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狙いと条件と表裏一体


──時は少しばかり過去に遡る。


◆side:サンタ


「なあ、先代聖女。力を貸してくれないか? 必要悪はエレナを狙っている」


 星空を映し出す湖面の上。

 頭上で激しく瞬く星々と地平線の彼方まで広がる湖しか存在しない心器(きりふだ)の中で、俺は先代聖女に語りかける。


「必要悪……!? なんですか、それは!?」


 膨張した胴体、ドブみたいな色をした鱗に覆われる両腕、丸太みたいに太い両脚、そして、長くて太いトカゲのような尾をフルに活用しながら、緑色の肌をした異形(オーガ)──先代聖女は俺に肉弾戦を仕掛ける。

 俺は彼女の打撃を受け流しながら、彼女の質問に答えた。


「黒い龍……って言ったらピンと来るか? お前さんに力を与えたヤツだよ。アイツ、エレナを狙っている」


 ダメージが蓄積した所為なのか、それとも魔力が尽きかけているのか、さっきまで理性を失っていた先代聖女は何事もなかったかのように、理性を取り戻した。

 そして、逃げる事なく、俺の身体にダメージを与えようと、異形と化した全身を駆使して、打撃を与えようとする。

 俺はそれを躱しながら、彼女に交渉を持ちかけた。


「理由も動機も分からねぇが、あの黒い龍──必要悪はこの浮島(くに)にいる人を殺し尽くすついでに、エレナを狙っている」


 一瞬だけ、先代聖女の動きが止まる。

 だが、彼女は歯を食い縛ると、尾骶骨に付着したトカゲのような尾を鞭のように振るった。

 上空に跳ぶ事で俺は迫り来る尾を躱す。

 そして、先代聖女から大きく距離を取ると、彼女の良心に訴えかけた。


「俺はティアナ──人類の集合無意識に雇われた存在だ」


「……それは、知っています」


「通常、ティアナは人類の生命を脅かす存在を排除するため、無意識下で『生きたい』と望む人々の下に俺という使い魔を遣わせる」


「それも、知っています」


「だが、この浮島(くに)の人達の大半は無意識下でも『生きたい』と望んでいない。魔王という人類の生命を脅かす存在が現れたってのに、この浮島(くに)にいる人達は俺という使い魔を引き寄せなかった」


「………」


「俺という使い魔が顕現する条件は、『人類の生存を脅かす存在の出現』、そして、『人類の大半が無意識下で生存を望んでいる事』だ。この浮島(くに)はその条件を満たしていねぇ」


「………」


「そもそも、俺と『必要悪』は表裏一体の存在。俺という存在(つかいま)が同時に顕現できない。だから、今回の事態は本来あり得ねぇ事なんだ」


「……なにが、言いたいんですか」


「俺が浮島(ここ)に呼び出された時、俺は王都の王国劇場って所に降り立った。いつもの顕現と違って、ティアナは最低限の魔力しか与えられなかった。まるで王都にいる人間から魔力を分けて貰えと言わんばかりに。だから、当時の俺は王都にいた唯一の人間──エレナに接触した。いや、接触しなければならない状態に陥っていた」


『ただな、……なんか今回はいつもと違うんだよ』


『違うって、……一体どういう意味?』


『なんか無理矢理呼び出されたというか。ティアナから魔力を殆ど与えられない事なんて初めてというか。上手く言葉にできねぇが、いつもと違うんだよ』


 嬢ちゃん──エレナと初めて会った日の事を思い出す。

 あの時の俺は『いつもと違う』事を何となく感じ取った。

 

 けど、俺は先代聖女の記憶を覗き込むまで、

 

「……結論だけを述べてください。貴方の話は長過ぎます」


先代聖女(おまえさん)の記憶の中にいたセント・A・クラウスを名乗った老人──俺を呼んだのは、アレである可能性が非常に高い」


「………どういう意味ですか」


「言っただろ? 動機や理由は分からねぇって。けど、目的だけは大体予想できる。多分、アイツは俺にエレナを守らせるため、俺をここに呼び出したんだろう」


「……」


「俺の予想が当たっていた場合、あの老人──自称クラウスの目的は、エレナである可能性が非常に高い。この状況下で俺を呼び出せるって事は、あの自称クラウス、必要悪──黒い龍と繋がっている」


「………」


「必要悪がエレナを必要としているのか、それとも自称クラウスがエレナを欲しているのか、どっちかは分からなねぇが、手を打っておいた方がいい事には違いねぇ。──だから、先代聖女。エレナを守るため、力を貸してくれ。あんたの力が必要だ」


 先代聖女の敵意が若干薄れる。

 彼女にも思う事があったのだろう。

 目を泳がせながら、先代聖女は言葉を紡ぐ。


「……私は黒い龍──貴方が言う必要悪から力を分け与えて貰っています」


「大丈夫だ。あんたを生き返らせる事はできねぇが、あんたを別のモノに加工できる。もし力を貸してくれるんだったら、その異形(じょうたい)をどうにかしてやる」


「……貴方の要求を呑んだ場合、私はどうなるんですか」


「逃げられない状態になるだろうな」


 俺の返事を聞いた途端、先代聖女は口を閉じる。

 下に向けられる彼女の視線を見つめながら、俺はゆっくり息を吐き出した。



 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 ちょっと文字数が想定よりも膨れ上がったので、明日5月19日(日)20時頃にも更新します。

 更新速度はゆっくりですが、ちゃんと最後まで更新するので、これからもお付き合いよろしくお願いいたします。


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