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ハンネローレの特別指導

 寮内の統一のためには、まず、わたくしが次期領主を目指すつもりがないことを皆に周知し、ラオフェレーグの求婚を誰の目にもわかる形で断る必要があります。そのうえで、他領から申し込まれたディッターに全力を尽くしてもらえるようにお願いしなければなりません。


「姫様、それほど緊張する必要はございませんよ。ラオフェレーグ様の求婚を断れば、その後は婚約者候補達が何とかするでしょうから」


 コルドゥラの言葉に頷きながら階段を降り、わたくしは食堂へ向かいます。側近達を集める時にわたくしの目覚めが周知されたため、食堂に入ると同時に多くの学生達が祝わってくれました。


「ハンネローレ様がお目覚めになって安堵いたしました」

「その淡い光、女神の化身と言われるのも納得ですね」


 口々に声をかけてくれる学生達に笑顔で応えながら歩いていると、ラザンタルクが栗色の目を輝かせて席を立ちました。その表情だけで、わたくしが目覚めたことを喜んでくれていることがわかります。


「ハンネローレ様! 意識がない間に申し込まれたディッターについては私が采配を振っています。お任せください! どんな敵も蹴散らしてみせますから」


 ……早足でやって来て、最初に言うことがそれですか。


 第一声がディッターでわたくしは何だかガッカリした気分になってしまいました。ラザンタルクに悪気はないのでしょうし、わたくしの意識がない間も頑張ってくれていたことはわかるのですが、他に言うことはないのでしょうか。全力で事に当たるところは普段ならば好ましく思えるところですが、今はそれが空回りしています。


「ラザンタルクが張り切ってくださっていることはわかりますが、わたくしの護衛騎士達と必ず連携を取ってくださいね。ディッターは一人ではできません。主の命令で動く一騎士ではなく、ディッターの統率者となるならば仲間の不満を汲み取ることも大事ですよ」

「仲間の不満ですか?」


 自分がいかに頑張って準備しているのか主張するラザンタルクに、わたくしは注意しました。


「貴方がいくら婚約者候補という立場とはいえ、本来、わたくしを守るのは護衛騎士の役目です。それなのに、ラザンタルクは今まで通りにお兄様の側近達だけで重要なことを次々と決めていたのでしょう? 注意が必要ですよ」


 今まではお兄様が寮内で一番上の立場でした。わたくしの意見が通ることはほとんどなく、お兄様とその側近達だけで物事を決めるのが当たり前だったのです。ですが、今はお兄様がおらず、わたくしが一番上の立場になっています。そのため、ラザンタルクは同じ行動をしていても、領主候補生であるわたくしを軽んじて勝手に動く上級騎士見習いに見えるようになりました。


 ……困ったことに、ラザンタルクは気付いていないようなのですよね。


 わたくしの側近達から反感を買って、「同じディッター馬鹿ならばラオフェレーグと結婚した方が次期アウブになれるので良いのでは?」と考える者を出すことはもちろん、その反感に気付かないのは婚約者候補としてまずいでしょう。


 ……もちろん、これだけの人数がいる中であまり細かく注意はできませんけれど。


 わたくしの側近達から反感を買っていますが、他の騎士見習い達は以前と特に変わりがないのでラザンタルクを中心にまとまってもいるのです。意識のなかったわたくしが注意すると、今度はそれに反感を持つ者も出てくるでしょう。


「ラザンタルク、考え込むのは後にしろ。ハンネローレ様をエスコートするために席を立ったのだろう?」


 そう言って手を差し出してきたのは、ケントリプスでした。


「ハンネローレ様が目覚めてくださって本当に安心いたしました。私は女神の降臨に立ち会っていたにもかかわらず、何もできず申し訳ございませんでした」


 ニコリと微笑んで、目覚めて初めて会ったような顔でそう言っています。わたくしも口説かれた動揺を思い出さないように、普通を心掛けようと笑顔を作りました。


「神に抗うなど、できるわけがありません。気にしないでください」


 ……ダメです。ケントリプスの顔をまともに見られません! 何か、色々と思い出してしまいます。


 わたくしは先程のように取り乱さないことを最優先にするため、少し視線を下げて足元を見るようにしながら、二人にエスコートされて席に着きました。背中にコルドゥラの刺さるような視線を感じます。


 ……わかっています。領主一族としてもっと堂々と胸を張って歩かなければならないし、俯くなんて言語道断なのですよね。わかってはいるのです。でも、できません! 叱らないでくださいませ。




 側仕えが給仕をしてくれ、食べ始めた頃にラオフェレーグが食堂へ入ってきました。少し遅いようですが、何か打ち合わせでもしていたのでしょうか。側近達が何やら耳打ちをしている様子が見えます。


 ……婚約者候補として名乗りを上げて寮内で動いているのですから、何かしら接触はあるでしょうけれど、食後でしょうね。食事を中断して話し合えるほど早く終わる内容とは思えませんもの。


 後のことを考えると頭が痛くなりそうですが、今は食事中です。ラオフェレーグから食事へ視線を戻し、わたくしはスープを口に運びました。今日の食事は十日ぶりになるので、消化の良いスープと、そこに浸して柔らかくしたパンだけなのです。


 ……早く皆と同じ食事を摂りたいですね。ちょっと味気ないです。


 しょんぼりとした気分で食べていると、コルドゥラの「ラオフェレーグ様の席はあちらですよ」という叱責の声が聞こえました。わたくしが振り返ると、予想以上に近い位置にラオフェレーグが来ていました。


「あぁ、ハンネローレ様。我が女神よ」


 ……今、何とおっしゃいまして?


 わたくしはポカンとして、芝居がかった様子で手を差し出すラオフェレーグを見つめました。突然何を言い出したのでしょうか。紫の目は自分に浸っている陶酔感が強く、わたくしを見ているようで見ていません。まるで混沌の女神にでも魅入られたようも思えて、警戒心が先に立ちます。


「ぜひ私の手を取り、共にダンケルフェルガーを……」

「ラオフェレーグ、わたくしは食事中です。お話は後にいたしましょう。わたくしからも貴方に言いたいことがございます」


 食事中に一言の断りもなく話しかける無作法さも気になりますし、少しは周りを見てほしいものです。わたくしの側近達の警戒と緊張がわからないのでしょうか。不満を感じてわたくしが軽く睨んだ瞬間、ラオフェレーグは自分の胸元を押さえて「……うぐっ!?」と呻き声を上げました。


「え?」

「姫様! 女神の御力が膨れ上がり、軽い威圧になっています! 抑えてくださいませ」


 コルドゥラが驚いたように声を上げ、顔色を変えたラザンタルクやケントリプスが席を立ちました。


「ですが、わたくしの力ではないので、どのようにすれば抑えられるのか……」


 自分の魔力と違う女神の御力の扱い方などわかりません。わたくしがオロオロとしている間に女神の御力は落ち着いたようで、ラオフェレーグは呼吸を整えることができるようになりました。コルドゥラはホッとしたように息を吐いて、ラオフェレーグをじっと見据えます。


「ラオフェレーグ様、姫様から離れてくださいませ。食事中の無作法を女神の御力は許さないようですよ。本日、目覚めてからお話しした他の誰にもこのようなことは起こりませんでしたから」


 共に次期領主を目指そうと言っているのに、何度も女神の御力に拒絶されるわけにはいかないのでしょう。側近達に軽く引っ張られたラオフェレーグは悔しそうに舌打ちして、自分の席へ向かいます。


「女神の御力があると日常生活を送ることも難しいと、エーレンフェストやアレキサンドリアの方々が危険視していらっしゃった理由がよくわかりました」


 コルドゥラの呟きに、わたくしも同意します。特に問題ないと思っていたけれど、まさか自分の意思も関係なく軽い威圧状態になるとは思いませんでした。


「なるべく早く対処方法を尋ねた方が良さそうですね」

「アレキサンドリアにはすでに姫様の目覚めを知らせ、お話を伺いたいと伝えています。日程の調整はお任せくださいませ」


 頼りになるコルドゥラにわたくしは微笑みを返し、側近達の報告を聞きながら食事を終えました。




 夕食後、わたくしは食堂にいる学生達全員に向かって話しかけます。割れている寮内の意識を一つにまとめるためです。


「わたくしが時の女神ドレッファングーアに体を貸したことで十日ほど意識を失い、皆に心配をかけました。他領からいくつもディッターの申し込みがあったことは側近達から聞いています」


 そこで何故か「うおおぉぉ!」と雄叫びが上がり、「ディッター! ディッター!」と興奮する者達が始めました。


「ディッターに勝つぞ!」

「うおおおぉぉぉ!」

「ハンネローレ様をダンケルフェルガーに留めるためにも勝利を!」

「うおおおぉぉぉ!」

「ハンネローレ様を次期アウブにするのだ!」

「うおおおぉぉぉ!」

「ハンネローレ様は次期アウブにはならぬ!」

「うおおおぉぉぉ!」


 ……どうしましょう。全く話の通じる気がしません。……


「ハンネローレ姫様、呆気に取られている場合ではございません。このままでは次期アウブ候補に祭り上げられますよ」


 コルドゥラに言われて、ハッとしました。ラオフェレーグ達とラザンタルク達が反対のことを言いながら妙な方向に盛り上がっています。他に静めてくれる者がいない以上、わたくしが見ない振りをするわけにはいきません。


「静粛になさいませ! わたくしの望みはディッターの勝利ですが、次期領主になりたいと思ったことはございません。あくまで今回のディッターは他領からのお申し込みを退けるためです。そこを間違えないでください」


 わたくしが学生達に対して宣言すると、ラオフェレーグとその側近や、わたくしを次期領主にしたいと考えている者達がさっと表情を変えました。


「それでは、ラオフェレーグ様の求婚をどうなさるおつもりですか!?」

「女神の化身であるハンネローレ様こそ次期アウブに相応しいではありませんか!」

「ラオフェレーグ様は貴女のために次期アウブの座を贈ろうとしているのですよ!」


 必死で訴えてくるラオフェレーグの協力者を見回しながら、わたくしはコテリと首を傾げました。


「わたくし、最初からラオフェレーグの求婚はお断りしているのに、どうして受け入れると思ったのですか?」


 断り方が他領の殿方向けだったのでダンケルフェルガーでは通じないかもしれないと後からコルドゥラに言われましたが、わたくしの心情に変化はありません。ラオフェレーグの求婚を受け入れるつもりはありません。前回通じなかったならば、もう一度断るだけです。


「わたくし、望んでいないので次期アウブの座を贈られても迷惑なだけです」


 根本的なところを間違っていると指摘すると、ラオフェレーグの協力者達は言葉を失ったように口をハクハクとさせました。


「それに、女性の適齢期は一般的に二十歳までです。四歳年下の貴方が成人した時には、わたくしは行き遅れ寸前です。そこまで結婚を待つ魅力がラオフェレーグにありますか?」


 女性の適齢期が短いからこそ、殿方が年下の場合は結婚が非常に難しくなります。逆に、殿方が年上ならばどれだけ年齢が離れていても結婚は可能なのですけれど。


「年齢だけではありません。自分はアウブとしての責務を負いたくないのでわたくしに押しつけて、本物のディッターをしたいと言ったラオフェレーグの求婚のどこに魅力を感じれば良いのでしょう? 次期アウブとしても、アウブの配偶者としても失格ではありませんか」


 女性の口からは「確かに責任だけ押しつけられても……」「求婚の言葉としてはあり得ませんよね」と同意の声が上がり始めます。


「次期アウブを目指すならば、自力でお兄様に勝てるように努力すれば良いのです。貴方の我儘にわたくしを巻き込まないでくださいませ。わたくし、自分を守ってくれそうもない方と一生を共にする気はございません」


 一度ギリッと歯を食いしばったラオフェレーグが叫びました。


「守るくらいする! 私はディッターで負けるつもりはないからな!」


 当たり前のような顔でそう言ったラオフェレーグに、わたくしは呆れ果てて表情を取り繕うこともできず真顔になってしまいました。


「無理でしょう。わたくし、ラオフェレーグでは頼りなさ過ぎて守ってもらうどころか、背中を預けることさえできませんもの」

「どういう意味だ!?」


 叫びながら殴りかかるようにこちらへ飛びかかってこようとしたラオフェレーグのマントをケントリプスがガシッとつかみ、勢いの止まった体をラザンタルクが投げ飛ばしました。


「訓練場へ行きますよ、ラオフェレーグ様。ハンネローレ様に対する数々の無礼に対して、少々話し合いが必要でしょう」

「ラザンタルクの言う通りですね。ここは食堂です。暴れる場所ではありません。まさか側近がその程度のことも教えていないとは思いませんでした。指導しましょう」


 ラザンタルクとケントリプスの二人がラオフェレーグの腕をつかみました。相当腹に据えかねる言動だったことはわかりますが、正直なところ、やり過ぎです。


「コルドゥラ」

「お待ちなさい、二人とも。レスティラウト様がいらっしゃらない今、ラオフェレーグ様に指導するのは越権行為となる可能性が高いでしょう。指導はハンネローレ様の役目です。領主夫妻から頼まれていますから」


 行きますよ、とコルドゥラが歩き出しました。わたくしと側近達はそれに続くしかありません。わたくし達の後ろにラオフェレーグとその側近、監視役としてラザンタルクとケントリプスが歩いてきます。


「……あの、コルドゥラ。わたくしが指導するのですか?」


 こっそりと尋ねると、コルドゥラの赤い目が光りました。表情こそ薄らとした笑顔ですが、目が全く笑っていません。怒りに光っています。


「ラオフェレーグ様に指導できる領主候補生はハンネローレ様だけですもの。わたくしとしては、この機会に指導というよりは心を折っておくことをお勧めします。二度とご自身の都合でハンネローレ様を持ち上げないように、次期アウブに必要な素質を叩き込んであげてくださいませ」


 ……うぅ……、コルドゥラが怖いです。


 ここで手を抜いたら、わたくしの方がコルドゥラに叱られます。わたくしもまた領主候補生としての力量を試されているのです。




 訓練場でわたくしはラオフェレーグに向き合いました。どうやら訓練場へ連れ出されている間に、投げ飛ばされた驚きが怒りへ変わっていたようです。


「ハンネローレ様、私が頼りないとはどういう意味です!?」

「ラオフェレーグは騎獣に乗れるようになり、ようやくディッターに参加できるようになったばかりの一年生ではありませんか。それで、どうして負けないと思えるのですか? 貴方ではわたくしにも勝てないでしょう?」

「私がハンネローレ様に負けると!?」


 わたくしの指摘にラオフェレーグは顔を真っ赤にして、魔術具の剣を手に取りました。駆け出す脚力、振りかぶる速さ、紫の目にある強さなどを見れば、よく鍛えていることがわかります。


「ゲッティルト!」

「ぐわっ!?」


 わたくしは盾を作り、すぐさま魔術具を投げつけました。淑女の嗜みとして身につけている護身用の魔術具です。別に命を奪うような危険な魔術具ではありません。ただの目潰しです。

 不埒な者を怯ませ、時間稼ぎをするくらいしかできません。わたくしはシュタープを盾から杖に変えて、勢いよく突き出しました。まず一発。


「ぐっ……」

「攻撃は届かなければ意味がないのですよ」


 ラオフェレーグが悔しそうに武器を手にして立ち上がります。早く諦めてほしいのですが、まだやる気のようです。

 ラオフェレーグは魔術具を投げつけられないように警戒しているのか、わたくしの手の動きを注視しながら少しずつ距離を詰めてきます。


「貴方は本物のディッターに参加したいという言葉がどのような意味を持つか、理解していますか? 憧れだけが先行し、ディッターがどのようなものか学んでいないでしょう?」


 わたくしはそう言いながら、じりじりと距離を詰めてくるラオフェレーグに向かって指輪から魔力を放出しました。圧倒的に格下だと見定めた相手に対する攻撃です。案の定、ラオフェレーグは激昂しました。


「馬鹿にするな!」


 自分に向かって飛んでくる魔力をスパッと切り裂いて得意顔になったラオフェレーグの脇腹を、わたくしは杖で打ち付けます。はい、二発。

 年齢の割に強いのは間違いないでしょう。けれど、鍛錬の時間が圧倒的に足りていません。


「本物のディッターは領地の礎を奪い合う殺し合いです。それを望むと発言した大領地の領主一族がどれだけ危険視されると思いますか?」


 ラオフェレーグはまだ闘志があるようです。剣を手にする根性は評価しますが、自分の力量を自覚できない無謀さには呆れてしまいます。この性分ではディッターでも引き際を見定めることができないでしょう。


「大体、ラオフェレーグやその側近達はわたくしが本物のディッターに参加したことを持ち上げますが、参加したのは恥を雪ぐためではありませんか。次期領主になるためでも、お兄様と並ぶために武勲を欲したわけでもありません」


 勘違いを諭しながら、わたくしはラオフェレーグが武器とは逆の手にとった回復薬を素早く杖で突いて弾き飛ばしました。長時間付き合うつもりはないので、回復されると困ります。

 わたくしが回復を許さなかったことで、ラオフェレーグは全力で攻め込むことに決めたようです。剣を持って素早い攻撃を仕掛けてきました。


「まさか攻め込むことだけが戦いだと考えているわけではございませんよね? 本気で本物のディッターを望むならば、まず守りの重要性を学ぶべきです。領地と宝を守ることが領主にとって一番重要な役目。攻める者は騎士であり、領主の駒です。貴方達が評価する本物のディッターにおいて、わたくしは領主の駒であり、お兄様は礎を任された領主代理でした」


 お父様が出陣したのは、領地を守る領主代理にお兄様が相応しいと認めたからです。とても任せられないと思えば、叔父様に留守を任せたでしょう。


「領地と領地の小競り合いだったエーレンフェストとアーレンスバッハの戦いに参加したわたくしより、その後のユルゲンシュミットを巡る他国との戦いで領主不在のダンケルフェルガーを次期領主として守り切ったお兄様の方がアウブからは評価されるのですよ」


 ラオフェレーグの速いけれど単調な攻撃をゲッティルトの盾で受けながら、わたくしは彼の顔色の変化をじっと見つめます。すでに激昂はなりを潜め、悔しさと焦りが全面に出ています。力量の差はわかっているようです。


「まだ自分の負けを認められないのですか?」

「私は勝って其方と結婚する! 今、決めたのだ!」

「この先のダンケルフェルガーを率いるのはお兄様です。自分の力量も弁えられない貴方ではありません!」


 わたくしは盾を大きく振って彼の剣を弾くと、シュタープに戻して光の帯で締め上げました。ボテッとその場に倒れたラオフェレーグに、わたくしは溜息を吐きます。


「敗北を認められるまでしばらくそのままです」

「私は本気だ! その強さに惚れた! 次期アウブはともかく、私は絶対に其方を勝ち取るからな!」


 ……今、何とおっしゃいまして?


 全く予想もしていなかった展開に、わたくしは呆然としながらラオフェレーグを見下ろしました。グルグル巻きにされたままビタンビタンと暴れているのに、紫の目は興奮して輝いているのです。何だかラオフェレーグの存在が不気味で、とても怖いものに思えます。


「ハンネローレ様、相手にしてはなりません。こちらへ」


 ラザンタルクとケントリプスが急いでわたくしとラオフェレーグを引き離すようにして距離を取らせてくれましたが、二人も困惑したような顔になっています。


「……あの、二人とも。一体何がどうなったのでしょう? 第三者の目から見れば、この呆気に取られるような変化も何か兆候があったのではございませんか?」


 わたくしが説明を求めると、ラザンタルクは嫌そうに顔を顰め、ケントリプスは呆れたように額を押さえました。


「熱の入った指導でラオフェレーグ様を本気にさせてしまいましたね、ハンネローレ様」

「次期アウブではなく、本気でハンネローレ様目当てになりましたよ。どうするおつもりですか? あれはハイスヒッツェ様のようにしつこいと予想できます」


 まるでわたくしに責任があるような目で見られても困ります。まさかこんな展開になるとは神様も予測しなかったでしょう。


「……わたくし、そんなつもりはなかったのです」


 縁結びの女神 リーベスクヒルフェの高笑いが聞こえたような気がしました。


ラオフェレーグへの指導が予想外の展開になりました。

リーベスクヒルフェ様、イイ仕事をしましたね。

困惑している皆を見ながらめちゃくちゃ楽しんでいることでしょう。


次は、アレキサンドリアとの情報交換です。

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― 新着の感想 ―
防御から流れるように目潰しして「まずは一発」 挑発して激昂した相手の隙に「はい、二発」 その後も回復は許さず、頃合いを見て武装解除&拘束のコンボとかいう圧倒的上位者ムーブ ハンネ、あまりにも強キャラ…
うわぁ…相手の意思無視のストーカー気質。ヒルデブラントも苦手なんだけど、この子は本当にダメだわー。
うっわ、ラオフェレーグダメだ。苦手なタイプだ。心底気持ち悪い。相手の意思を認めないストーカータイプほんと嫌いなんだよね。おぞましい。叩きのめされて白の塔にでも入れられればいいのに。 ダンケルフェルガ…
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