追い出すとアドバンテージと一時間後
◇
「この浮島の大地は数日後に朽ち果てる」
「は?」
「先代聖女の力を使って、第一王子達を別世界に送りつける。ちょうど一層のとある世界で、人類が滅びた所があるんだ。此処と違い、必要悪が現れた訳じゃねぇし、資源もそこそこあるから、十分生活でき……」
「待って、サンタ。とりあえず、待って。私達、全然ついていけてないから」
王国劇場。
かつて役者が使っていたであろう舞台の上。
目覚めたばかりの第一王子含む数十人と共に、私はサンタの話に耳を傾ける。
「え、なに? この浮島が滅びる? つまり、どういう事なの、サンタ」
「この浮島の核を破壊した。今頃、第三王子が頑張っているだろうから、朽ち果てる寸前で停止しているが、数日持てば良い方だろう。だから、その間に第一王子達──エレナ以外の生き残った人達を浮島から追い出す。いいな?」
「……エレナ以外を、追い出す? エレナは此処に残るのか?」
酷い火傷を負った所為で、包帯塗れになった第一王子が声を上げる。
サンタは『ああ』と呟くと、心底面倒臭そうに溜息を吐き出した。
「第三王子──黒い龍の狙いは、現聖女だ。エレナだけを残して、お前らを浮島から脱出させた方が、俺も黒い龍も都合がいい」
「何で第三王子にとっても都合良いんすか?」
第一王子の侍女レベッカが手を挙げる。
サンタはその質問を待っていたかのように、首を微かに縦に振ると、彼女の疑問に答えた。
「必要悪ってのは、浮島にいる人の無意識の集合体だ。この浮島にいる人達の『自滅したい』っていう願望を叶えるため、存在し続けている」
「あー、つまり、アレっすか。私達みたいに『生きたいっ!』って思っている人が沢山いたら、第三王子の存在理由がなくなるって訳っすか」
「大体その理解で合っている。まあ、生きたいと願うヤツが少なからずいたとしても、必要悪の存在理由が少し希薄になるだけだ。弱体化はするが、消えて無くなる訳じゃねぇ」
「なら、俺達がいないと、俺の弟……第三王子は強いままじゃないのか」
「ああ、そうだ。でも、俺と嬢ちゃ……じゃなかった、エレナは第一王子達を守らずに済む」
第一王子とレベッカの的確な疑問により、作戦会議がスピーディーに進められる。
私はというと、他の人達と同じように、ただ彼等の話を聞く事しかできなかった。
「もし第一王子達──生きたいって望んでいる人がいる場合、第三王子は自らの強さの純度を保つため、第一王子達を捕らえようとするだろう。そうなった場合、俺とエレナは第一王子達を守りながら闘うっていう無理難題をクリアしなきゃいけなくなる」
「私達がいたら化物になった第三王子は弱体化するんすよね? それを考慮した上で、私達を浮島の外に追い出すって事は、弱体化というアドバンテージを捨てるって事っすか」
「ああ。お前らの存在で弱体化したとはいえ、必要悪は俺達よりも格上だ。俺の予想が正しければ、弱体化した状態でも、僅かな時間さえあれば第一王子達を拘束できる筈だ」
「なら、疑問っすけど、何で第三王子は私達を殺さなかったっすか。ほら、あんたら言ってたじゃないっすか。第三王子は私達を捕らえていたって。何であの時にアイツは私達を殺そうとしなかったんですか」
「アイツの狙いが、エレナだからだ。あの時点で、お前らを殺してしまったら、エレナの信用を失ってしまう。だから、アイツは敢えて殺さなかったと思う」
「……第三王子は何でエレナを狙っているんだ」
「第一王子、お前さんなら分かるだろ」
そう言って、サンタは溜息を吐き出す。
第一王子は気まずそうに顔を歪めると、『そうか』と呟いた。
「また第一王子達が捕らえられたら、厄介だ。お前らが意識を失ってしまったら、俺達は自由に動けなくなる。その上、お前らの無意識も働かなくなるだろうから、強い状態の必要悪と闘わないといけなくなる。だから、……」
「最初から弱体化というアドバンテージを捨てる。第一王子達が浮島にいても、メリットよりもデメリットの方が大きい。というか、この浮島の大地が朽ちちゃうから、第一王子達が此処に残ってもデメリットしかない。だから、第一王子達を新天地に送りつける事で、のびのびと闘える状況を作る。……みたいな解釈でおっけー?」
何となく理解できたので、敢えて口を挟む。
サンタは首を縦に振ると、私の言葉を肯定した。
「ああ、その理解で合ってる」
褒美だと呟きながら、サンタは何処からともなく取り出したクッキーを私に投げ渡す。
私は『また子ども扱いしやがって』と思いつつ、投げ渡されたクッキーを口でキャッチした。
「第三王子の狙いは、嬢ちゃ…….じゃなかった、エレナだ。仮に第一王子達と一緒にエレナも浮島の外に送り出したとしても、間違いなく第三王子は追っかけると思う。そうなったら、全部パァだ。だから、…….その、アレだ。不本意だろうけど、嬢ちゃんは此処に残って貰うぞ」
クッキーを齧りながら、私は『上等だ』と言わんばかりに首を縦に振る。
サンタは少しだけ頬の筋肉を緩めると、第一王子の方に視線を向けた。
「安心しろ。必要悪を何とかした後、お前らの下にエレナを送り届ける。嬢ちゃん一人で朽ち果てた浮島でセカンドライフを送らせる……みてぇな事は絶対させねぇ」
『んじゃ、話し合いは以上だ』と言って、サンタは会議を終わらせようとする。
が、それを侍女レベッカは許さなかった。
「あの、最後に質問っす。……何で第三王子が必要悪っていう『人類ガンガン滅ぼすぜ!』みたいな存在になっちゃったんですか。というか、必要悪になった第三王子は、本当に第三王子なんですか?」
「知らね」
レベッカの疑問をサンタは即座に切り捨てる。
本当に知らないのか、珍しくサンタは不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
「俺が知っているのは、三つ。必要悪の役割、この浮島に必要悪が現れた理由、そして、必要悪はエレナに固執している事。何で第三王子が必要悪になったのか、今の第三王子の中身が何なのか。それに関しては、何も言えねぇ。推測するにしても、情報が少な過ぎる」
そう言って、サンタは側にいるトナカイの置物──先代聖女に声を掛けた後、私達に『準備するから、ちょっと待っててくれ』と告げる。
そして、欠伸を浮かべながら、劇場の外に出て行ってしまった。
──必要悪が王都に到着するまで、残り一時間。
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次の更新は9月25日(水)20時頃に予定しております。




