同じ目と『いつから』と行き場のない怒り
◇side:サンタ
「さっさと教えろ。あんた、浮島の核を何処に運んだ?」
神殿の中にある隠し通路。
この時代でも一部の者しか知らないであろう空間。
予想通り、通路にいた現国王に問いかける。
──必要悪が狙っているモノの在り処を。
「現在、浮島の核は王都の地下にねぇ筈だ。もし王都に放置したままだったら、『必要悪』が浮島の核を壊している筈だ」
高価なモノで身を飾っている老人──現国王は口を閉じたまま、俺の目を見続ける。
そして、俺の目を見つめたまま、頬の筋肉を少しだけ動かすと、俺の疑問に答える事なく、疑問の言葉を突きつけた。
「貴様は聖クラウスか?」
「だったら、どうした?」
「お前の容貌、若かりし頃の私と似ている」
「何が言いたい? 手短に話せ。こっちは時間がねぇんだ」
「定かではないが、初代聖女は聖クラウスと結ばれ、子を成したと言われている。今の今まで与太話と思っていたが、……与太話じゃなさそうだな」
「俺が初代聖女と結ばれた? ジョークセンスねぇな、現国王。それは百パーセントあり得ない」
「どうして」
「──俺と初代聖女は異母兄妹だ。第一王子達とエレナの関係と同じ……って言ったら、伝わるか?」
俺の返答が想定外だったんだろう。
現国王は僅かに目を大きく見開く。
軽口を叩く余裕がねぇのか、口をポカンと開けるだけで指一本動かすつもりはなかった。
「国王がエレナの父親だって分かった理由? んなの、エレナの容姿が初代聖女と酷似していたからだ。エレナの遠い先祖が初代聖女だったって可能性も考えたが、それだと聖女の証──神造兵器は扱えねぇ。アレは神性を持つ者──神の血が大量に混ざってねぇと扱う事さえできねぇもんだ。そうだろ?」
◆
『神造兵器。神代の神々が生み出したアルティマ・ウェポン。魔導を極めた者にしか扱えない『心器』とは似て非なる概念武具。神性を持つ者にしか扱えない究極の兵器……で、合っていますよね?』
『ああ、大正解だ。人喰い姉ちゃん』
◆
虐者──ジェリカとのやり取りを思い出しながら呟く。
「あんたら王族貴族は神造兵器を扱えるように、神の血の純度を一定に保ち続けた。平民──神じゃない血を排除し続けた。そうだろ?」
「……」
「エレナは聖女の証……神造兵器をノーリスクで扱っていた。血の純度が高過ぎる点から、エレナの両親或いは祖父母が王族貴族である予想できる」
「……私がエレナの父である確証は? エレナの祖父母が王族だった可能性も考えられる筈だ」
「あんたが俺の父親と同じ目しているからだ」
「ただの勘か」
「でも、当たっているだろ?」
濁った目で国王は俺の瞳を見続ける。
俺は眉間に皺を寄せると、殺意を言葉に乗せ、こう言った。
「あんたの疑問には答えてやった。次は俺の疑問に答えて貰う番だ。さっさと答えろ、──浮島の核は何処にある?」
◇
聖クラウスを名乗る老人は言った。
浮島の材料である巨人の寿命が尽きかけている事。
その所為で、この浮島の大地が痩せ細っている事。
材料である巨人の寿命が尽きてしまったら、この浮島は自壊してしまう事。
初代聖女と初代国王は生涯を費やす事で移住先を探し続けた事。
初代聖女達の生涯を費やしても、移住先は見つけられなかった事。
移住先を見つけられなかった初代聖女達は、次世代に託した事。
次の世代の人間達に移住先を探すよう、お願いした事。
次の世代の人間達も移住先を見つけられなかった事。
次の次の世代も、その次の次の次の世代も、移住先を見つける事ができず、問題を先送りし続け、最終的に移住問題は解消される事なく、風化してしまった事。
「先代聖女が聖女になる少し前から、この浮島の大地が痩せ細り始めました」
神殿の中。
長い廊下を歩きながら、私は老人と共に神殿の中を散策する。
老人の隣を歩きながら、聞こえてくる言葉に耳を傾ける。
「現国王は騎士団に大地が痩せ細った理由を調べさせました。その結果、現国王は遺跡に残っていた初代聖女の文献を発見。大地が痩せ細っている原因と、浮島の心臓コアの場所を把握しました」
「現国王が見つけた時には手遅れだった。でも、現国王達は浮島を延命させる方法を見つけてしまった。国に仕えていた魔術師が、人間の肉体・精神・魂、そして、寿命を魔力に変換する方法を見つけてしまった。
「ええ、その通りですミス・エレナ。現国王達は見つけた。その結果、『青い石』と呼ばれる人という存在を凝縮加工したエネルギーの塊を生み出してしまった」
そう言って、老人は懐から取り出す。
青い石の欠片──人間を素材に作られた魔力の塊の一部を。
「その青い石を使って、浮島の寿命を伸ばしたんでしょ? それは先代聖女の記憶を覗いたから、私も知っている。偶然、『青い石』が完成したのも。でも、私も先代聖女も『いつから造られ始めたのか』知らない」
「察しがいいですね、ミス・エレナ。なら、僕が貴女の推測を肯定してあげましょう」
上機嫌に微笑みながら、老男は私の方を一瞥する。
一瞬、ほんの一瞬だけ、私は何故か国王の顔を思い出してしまった、
「貴女の思っている通りです。『青い石』の完成は偶然の要素が多かったですが、『青い石』の開発は偶然じゃない。『青い石』の開発自体は先々代の国王の時代から行われていたのです」
◆side:???
物心ついた時には一人だった。
父の顔も母の顔も知らない。
後から知った話によると、私──いや、『私達』の大半は親に売られたらしい。
私達を買ったのは浮島だ。
この浮島の上流階級が、私達を買ったのだ。
◆side:???
「これも失敗か」
そう言って、白いローブを着た男は私の友人──被験体一〇三八号を一瞥する。
私と違い、友人は適性がなかった。
ただ適性がなかっただけで、友人である被験体一〇三八号は人の原型を保てない程、グズグズになってしまった。
「成功した個体は別室に行け。フェイズⅢに移行する。……ああ、一〇三九号。貴様は一〇三八号を処分してから別室に行け」
そう言って、白いローブを着た男は友人だった肉塊をゴミを見るような目で一瞥する。
それを見て、私は思い出す。
昨夜、被験体一〇三八号が言っていた言葉を。
『どうやら国王達は「青い石」を造るために、ウチらを使って実験しているみたいだぜ』
『青い石? なにそれ?』
『ぼーだいな魔力を秘めた魔導ぞーふく器らしい』
『国王達はそれを使って、何をするつもりなの?』
『んなの決まっているじゃん──もっと裕福になるためだよ』
ただ今以上に裕福になりたいだけ。
ただそれだけの理由で、王族達は私達に犠牲を強いる。
私達に不幸を強いる。
それを知って、被験体一〇三八号だった肉塊を見て、弱肉強食を目の当たりにして、私は抱いた。
抱いてしまった。
──行き場のない怒り、を。
『この行き場のない怒りに終焉を』
いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。
次の更新は6月17日(月)20時頃に予定しております。
(追記)
申し訳ありません。
体調を崩してしまったので、6月17日の更新は延期させて貰います。
次の更新は6月26日(水)20時頃に更新致します。
本当に申し訳ありません。




