいものです。
……恋物語にもどうしたら恋になるのか書かれていませんもの。
恋物語には不意に気付くとか、一目で恋に落ちた場面などが印象的に書かれていますが、今のわたくしには全く参考になりません。どうすれば婚約者候補に恋愛感情を抱けるようになるのでしょうか。
「ハンネローレ姫様、ジークリンデ様から回答が届きました。側近達へのお言葉もあるので、講義の後で会議室を準備いたします」
数日後、コルドゥラはお母様から届いた回答に目を通し、少し眉を顰めた後でそう言いました。お母様の言葉が気になってそわそわとした気分で講義を終えて、わたくしは側近達と一緒に会議室へ向かいます。
「こちらがジークリンデ様からの書簡です」
貴族院にいる側近達が会議室に全員集まると、コルドゥラはわたくしにお母様から届いた木札を見せてくれました。わたくしがそれを読み進める間に、コルドゥラはここ最近起こった出来事を簡単に側近達へ伝えています。
「選ばないこと自体が貴女の選択なのでしょう……ですか」
お父様やお母様はわたくしがケントリプスでもラザンタルクでもなく「自分では選ばない」という第三の道を選んだと判断したそうです。お父様が「ならば、ラザンタルクで問題なかろう」としたのは事実と書かれていました。
「それから、ハンネローレはケントリプスの扱いが理不尽だと義憤に駆られているようですけれど、わたくしはそう思いません。仮にケントリプスがアウブに婚約者として選ばれていた場合は、ラザンタルクが対外的に婚約者候補のままで据え置かれて貴族院中の安全を守ることになりましたから。嫁盗りディッターの宝となる第二の女神の化身をディッター前に奪われないことが今のダンケルフェルガーでは最優先です」
お母様の言葉を読めば、お父様やお母様がケントリプスの扱いを変えるつもりがないことがわかりました。何もかも諦めたような顔をしていたケントリプスに何もしてあげられないことに申し訳ない気持ちになりつつ、わたくしは先を読み進めていきます。
「ハンネローレが自分の立場と将来をよく考えるように導いてください。コルドゥラから課題の詳細を話しても構いません。おそらくハンネローレは自分で気付けないでしょう」
すでに大きな見逃しをしている気配を感じ、わたくしは木札から目を離して隣に立つコルドゥラを見上げました。
「コルドゥラ、これはどういう意味ですか? 婚約者を選ぶ上でわたくしが何か見落としているということですよね?」
「……そうですね。婚約者候補の二人は姫様のお心を欲していますから、姫様がお心のままに決めるならばそれでも構わないと思いましたし、気付くまで黙っているように言われていましたけれど」
フゥと溜息を吐く姿はわたくしが課題を上手くこなせない時にコルドゥラがよく見せるものです。背筋をヒヤリと冷たいものが通ったような心地がします。
「姫様、課題の意味をよく考えてください。自領に留まることになった立場の変化について、どこまで自分で気付き、考え、選べるのかをアウブは確認していらっしゃいます」
コルドゥラはわたくしに言いながら、側近達にも視線を向けました。
「姫様の補佐をすべき側近にも同じことが言えます。他領へ嫁ぐ予定だった姫様が婿を取ってダンケルフェルガーに留まることになりました。お立場の変化に加えて、アウブが姫様の相手にラザンタルクを選んだことを、貴方達は本当に自分事として真剣に考えていますか?」
ギュッと眉を寄せたルイポルトが「……ぅあ」と呻くような声を上げました。とんでもない失敗に気付いたような顔になった後、眉を寄せて額を押さえています。
「ルイポルト、何かわかったのですか?」
「……今まで通りではいけないということです」
文官見習いのルイポルトが何に危機感を覚えたのかわたくしにはわかりません。わたくしだけではなく、他の側近達もルイポルトに注目している以上、まだ彼以外の者は誰も気付いていないようです。
「ハンネローレ様はダンケルフェルガーに残って何をするのがお役目ですか?」
「何を……? お兄様やアインリーベの補佐をすることになりますよね?」
同母妹のわたくしに期待されている役目はお兄様やアインリーベの補佐のはずです。他に何かあったでしょうか。
「大まかにはその認識で間違いありませんが、レスティラウト様の補佐として具体的にどのような立場や仕事を求められているかハンネローレ様はわかりますか? おそらくアウブはそのための能力を確認されているのだと思います」
ルイポルトはコルドゥラの反応を確認しながら述べました。わたくしも他の側近達もつられて視線を向けます。コルドゥラは正解だというように一つ頷きました。
「お兄様を補佐するための能力……?」
「ハンネローレ様は他領へ出ることを前提に育てられました。我々側近もそれを前提に行動していました。けれど、自領に留まることになった以上、今までと同じではいけないのです」
婚約者候補の二人から選ばなければならないと思っていましたが、その先の生き方を考えたことはありません。二人の内のどちらかが婿入りするのですから、今まで通り領主一族として生きるだけだと思っていました。何を変えなければならないのか、やはりわかりません。
「……あ」
「アンドレア、何か気付いたのですか?」
声を上げた側仕え見習いのアンドレアに皆の視線が集まります。注目を集めたアンドレアは少し躊躇った後、口を開きました。
「ハンネローレ様に求められているのは、アインリーベ様の補佐というより第一夫人の代理ではありませんか?」
ルイポルトは理解できた仲間を得たように頷いていますが、わたくしにはよくわかりません。他の者も怪訝そうな顔をしています。
「どういうことでしょう? アインリーベ様は第一夫人ですよね?」
文官見習いのエルーシアが首を傾げて問いかけると、アンドレアが「えぇ」と一つ頷きました。
「アインリーベ様は今のところ第一夫人とされていますが、いずれ第二夫人になることを前提に婚姻していますよね。そして、ダンケルフェルガーの第二夫人の役目は領地内の貴族をまとめることで、第一夫人の役目は他領との交流や交渉です」
つまり、わたくしに他領との交流や交渉が求められるということでしょう。領主会議では上級貴族出身のアインリーベより領主候補生であるわたくしの方が、他領の方と交流を持ったり交渉したりする際には優位に動けます。
「領主会議への出席や他領との社交は元々他領へ嫁いだ時に求められる役目と同じですし、お兄様が正式に第一夫人を娶るまで代理を任されるのは不思議でも何でもありません。でも、それほど深刻な顔をする事態ではないでしょう?」
「第一夫人の代理を任されるハンネローレ様に同行するのが、我々ですよ」
深刻な声を出したルイポルトに、側近達が揃って血の気が引いた顔になりました。まだ理解できていないのは、わたくしだけのようです。
「……何か問題があるのですか?」
「ハンネローレ様の嫁入りに伴って我々は一度解散し、アインリーベ様やジークリンデ様の側近として異動するはずでした」
ルイポルトの言葉にわたくしは頷きます。知っています。女性側近は婚姻が近い者もいるので全員が異動するわけではありませんが、お母様と同派閥の領主一族に振り分けられる予定でした。わたくしが自領に残ることになり、側近の異動がなくなったため、アインリーベの新しい側近を選別し、教育しなければならないと聞きました。
「他領へ出ることが前提だったので、レスティラウト様に比べるとハンネローレ様はコルドゥラ以外の側近との距離感が少し遠いのです。何でもコルドゥラに相談されるでしょう?」
「新しい仕え先で改めて仕事のやり方を覚える予定だったので、ハンネローレ様の側近として領主会議に出席する予定ではありませんでした。急いで側近との距離感、執務の任せ方などを見直さなければなりません。他領へ嫁ぐまでの期間限定であれば問題ないとして流してきたことも、一生仕えるのであれば違ってくるのです」
アンドレアとルイポルトの言葉に、わたくしは胸元を押さえました。確かにわたくしも「他領に嫁げば……」と考えて受け流していた事柄が思い浮かびます。特に、自領での側近との関係構築は今まで疎かにしていたと言えるでしょう。
「側近にとっても様々な見直しが必要ですけれど、ハンネローレ様にとっても大きな違いだと思いますよ。他領へ嫁いだ時はそちらの側近が領主会議に出席しても問題ないように先回りして整えてくれますけれど、それがないのですから」
領主候補生の婚姻は領主会議の初日に行われます。そのまま全領地の領主夫妻への挨拶や社交などがあります。その際には嫁ぎ先の領地で付けられた側近達が、挨拶の順番や重視すべき領地関係を教えてくれますし、交渉や会話の受け答えも準備されています。
「自領に残るならば側近達に教えられるままに動くのではなく、ハンネローレ様が指示を出して全て整えなければなりません。来年には自領の利益や望みに関してすでにわかっている成人の領主候補生として扱われます」
エルーシアの指摘にわたくしは血の気が引いた側近達と同じような顔になりました。「ようやくですか」と少々呆れが混ざったコルドゥラの声が聞こえました。
「姫様は他領へ出るので、多少は情報を制限されていた部分もございます。他領のやり方を取り入れることを優先に考えられていたので、受け身で流されるところがあっても問題ないとされていました。けれど、自領の代表として領主会議に出るならば、それではダメなのですよ」
求められた通りではなく、自分で領地の利益を考えて動かなければならない。自領の利益について改めて教えられることはなく、すでにわかっているものとして扱われるとコルドゥラは言いました。
「常にわたくしを頼るのではなく、他の側近に問うこと、仕事を振ることを覚えなければなりません。それに、姫様はアインリーベ様の補佐をするのではなく、主導しなければなりません。それを見据えた上で派閥内の貴族との関係構築が望まれています」
……わたくしが主導……。よく考えてみれば当たり前なのですけれど、全く実感がありませんでした。
領主一族の中にも上下があります。ダンケルフェルガーでは領主であるお父様、領主の第一夫人であるお母様、先代領主であるおじい様、礎の魔術を継承して正式に次期領主になったお兄様、お兄様に他領出身の第一夫人がいればその方、それに続いて伯父様方を初めとした成人している自領の領主候補生、わたくしやラオフェレーグといった未成年の領主候補生、その後に領主の第二夫人、第三夫人、次期領主の第二夫人、第三夫人、自領の領主候補生の配偶者という順番です。
他領出身の配偶者は領地の順位も関係してくるので、多少扱いが考慮されることもありますが、大体はこの順番で席次などが決められます。アインリーベは暫定でお兄様の第一夫人とされていますが、次期領主の第二夫人です。わたくしがダンケルフェルガーに留まるならば、アインリーベより上の立場として指示を出すことを求められるのです。
「ハンネローレ姫様、貴重な機会です。皆と自領に残ることについて真剣に考えてください」
「……わたくし、まだ考えが足りないのですか?」
「えぇ、今の姫様に第一夫人の代理は務まりません。その意味をよく考えてください」
コルドゥラはそう言うと、口を閉ざしてルイポルトへ視線を向けました。それ以上、口を出すつもりはないのでしょう。コルドゥラの視線を受けたルイポルトが言葉を探すように一度軽く目を伏せた後、顔を上げて口を開きます。
「今アウブはハンネローレ様に領主一族としてどのような役目を任せるのか、能力の有無を確認されています」
ルイポルトの真剣な表情と硬い口調に、皆もつられて真剣な顔になっていきます。
「先程、第一夫人の代理を求められると言いましたが、正確ではありません。能力が足りれば第一夫人の代理を任され、レスティラウト様が他領から第一夫人を迎えた後はその方への教育係や第一夫人と第二夫人の緩衝役などがハンネローレ様の役目になると考えられます。代理期間中に実績があれば、引き続き領主会議で他領との交流をお願いされることもあるでしょう」
領主会議や貴族院の領地対抗戦などで領主の留守役を務める伯父様方が、状況によってはおじい様に留守を任せて領主会議へ赴くのでその様子は想像できます。
「しかし、ハンネローレ様に能力が足りないと判断されれば、自領へ不利益をもたらすと困るので不用意に領主会議に出せません。その場合、おそらくアインリーベ様の補佐として自領の貴族相手の執務を行い、第二の女神の化身という立場を使う時だけ領主会議に招かれる、実権のないお飾りになると予想できます」
ルイポルトの言葉に、コルドゥラが指折り数えていたお父様からの課題の一環が脳裏に蘇りました。自領と他領の認識の違いを理解できるのか。細かい言葉の違いを読み取り、それが先々にどのような影響をもたらすか予想できるのか……。その二つだけでも自分の能力が足りているとはとても思えません。
「ハンネローレ様は将来のご自分の立場や役目を考え、自分の不足を補える配偶者を選ぶべきなのです。レスティラウト様の文官であるケントリプスならば、領主会議での補佐も可能ですが、護衛騎士であるラザンタルクには事前の打ち合わせも期待できません」
「ルイポルト、少しラザンタルク様に厳しい言葉ですよ。わたくしも護衛騎士なので、自分が領主会議では役に立たないと言われているような気分になります」
ハイルリーゼがムッとしたような顔でルイポルトを窘めました。
「護衛騎士としての役職を貶めたつもりはありません。ただ、ハンネローレ様の配偶者は我々側近の待遇や将来にも大きく影響します。その点をハイルリーゼも真剣に考えてください」
「それは、その……。確かに領主会議で役に立つのは文官で間違いありません。けれど、婚約者を選ぶ基準としてはどうなのでしょう?」
ハイルリーゼの反論に、わたくしも同意します。
「ハイルリーゼの言う通りです。それに、わたくし、どちらに恋をしているわけでもなくて、気持ちがあやふやで決められなくて……まだ結婚自体を自分のこととして考えられなくて……」
そのせいでお父様にラザンタルクと決められたのです……と続ける前にルイポルトはニコリとした笑顔になって、「では、ちょうどよいですね」と言いました。
言葉を打ち切られたことにも「ちょうどよい」と言われたことにも驚いて、わたくしは「え?」と目を瞬かせました。
「ご自分の将来にとってより有益な相手を選ぶべきですから、余計な感情がないならば好都合ではありませんか」
「ルイポルト、いきなり何を言うのです!? 今までそのようなことは一言も言っていなかったでしょう?」
ハイルリーゼが食ってかかりますが、ルイポルトはしれっとした顔で聞き流し、黒い瞳でわたくしを見据えました。
「結婚自体を自分のこととして考えられないなどと言っていられる時期ではありません。貴女は領主候補生なのです。結婚相手を感情だけで選ばないでください。貴女の選択は我々側近にも大きく関係するのですから」
そう言われて、わたくしは緩く首を左右に振りました。
「その、お父様はラザンタルクに決めたと……」
「はい。それに関してはハンネローレ様が木札を読んでいる間にコルドゥラから説明されました。けれど、まだ正式に公表されていません。ハンネローレ様もラザンタルク様もご存じなかったことです。決定したとしても内々のこと。違いますか?」
ルイポルトの確認はわたくしではなく、コルドゥラに向けられました。コルドゥラが一つ頷きます。
「貴族院でハンネローレ姫様を守るために、嫁盗りディッターまで婚約者候補を絞らないように見せるそうです。姫様の婚約者が公表されるのはディッターの後になるでしょう」
「ならば、わずかですが、まだ付け入る隙があります」
ルイポルトは真剣ですが、とてもそうは思えません。
「お父様が内々に決めていることです。隙があるでしょうか?」
「あります。全力でこじ開けましょう」
何故そこまでルイポルトの目が据わっているのかわからなくて、わたくしにはどうにも不気味に思えます。わたくしはチラリと他の側近達へ視線を向けました。他の皆も彼の勢いに引き気味になっています。
「そもそも恋など、婚約後でも結婚後でもできます。今ハンネローレ様が思い悩むことではありません」
……え? わたくし、あれほど思い悩んでいたのですけれど!?
わたくしが思い悩むことではないと言われてポカンとしました。今まで散々婚約者候補のことを考えろとか選べと言われて思い悩んでいたのに、正反対のことを言われたのです。わたくしだけではなく、皆も呆気に取られています。
「ラザンタルクもケントリプスもハンネローレ様に想いを寄せていることは明白なのですから、彼等が恋に落とせるように努力すべきです」
「ルイポルト、それは極端すぎますよ」
止めようとしたアンドレアを振り切るようにルイポルトが口を開きます。
「そのような個人のあやふやな感情より、将来を見据えてください。貴女はダンケルフェルガーにおいてどのような立場で生きていくおつもりですか? 今のハンネローレ様にアウブが内々にラザンタルクを選んでいるということは、領主会議への出席は最低限。自領の騎士の相手を任せられるつもりだと考えられます。それで納得していらっしゃるのですか?」
ざわりとしたのは側近達でした。
「自領の騎士の相手?」
「……あの、ルイポルト。それは、もしかして、ディッターの金庫番の責任者では?」
ハイルリーゼが怖々と確認します。ディッターの金庫番は、ディッターの予算や経費を管理する部署です。ディッターをやりたがる騎士達をできるだけ抑え、却下できるものは却下して予算が嵩張りすぎないように苦心し、騎士達と経費の承認について喧々諤々の口論を行うという誰もが回避したい役職です。ディッターから逃れるためにダンケルフェルガーを出ることさえ考えていたわたくしが最も苦手とするところと言えるでしょう。
……わたくしがその責任者!?
ヒッと息を呑みました。ディッターの金庫番の責任者であれば、自領と他領の認識の違いを理解する必要も、細かい言葉の違いを読み取る必要もありません。自領の騎士だけ相手にしていればよく、領主候補生の地位があれば騎士達を抑えやすくなります。領地にとっては重要ですが、他領の者と接することはありません。他領との交渉には使えない領主候補生を就けるのに、これ以上相応しい役職はないでしょう。
「だから、私は絶望的な気分になったのです! 今のままではハンネローレ様の側近全員が問答無用で金庫番にされます」
「ルイポルトの必死さが今わかりました。何とか回避しましょう!」
「わたくしも絶対に嫌です、ディッターの金庫番だけは!」
ルイポルトの悲痛な声に側近達が揃って同意します。皆の気持ちはよくわかりますが、ルイポルトと同じように目を据わらせてこちらを見られると、圧が強くて思わず腰が引けてしまいます。
「お願いします、ハンネローレ様。結婚相手にはケントリプスを選んでください」
「大丈夫です。まだ公表されていないのですから。アウブが公表する前にハンネローレ様がケントリプスを選んだという既成事実を作れば良いのでは?」
「まずはケントリプスから求婚の条件を得ましょう。我々側近が全力で補佐します」
わたくしだって、ただでさえ暑苦しい騎士達がディッターに興奮して「予算を寄越せ」と押し寄せてくる部署の責任者になどなりたくありません。けれど、それを理由にケントリプスから求婚の条件を得ろと言われても困ります。
……ど、どうしましょう?
自分の気持ちがつかめないハンネローレ。
現状を理解して婚約者選びが他人事ではなくなった側近達。
現状を早々に理解していたので、それとなくケントリプスを推していたコルドゥラ。
次は、側近達の協力です。




