表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/119

同じ笑みと「殺せない」と想定外

◇side:魔王


「──骨の髄までしゃぶってあげる」


 ドレスに身を包んだ少女──聖女エレナだったモノが笑みを浮かべる。

 その笑みを見て、オレは思い出す。

 数年前──聖女(かのじょ)と初めて会った時の出来事を。


(……やっぱ、同じ笑みだ)


 思い出す。

 封印から解き放たれたばかりの出来事を。

 深く考える事なく、衝動に赴くまま、王都にいた人間達を虐殺した時の事を。

 王都にいた人間共を踏み殺し、焼き殺し、擦り潰しているオレの前に現れた聖女(かのじょ)の姿を。


 あの時の聖女(かのじょ)は僧侶服を着ていた。

 ──今の聖女(かのじょ)はドレスのようなモノを着ている。

 あの時の聖女(かのじょ)の容姿は歳の割に大人びていた。

 ──今の聖女(かのじょ)は何処からどう見ても十歳前後の少女だ。

 あの時の聖女(かのじょ)は沢山の魔道具と聖女の証を身につけていた。

 ──今の聖女(かのじょ)は聖女の証以外の武器を持っていない。

 あの時の聖女(かのじょ)は誰かのために動いていた。

 ──今の聖女(かのじょ)は自分のために動いている……らしい。


(……分からない)


 あの時の聖女(かのじょ)と今の聖女(かのじょ)を見比べる。

 あの時の面影なんて一切なかった。

 サンタから与えられた悪影響で、聖女(かのじょ)の外面はすっかり変わり果てた。

 なのに、目は、笑みは、あの時の聖女(かのじょ)のままで──


「──っ!?」


 そんな事を考えていると、聖女だったモノが動き始めた。

 走る事なく、魔力を使う事なく、聖女は右足を前に動かす。

 彼女が一歩前に進んだ途端、オレの視線が彼女の所作(どうさ)に引き寄せられる。

 それが致命的──である事をオレは熟知していた。


「無駄だ」


 身体の内側にあった魔力を消費し、藍色の炎を生み出す。

 オレの魔力によって生み出された藍色の炎は、一瞬で檻のような形になると、聖女の小さくて幼い身体を呑み込んだ。


「お前じゃ今のオレを止められねぇ。力の差があり過ぎる。仮に聖女の証の力でオレの身体に傷を与えられたとしても、お前程度に与えられた傷だったら数秒も経たない内に完治する。お前じゃ今のオレに致命傷を与えられない」


「じゃあ、どうするの?」


 幼い顔に似合わない大人びた笑みを浮かべながら、聖女は左足を一歩前に動かす。

 ほんの一瞬だけ視線を左──気絶しているサンタの方に向けた後、頬の筋肉を更に歪ませる。

 それを見て、オレは確信した。

 聖女(かのじょ)に決定打がない事を。

 聖女(かのじょ)の思惑を。


「私を殺すの?」


「……殺せないとでも?」

 

 恐らく聖女(かのじょ)は時間を稼ごうとしているんだろう。

 サンタが気絶から立ち直るまでの時間を。

 時間を稼ぐため、オレと会話し、ゆったりした所作(どうさ)でオレの注意を惹きつけ、機会(チャンス)を待ち続けているんだろう。

 ……早く決着を着けるべきだ。

 そう判断したオレは藍色の炎で聖女(かのじょ)の身体を縛りつけ──


「──うん、貴方は私を殺せない」


 ──藍色の炎でできた檻が独りでに壊れる。

 炎の檻だった破片が辺り一面を覆い、爆炎と爆煙が聖女(かのじょ)の小さくて幼い身体を覆い隠す。

 想定外の光景を目の当たりにした所為で、オレの思考は一瞬だけ真っ白になった。


(なっ……!? 何が起きて……!?)


 聖女(かのじょ)から魔力を感じ取れなかった。

 じゃあ、何で聖女(かのじょ)を閉じ込めていた炎の檻が壊れた?

 まさかサンタの野郎が何かしたのか?

 考えながら、サンタの方に視線を向ける。

 サンタは横たわったままだった。

 サンタじゃない。

 じゃあ、何であの炎の檻は独りでに壊れ──


(何してんだ、オレは……!)


 慌てて聖女(かのじょ)の行方を探そうとする。

 だが、それよりも先に聖女(かのじょ)の小さくて短い足が、オレの右脛に激突した。

 ちょっとした痛みが右脛に走る。

 だが、痛かったのは一瞬。

 体内にある膨大な魔力のお陰で、一瞬で傷が癒えてしまう。


「……なるほど。匂いが薄い所を蹴れば、……じゃあ、次は、……」


 ブツブツ独り言を呟いている聖女(かのじょ)の頭に右手を伸ばす。

 聖女(かのじょ)の頭を右手で掴もうとする。

 彼女の頭に触れようとした瞬間、聖女(かのじょ)の小さくて短い身体から魔力が噴き出た。


「……匂いを辿るように身体を動かして、」


 聖女(かのじょ)の姿を見失う。

 身体能力を強化する魔法……いや、魔術とやらを使ったのだろう。

 想定した以上に聖女が素早く動いた所為で、オレは彼女の姿を見失う。

 だが、見失ったのは一瞬だった。


「匂いに沿うように脚を振れば、……」


 視線を背後に向ける。

 見失った聖女(かのじょ)の身体を発見した。

 オレの後頭部目掛けて蹴りを放とうとする聖女(かのじょ)の姿を目視する。

 オレは右手を動かすと、彼女の蹴りを手の甲で受け止めた。


「……想像していた動きと実際の動きが違う。でも、想定した通りに動いていたら、攻撃は通っていた。だったら、……」


 オレなんて眼中にないと言わんばかりの態度で、聖女だったモノは独り言を連発する。

 愉しそうに息を吐きだす。

 愉しそうに頬を緩ませ、愉しそうにオレの倒し方を考察する。

 

「……なんだよ」


 聖女と初めて会った時の事を思い出しながら、オレは眉間に皺を寄せる。

 初めて会った時と同じ笑みを浮かべる聖女(かのじょ)を見つめながら、オレは首を左右に振る。

 初めて会った時と同じように愉しそうにオレとの距離を縮める聖女(かのじょ)を見て、オレは疑問の声を上げる。


「お前、一体何を考えているんだよ……!?」


 星のように煌めく聖女の瞳を真っ直ぐ見つめる。

 今の聖女(かのじょ)に注目する事。

 それが致命的である事を知っているにも関わらず、オレは聖女(かのじょ)に注目してしまう。

 聖女(かのじょ)の一挙手一投足に視線を吸い寄せられる。

 オレの言葉なんて届いていないのか、聖女(かのじょ)は愉しそうに微笑むと、再びオレの視界から姿を消した。

 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は5月4日(土)22時頃に予定しております。

 ちょっと今日更新したお話の完成度に納得できていないので、もしかしたら次の更新までに加筆修正するかもしれません。

 加筆修正した場合、最新話の前書きやX(旧Twitter@Yomogi89892)等で告知しますので、よろしくお願い致します。


(追記)2024年5月3日20時

 申し訳ありません。

 私事により5月4日(土)の更新できません。

 次の更新は5月11日(土)22時頃に予定しております。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ