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薄い匂いと逃走手段と閃き

 景色(せかい)が変わる。

 環境と状況がガラリと変わり、対応を迫られる。

 先代聖女の心器(きりふだ)は私達に適応力を求めた。

 即座に状況に適応しないと、すぐさま命を刈り取られる。

 選択の誤りなんて、以ての外。

 手渡された選択肢に気づかなければ、選択するよりも先に息絶えてしまう。


「サンタ、どれくらい持ちそう……!?」


 景色がぐにゃりと歪み、私達は山の上に放り出される。

 周囲が木々に取り囲まれたかと思いきや、四方八方から矢が飛んできた。


「長くは持たねぇ。大体二時間か三時間程度だ」

 

「結構余裕あるんだね」


 私の身体を右手で抱えつつ、のほほんとした表情を浮かべながら、サンタは真上に跳ぶ事で飛んできた矢を躱わす。


「いや、余裕なんてねぇ。今は先代聖女一人だから何とかなっているが、魔王まで出て来ちまうと、この状態を維持できねぇ。さっさと先代聖女……或いは魔王の居場所を特定してくれ」


「そう言われても、先代聖女の匂いが薄くて……此処かなーって思ったら、景色が一変しちゃうし」


 サンタの腕の中で深呼吸した後、感覚を尖らせる。

 先代の居場所を探る。

 この心器(アニマ)とやらの効果なのか、それとも遠くにいるのか、先代聖女の匂いは非常に薄かった。

 集中する。

 集中する事で先代聖女の具体的な居場所を探ろうとする。

 が、次々に襲いかかる先代聖女の攻撃の所為で、集中はすぐに途切れてしまう。

 先代聖女の匂いよりも迫り来る攻撃の匂いを感知してしまう。

 八方塞がりだ。

 頭ではサンタが攻撃を何とかしてくれると分かっているが、身体が敵の攻撃に反応してしまう。

 このままでは先代聖女の居場所を特定する事なんてできない。

 

「嬢ちゃん、先代聖女の特定が難しいんだったら、魔王の居場所を教え……」


「魔王は匂いさえしない。もしかしたら、この心器(なか)にいないかもしれない」


「だったら、大体の方角でいい。先代聖女の居場所を教えてくれ。そこ目掛けて、広範囲かつ高威力の攻撃をぶっ放す」


 了解と呟いた後、先代聖女の大体の居場所を探り始める。

 大体でいいんだったら、すぐに特定できる筈だ。

 鼻を鳴らす。

 先代聖女の匂いを感知した。

 サンタに指示を飛ば──そうとした瞬間、景色が歪む。

 気がつくと、私達は燃え盛る町の中に放り出されていた。

 波のように押し寄せる炎。

 サンタは私を抱えたまま、後方にジャンプする。

 サンタの腕の中で、私は再び感覚を尖らせた。

 先代聖女の匂いを感知する。

 具体的な場所まで分からないけど、先代聖女は右の方にい──ると思いきや、景色がぐにゃりと歪む。

 今度は草原に放り出された。

 空から降り落ちる鉄塊が私とサンタを襲う。

 サンタは右の方に大きく跳ぶと、落ちてきた鉄塊を間一髪の所で避けた。

 再び先代聖女の匂いを感知する。

 その瞬間、視界がぐにゃりと歪み、私達は湖の上に放り出された。


「……っ! サンタ! 分かった! 先代聖女は私達に攻撃していないと思う!」


「はぁ!? 嬢ちゃん、何言ってんだ!?」


 湖の中から大きな魚が出て来る。

 魚は大きな口を開くと、私達の身体に噛みつこうとした。

 大きな魚を一瞥した後、サンタは大きな魚を難なく蹴り飛ばす。

 そして、湖の上に立つと、私の方に視線を向けた。


「多分だけど、先代聖女は私達から逃げている。だから、私が先代聖女の居場所を感知した瞬間、景色が変わっているんだと思う……!」


「じゃあ、先代聖女の居場所を探すのは逆効果って事か?」


「私の予想が正しければ」


「……なるほど。心器(これ)は攻撃手段じゃなくて、逃走手段って事か」


 そう言って、サンタは青い空と地平線の彼方まで広がる湖を見渡す。

 私達が探す事を中断した影響なのか、攻撃は飛んで来ない上、景色も変わらなかった。


「追いかけるのを止めたら、攻撃が止んだ……って事は、嬢ちゃんの予想は強ち間違いでもねぇかもな」


「でも、追いかけないと此処から出られないし、時間を消耗してしまう」


「ああ。これ以上、先代聖女に時間をかけられねぇ。この後、魔王をどうにかしなきゃいけねぇんだ。此処で道草食っている場合じゃねぇ」


 考えろ。

 追えば、逃げられる。

 追わなければ、時間を消耗してしまう。

 現状維持で得するのは、先代聖女と魔王だけだ。

 時間を消耗すればする程、私とサンタは不利な状況に陥る。

 考えろ。

 何かある筈だ。

 考えろ。

 考えろ。

 考え──


(ん……? 逃げる……?)


 引っかかる。  

 もし。

 もしもこの空間が本当に『逃げるため』のものなら。

 先代聖女の心器(きりふだ)が逃走するためのものなら、先代聖女は私達から距離を取っている筈だ。

 私達に追いつかれないよう、遠くに逃げている筈だ。

 にも関わらず、先代聖女の匂いが薄ら残っている。

 先代聖女は一定の距離を保ちつつ、私達の動向を伺っている。


(もしかして、これは……この心器とやらは、)


「……サンタ」


「あん? どうした、嬢ちゃん。何か閃いたか?」


 首を縦に振る。

 こんな短期間で私が打開策を思いつくとは思っていなかったのだろう。 

 首を縦に振る私を見て、サンタはちょっとだけ驚いた表情を浮かべた。

 そんな彼を眺めながら、私は提案を投げかける。


「この状況をどうにかする方法、一つだけ思いついた。サンタ、ちょっと付き合って」


 ──魔王、完全復活まで残り十分。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は3月2日(土)22時頃に予定しております。


(追記)

 ちょっとリアルが忙しいので、本日の更新はお休みさせて貰います。

 次の更新は3月9日(土)22時頃に予定しております。

 色々やらなきゃいけない事があるので、もしかしたら3月の更新は殆どないかもしれませんが、リアルが落ち着き次第、更新速度を上げていきますので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

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厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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