第83話 外交成果
デザートのパンケーキは大好評で、特に女性陣から高評価をもらった。
ソフィア姫、王妃様、そして妻のジェシカは、お代わりをしていた。
「ソフィアがお代わりをする日とが来るとは……! ううう……!」
アレックス王太子がバカ兄ぶりを爆発させて感涙にむせぶ。
国王陛下がいるので、話は自然と政治関連の話になった。
「――そうですか。キリタイ族は大人しくなりましたか」
「うむ。ガイア殿やアレックスが奮闘してくれたおかげだ。これで帝国方面に力を集中出来る」
「南ですね」
「うむ!」
国王陛下の目がギラリと光る。
ソフィア姫がいるので、昼食の場ではずっと優しい父親の顔を見せていた。
だが、政治関連の話になると、ギラリとした野心家の顔を見せる。
やはり、この人は急成長するアルゲアス王国の国王なのだと、俺は国王陛下に敬意を持つと同時に油断大敵と気を引き締める。
アルゲアス王国から見て、北は交易都市リヴォニアなど臣従する町や部族のエリア。
東はキリタイ族など遊牧民が住む平原地帯。
西は魔の森が広がる。
南はヴァッファンクロー帝国とアルゲアス王国の紛争地帯だ。
「帝国へ攻め込む環境が整いましたね」
俺は国王陛下をそそのかす。
アルゲアス王国がヴァッファンクロー帝国に攻め込んで、帝国の力を削いでくれれば、バルバルにとって望ましい展開だ。
その間に、バルバルは力をつける。
「うむ。だが、戦続きで国内に疲れが見える。兵や民を養生せねば」
周囲が落ち着いたところで、休息期間を取る。
無理攻めはしないと……。
手堅いな。
チラリとアレックスを見ると、口を尖らせている。
国王の方針に異を唱えないが不満がある。
好戦的なアレックスは戦いたいのだろう。
コイツは戦については、超人的に強い。
だから、内政や外交に頼らず、戦で状況を変えようと考えているのでは?
アレックスの豪腕体質に、内心ニヤッとしながら、国王陛下と意見を交す。
「帝国は揺らいでいるようですね?」
「うむ。各地で反乱の芽吹きがある。それに皇帝や貴族どもは酒食に耽っていると聞くぞ。何やら『ブランデー』なる新しい酒が流行っているとか。皇帝の健康状態は悪いらしいぞ」
ブランデーは、俺たちバルバルの領域に群生しているブランの木から採れる酒だ。
アルゲアス王国の商人カラノスを通じて帝国に販売している。
「ふふ。結構なことです」
「全く! 酖毒の策を使うとは! ガイア殿は恐ろしいな! ワハハハ!」
国王陛下が腹を抱えて笑う。
ざまあみろと思っているのだろう。
俺は涼しい顔で言葉を返す。
「はて? 私は美味しいお酒を貴国のカラノスを通じて売っているだけですよ。誘惑に勝てなかったのは、皇帝や貴族たちの自己責任でしょう」
「そうだな! ワハハハ!」
国王陛下は、ひとしきり笑うと澄ました顔で俺に大事なことを聞いてきた。
「ガイア殿たちバルバルは、今後どうするのだ? ずっと帝国に従うわけではあるまい?」
「時を待ちます。帝国は支配領域を広げ過ぎました。各地で小さな反乱が頻発し、内部は腐敗しています。帝国の支配は揺らいでいますが、まだまだ国全体の力は強いです。我らバルバルは、力を蓄えているのです」
「では、時が来たらどうする?」
「帝国のくびきから脱するでしょう」
俺はハッキリとアルゲアス王国の国王に告げた。
帝国の支配から脱して独立すると。
国王陛下は、アゴのヒゲをなでながら満足そうにうなずいた。
「では、その時が来たら、我が国はバルバルと正式に国交を結ぼう。共に帝国と戦おうぞ!」
「ええ。よろしくお願いします!」
言質を取った!
この一言だけでも、今回遠征した甲斐があった!
俺は外交成果に満足した。





