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階段から転落して思い出しました!89歳まで生きた私、今度の人生は異世界で半島領の次女です  作者:


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黒き航路、その先に

試作品の塊とも言える船だが、進みは驚くほど順調だった。

恐らく二時間も掛からずに目的地へ辿り着くだろう。

従来の帆船なら、同じ距離を進むのに三倍近い時間を要する。


「予定通りだな……」


誰かが呟く。


「流石だ。風に頼らず進めるってのはな」


「さらに潮に乗れば、もっと速くなる」


甲板に漂うのは、興奮と緊張が入り混じった空気。


夜の海は漆黒。

そしてその中を進むのも、同じく漆黒に塗られた一隻の船だった。

月明かりすら反射しない船体は、まるで闇そのものが滑るように進んでいく。


しばらくして――。


「……見えたぞ」


前方を見張っていた船乗りの声が低く響く。


闇の向こう、うっすらと輪郭を持った陸地が姿を現す。

そう――王都の港だ。


まだ細部までは判別できない。

だが、第一区の港に停泊している船影が、いくつも重なって見える。


「あそこだな」


「間違いない」


経験に裏打ちされた確信が、その声にはあった。


「……流石、船乗りだな」


誰かが感心するように呟く。


船は速度を落とさぬまま、静かに、確実に――

王都の喉元へと迫っていく。


闇に溶けたまま、嵐の始まりを告げるその時を待ちながら。そしてアルテリアが操舵輪の横で、海図を指しながら。


「そう言えばアルテリアさん。第1とか第3って?」


「あー。メイヤは知らないか」


アルテリアは視線を前方に向けたまま、淡々と説明を始める。


「第1地区は国外用の船籍だ。外国船、交易船、それに対応する倉庫もな」


「第2地区は国内向け。王国内の流通用だ」


「それで一番新しいのが第3地区」


「新しい?」


「ああ。第1、第2で荷が溢れた時に使う予備みたいなもんだ。荷物の量はその時々でまちまちだな。今は……多くもなく、少なくもなく、って所だろ」


なるほど、とメイヤは頷いた。


「俺らは本部に近い第3地区から乗り込む。距離も短いし、無駄な衝突を避けられる」


「そんな区分けがあったのね……」


その時、見張りの声が低く飛ぶ。


「前方確認!第1地区に三隻、停泊中!大型商船と思われます!」


「やっぱりな」


アルテリアが口の端を吊り上げる。


「じゃあ、そろそろ小型船を降ろすぞ」


「注意してね!操作員は大丈夫?」


「泳ぎの強い奴らだ。心配いらねぇ」


甲板の一角では、布を外された小型船が静かに海へ降ろされていく。

その船尾には、小さな箱型の装置――小型蒸気機関が据え付けられていた。


「火も入れてある。起動までそう時間は掛からん」


「まさか……小型船にまで蒸気機関を?」


「木製スクリュー、何本も試作品があったからね?それ見た時に、あ、これだってな」


小型船の甲板には、厳重に固定された“樽”が積まれている。

見ただけで、危険だと解る代物。


「……あの樽を積んで?」


「そう!」


メイヤはあっさり言った。


「小型船で船体に突っ込ませて――どっかーん、だ!派手に行くわね」


「合図が必要なんだろ?」


その言葉に、メイヤは小さく息を吐いた。


アルテリアが号令を飛ばす。


「火力充分になったら行動開始!三隻、それぞれ目標に向かえ!」


「本船はそのまま港へ突っ込む!港で待ってるぞ!」


小型船が一隻、また一隻と闇の海へ滑り出していく。


皆を乗せた主船は速度を落とさず。王都の港へ――真っ直ぐに進路を取った。


静寂の数分後、港はきっと、誰の目にも解る“合図”で包まれる事になる。

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