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奉納舞

「おはようございます、ハンネローレ姫様。今日は午前中がお休みで、午後から奉納舞のお稽古の予定になっています。ちょうど良いですね。午前中にルイポルトと協力して書類仕事を終えてください」


 コルドゥラが本日の予定を述べます。確かに昨夜のディッターに関する書類仕事は早々に終える方が良いでしょう。午前中の共通の座学が終わっていて幸いでした。


「最高学年のエルーシアが実技で不在なのが残念ですね。午前中の座学を終えている三年生や一年生の文官見習いにも教育を兼ねて書類作成をお願いしたいのですけれど、ルイポルトだけで教育ができるかしら?」

「時間はかかるでしょうけれど、できると思いますよ」


 寮で訓練を兼ねて行われる学生のディッターと、アウブの命令で政治の一環として行われるディッターでは申請書や報告書の提出先が違うのです。ルイポルトが教えながら作成するのであれば、ディッターの報告書と魔術具の品評会の申請書を作成するだけで午前中が終わってしまいそうです。


「では、食堂へ参りましょう」


 朝食のために食堂へ向かうと、昨夜のディッターに関する報告書や申請書の提出についてディッターの代表者であるラザンタルクとラオフェレーグにも話をします。


「寮で行いましたが、アウブの指示によるディッターです。いつもと違って早々に城へ提出しなければディッターの金庫番に叱られますからね」

「そのようなことを私に言わないでください。書類作成は文官の仕事ではありませんか」


 反射的に文句を言っているラオフェレーグの肩をそっと押しやりながら、彼の筆頭側仕えが「かしこまりました」と主の代わりに了承しました。


「ラオフェレーグ様はアウブから帰還命令が出たため、午前中に書類作成をして午後は領地に帰還する予定です。奉納舞は欠席いたします」


 お父様と今後の方針や禁止事項について話し合わなければラオフェレーグを他領の者と接触させられないのでしょう。わたくしは一つ頷くと、今後のことを何もわかっていないラオフェレーグをチラリと見ました。


「ディッターの書類仕事を覚えなければディッターに参加できないことも教えておいた方が良いですよ。ラオフェレーグが側近の手助けを得られるのは貴族院にいる間だけですから」


 筆頭側仕えだけではなくラザンタルクも頷いていますが、わたくしは知っているのですよ。ラザンタルクも面倒な書類作成を側近仲間に任せきりだということを。


「ラザンタルクもケントリプスに任せてばかりではなく、自分のディッターの後始末くらいは自分でしてくださいね」

「……うっ」

「私は午前中に実技があるが、ハンネローレ様のおっしゃる通りラザンタルクは午前中に書類作成を頑張ろうな」


 息を呑んだラザンタルクの肩を、にこやかな笑顔のケントリプスがガシッと押さえました。




 カラーン、カラーン……と四の鐘が鳴りました。


「はい。書類はこれで問題ありません。領地へ送ってください」


 コルドゥラは承認を終えると、一年生の文官見習いに転移陣の間へ持っていくように命じました。ルイポルト達が文具を片付け、側仕え達は会議室を片付け始めます。


「予想していた通りお昼までかかりましたね。午後は奉納舞なので、昼食の後に着替えなければなりません。姫様はお急ぎくださいね」


 コルドゥラに急かされながら昼食を摂り、着替えて小広間へ向かいます。領主候補生は奉納舞のお稽古ですが、他は剣舞と音楽に分かれます。


「オルトヴィーン様とお話しするのですか?」


 ラザンタルクが小広間までわたくしをエスコートしながら不安そうに問いました。


「他学年の領主候補生がいる場でそのお話が出るかどうかわかりませんが、お父様に意見を伺うために時間をいただきましたもの。お返事を避けることはできないでしょう? それほど心配しなくても今度は断りますよ」

「オルトヴィーン様がこちらの予想以上に強引なので警戒してしまうのです。……其方は心配にならないのか、ケントリプス」


 わたくしの左側にいるケントリプスに向かってラザンタルクが声をかけますが、ケントリプスはやれやれと呆れたような顔で息を吐きました。


「ハンネローレ様がご自分でダンケルフェルガーに留まると決めたのに?」

「ダンケルフェルガーに留まるのと、心の隅に想い人を住まわせるのは両立するではないか」

「つまり、ラザンタルクはわたくしがオルトヴィーン様に心を奪われると言いたいのですか?」


 わたくしがムッとしてラザンタルクを睨むのと、「それはそうだな」とケントリプスが呟くのは同時でした。何を言われたのか一瞬聞こえなくてわたくしが振り向くと、ケントリプスはニコリと微笑みました。


「エーレンフェストの恋物語を熱心に読んでいるハンネローレ様は、勿体ぶった口説き文句に弱いですから」

「し、失礼ですよ、ケントリプス!」


 非難はしますが、否定はできません。


 ……だって、素敵ではありませんか。


 それ以上の文句を言えずに黙り込んでしまったわたくしを庇うように、わたくしの女性側近達がクスクスと笑い始めました。


「ラザンタルク様も頑張って口説き文句を考えれば良いのでは?」

「研究用にエーレンフェストの本を貸しましょうか?」

「口で言うのが恥ずかしければ、お手紙を書くという方法もございますね」

「ケントリプス様は文官なのですから、口説き文句も研究してみてはいかがです?」

「そ、そのくらいにしてくださいませ。他領の方々の注目を集めているではありませんか」


 彼女達が楽しそうにけしかけている様子に視線が向けられていることは事実です。それ以上に、本当に口説かれたらわたくしの心臓に悪過ぎるので止めてほしいです。




「では、ハンネローレ様。終わったら迎えに来ます」

「貴方達もそれぞれのお稽古を頑張ってくださいね」


 小広間の前で側近達と分かれ、わたくしは中に入りました。すると、すぐに「ハンネローレ様、お久し振りです」と挨拶の声がかかりました。奉納舞は他学年の領主候補生も集うため、社交期間でなくとも社交場になります。普通の領主候補生はこの機会に他学年の領主候補生と交流を持とうとしますし、他領の情報を少しでも集めようとするものです。


「ヒルデブラント様。ごきげんよう。講義は順調ですか?」


 親族として気にかけてほしいと言われていますが、これまでずっと王族として接していたのです。突然親族の領主候補生として扱えと言われても、すぐには慣れません。王族に対する言動にならないように、わたくしは気を引き締めました。


「はい。そろそろ終えられそうです。今年はローゼマイン様が神々に招かれて、図書館のお茶会がないのが残念でなりませんね。そういえば、今日はラオフェレーグ様がご一緒でないようですが……」

「同学年ですから仲良くしてくださっているのかしら? ラオフェレーグはとても具合が悪いようで、本日はお休みすると筆頭側仕えから連絡を受けました」


 ヒルデブラント様の父親はトラオクヴァール様です。今は領地を違えたとはいえ、ジギスヴァルト様と親子なのでコリンツダウムと繋がりがあっても不思議ではありません。わたくしはラオフェレーグの体調が悪いとも都合が悪いとも受け取れる形で伝え、挨拶を終えました。


「では、社交期間になったらまたお茶会をいたしましょうね」


 ヒルデブラントとの挨拶が終わるのを待っていたのか、クラッセンブルクのジャンシアーヌ様がいらっしゃいました。


「ハンネローレ様、ごきげんよう。あの、少しお伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか? 本当はツェントからお知らせがあった日にお話ししたかったのですけれど、お声をかけるのが難しい状況だったものですから……」


 そっと盗聴防止の魔術具を差し出され、わたくしは目を瞬かせました。挨拶とは思えないほど重要な会話があるようです。こちらを見上げてくる青い瞳が何だか追い詰められているようにも見えて、わたくしは盗聴防止の魔術具を受け取りました。


「ハンネローレ様に時の女神が降臨したと伺いました。女神に招かれたローゼマイン様がどちらにいらっしゃったかご存じでしょうか?」


 女神降臨について挨拶と共に探りを入れるようなお言葉ですが、わたくしよりローゼマイン様の動向に興味があるご様子です。何となく焦りを感じさせる様子から、おそらくアウブ・クラッセンブルクに厳しく言われている気がしました。領主候補生として自信の足りない様子が、以前の自分と被って見えるのです。


「ローゼマイン様が神々の手助けをしていることは存じていますが、ジャンシアーヌ様は何かご存じなのですか?」

「……その、ローゼマイン様が過去にいらっしゃる可能性はあるのでしょうか? 時の女神のお導きによって突然中央に現れた女性がいたことを思い出した貴族がいると領地から知らせがありまして……」


 ダンケルフェルガーの騎士達が思い出した記憶は貴族院で狩りの最中だったので、また違う場所にいるようです。今、ローゼマイン様はいくつめの切れ目を繋いだのでしょう。


「時の女神のお導きでしたら、ローゼマイン様である可能性は高いと思います。……思い出した方はツェントの継承の儀式にいらっしゃらなかったのでしょうか? もしくは、当時の記憶を共有された方に連絡を取るなどはされないのですか?」


 儀式に参加していた貴族ならばローゼマイン様の容貌を知っているはずです。昔の中央に現れたならば記憶を取り戻したのは中央貴族だと推測できますが、継承の儀式に不参加だったのでしょうか。不思議に思って問いかけると、ジャンシアーヌ様は口にして良いかどうか悩む様子を見せてから一つ頷きました。


「トラオクヴァール様より前のツェントにお仕えしていたけれど、政変より前に体を壊して中央を辞し、クラッセンブルクに戻った文官です。高齢で体が悪いので貴族院で行われる式典には参加しません。それから、記憶を確かめようにも当時のツェントの側近仲間は政変に巻き込まれたようで、おそらく誰も残っていない……と」


 ……王宮も惨事の舞台になったようですからね。


 それにしても、ローゼマイン様は中央で何をしていらっしゃるのでしょうか。政変以前のツェントの側近が目撃するということは王宮でしょうか。切られたフェルディナンド様の糸を繋ぐのに、貴族院やエーレンフェストではなく中央や当時のツェントが関係すると思えず、わたくしは首を傾げました。


「それで、現れた女性は何をしていらっしゃったのですか?」

「わたくし、詳しいことは知らされていません。ローゼマイン様がどちらにいらっしゃるのか、過去に現れるのか、ハンネローレ様に尋ねてほしいと言われただけですから」


 困ったようにジャンシアーヌ様は目を伏せました。碌な情報を得られなければアウブに叱られるでしょうか。去年もローゼマイン様と繋がりを持とうとしていたのにほとんど接点を持てなかった彼女が何だか可哀想になりました。


 ……もしかしたらジャンシアーヌ様はわたくしより間が悪いかもしれません。


「残念ながらわたくしもローゼマイン様がどこにいらっしゃるか存じません。ただ、時の女神のお導きで現れた女性がローゼマイン様である可能性は高いと思います。ダンケルフェルガーにもローゼマイン様が過去に現れたという記憶を取り戻した者がいますから」

「え?」


 驚いたようにジャンシアーヌ様が顔を上げました。まさかわたくしがそのような情報を流すと思わなかったのでしょう。


「詳細は存じませんが、ローゼマイン様が神々のご用件を少しでも早く終え、ご無事に戻られることをわたくしはお待ちしています」

「……ありがとう存じます。わたくしもご無事のお戻りをお祈りします」


 思った以上に情報を得られたようで、ジャンシアーヌ様がホッと安堵したように胸元を押さえました。わたくしは盗聴防止の魔術具を返却すると、ニコリと微笑んで手を振って別れ、上級生が集まっている奥に向かって踏み出します。


 数歩足を進めたところで、何人かの領主候補生に囲まれて困っているらしいレティーツィア様が見えました。ローゼマイン様について色々と質問を受けているのでしょう。一年生は身長差があるせいか、上級生に悪気がなくても囲まれただけで威圧感に萎縮してしまうものなのです。


 ……自領の騎士達に囲まれる分には相手がいくら大きくても強面でも面倒臭いだけで害はないのですが、他領の領主候補生は領地関係が大きく関係しますから……。


 声をかけた方が良いのか考えつつ様子を見ていると、困った顔のレティーツィア様と目が合いました。やはり望ましくない状況のようです。


「レティーツィア様、ごきげんよう。皆様とのご挨拶が終わった後で構いません。少しよろしいかしら?」


 わたくしが近付いて声をかけると、他の領主候補生の方々は「ハンネローレ様。ごきげんよう」とわたくしに挨拶をしつつ去ります。


「アウブの不在が続いていますが、アレキサンドリアはその後お変わりございませんか?」

「えぇ、ご心配をありがとう存じます」


 レティーツィア様は不安を見せないように気を付けているようですが、それでもローゼマイン様の不在が長引いている心細さを隠し切れていません。


「政変より以前の中央にローゼマイン様がいらっしゃったようです。当時のツェントの側近だった方が記憶を取り戻したのですって。きっと順調なのでしょう。少しでも早く戻られると良いですね」


 ジャンシアーヌ様から得た情報を伝えると、レティーツィア様の顔に花が開くように笑顔がゆっくりと広がります。


「ありがとう存じます。ローゼマイン様の側近達に伝えます」

「それから、奉納舞の時間、レティーツィア様はヒルデブラント様の近くにいた方が良いのではありませんか? 王族の威光にはまだ効力がありますし、王族だった頃のヒルデブラント様を知らない同級生はともかく上級生は近付きにくいですから」


 ヒルデブラント様は貴族院の管理者として入学前から貴族院に出入りしていたので上級生はわたくしと同じで対応の変化に慣れていないのです。コリンツダウムが王族の威光を使って他領の貴族達を動かしているのです。婚約者を守るためにヒルデブラント様が使っても問題ないでしょう。


「その、ヒルデブラント様に悪いと思います。他領の上級生と交流したいかもしれませんし……」


 わたくしは尻込みしているレティーツィア様をヒルデブラント様のところへ連れていき、ローゼマイン様が戻るまでは婚約者を守るようにお願いしました。


「……わかりました。奉納舞の時間は側にいるようにします」

「申し訳ございません。お手数をおかけいたします」


 どちらも硬い作り笑顔でギクシャクしている二人ですが、王命で婚約が決まり、貴族院で顔を合わせたばかりなので仕方ないでしょう。わたくしも婚約者候補を決められた直後はどのように振る舞えば良いのかわかりませんでした。


 ……橋渡しの得意そうなローゼマイン様がいらっしゃれば良いのですけれど。


 そっと息を吐くと、小広間に先生方が入ってくるのが見えました。すぐに学年ごとに分かれてお稽古が始まるでしょう。わたくしは急いで五年生が集まっているところへ向かいました。

 オルトヴィーン様やヴィルフリート様もいらっしゃいます。領主候補生コースで常に集まっている面々ですから、「ごきげんよう、皆様」と声をかけるだけです。オルトヴィーン様が物言いたげな顔をしているように感じましたが、お話をする余裕はありません。わたくしは先生に向き直りました。


「ハンネローレ様も戻ったことですし、五年生にはお稽古の前に重要なお話があります」


 どうやらわたくしの意識がない間に何かお話があったようです。アウブ・アレキサンドリアと、第一位の領主候補生が不在の状態で重要なお話を進めるのは難しいでしょう。先生方に申し訳ない気持ちで、耳を傾けます。


「最終学年は女性の領主候補生が少ないため、五年生から一名入れることは以前からお話ししていた通りです。参加する方と補欠の方を本日中に決めたいと思います。参加される方には今後最終学年の方々とお稽古をしていただきます」



 奉納舞に参加できるのは七名です。わたくしと同学年の領主候補生は十名。来年の卒業式で奉納舞に参加できない者も当然出てきて、男性が一人、女性が二人余ることになります。ローゼマイン様が音楽に入ることを希望しているので、奉納舞に参加できない女性は実質一人でしょう。


「参加する方も、補欠として待機していただく方も奉納舞の衣装をまとっていただくので、今年の卒業式に予定のない方にお願いした方が良いと思うのですが、ハンネローレ様のご予定はいかがでしょう?」

「わたくしは今年の卒業式に婚約者候補と向かいますから、奉納舞への参加は見合わせたいと存じます」


 わたくしは即座に断りました。オルトヴィーン様がわずかに目を見張ってわたくしを見たのがわかります。

 何故か驚いているようですが、嫁盗りディッターが卒業式の後に予定されているので、卒業式時点でケントリプスは婚約者候補です。他の女性に声をかけることなどできません。必然的にわたくしをエスコートすることになるでしょう。


「それから、ローゼマイン様は継承の儀式で神々への奉納舞を終えたので、奉納舞には参加しないと伺っています」

「まぁ、そうなのですか?」


 驚きの声を上げる先生に、わたくしはローゼマイン様とフェルディナンド様の懸念を伝えます。光の柱が立つくらいで済めば良いけれど、継承の儀式と同様に神々に招かれて姿を消す可能性が高く、卒業式がめちゃくちゃになりかねない、と。


「確かに卒業式で姿を消されるのも、突然祭壇の神像が動くのも困りますね」


 継承の儀式に起こったことを思い出したのでしょう。先生は苦笑気味に頷きました。


「ツェントとも話し合うそうですけれど、ローゼマイン様を奉納舞の数に入れない方が良いと思います。ご自身の卒業式でも音楽に入ることを希望していらっしゃいましたから」

「光の舞う美しい奉納舞を卒業式本番で見られるのを楽しみにしていたのですけれど……」


 フェルディナンド様が許さないとおっしゃっていましたし、今年も神々からの関与があったのです。とても許可が出ると思えません。


「僭越ですが、来年奉納舞に出られない方にお願いするのがよろしいのでは?」


 舞の上手い方から選出されるとはいえ、領地の順位も考慮されます。おそらくフリーデリーケ様は自分の卒業式で舞えません。


「そうですね。……フリーデリーケ様に今年の奉納舞を、補欠をマルガレーテ様にお願いしたいのですけれどよろしいですか?」

「かしこまりました」


 フリーデリーケ様は最終学年の方々とお稽古することになり、先生と共にそちらへ向かいました。風の女神の位置に立つように指示を受けている様子が見えます。

 先生が戻ってくると、普段通りのお稽古が始まりました。




「一度休憩しましょう」


 そう言って先生が背を向けて去っていくや否や、オルトヴィーン様がわたくしの前に立ちました。ラザンタルクの懸念通りです。


「ハンネローレ様、あちらでお話ししてもよろしいですか?」

「重要なお話であればダンケルフェルガーのお茶会室を準備いたしますけれど……」

「婚約者候補のいない場でお話しさせてください。ここならば他者の目がありますから」


 やんわりと場所を改めることを提案しましたが、オルトヴィーン様にキッパリと断られました。周囲の目が気になりますが、それはたくさんの方が周囲にいるということです。二人きりではありませんし、今更わたくしの答えが変わるわけではありません。壁際に置かれている椅子を示され、わたくしは頷きました。


「こちらを」


 わたくしが差し出された盗聴防止の魔術具を握ると、オルトヴィーン様はわたくしを覗き込むようにしてじっと見つめました。


「ハンネローレ様は婚約者候補にエスコートされて今年の卒業式に出席されるのですか? それはアウブのご命令でしょうか?」


 ……え? お父様との情報共有についてお話しするのではありませんの!?


 思わぬ話題に、わたくしは息を呑みました。



普段は出てこない他領の人達が集まる奉納舞のお稽古です。

挨拶だけで次から次へとお久し振りの方々が出てきますね。

ようやくダンケルフェルガーから貴族院の日常に戻った気分になりました。(笑)


次は、休憩中のお話です。

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領主候補生だから無理だけど、ハンネローレの剣舞が見たい。シュミルのような可愛い見た目で上級見習い騎士並みの鋭い動きでビシッと舞って、周りを唖然とさせて欲しい。その後ほやっと笑って、「つたなくて恥ずかし…
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