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思った事と本音と勝算


「……いや、違う」

 

 前に進もうとするサンタの袖を掴む。

 サンタの視線が再び私の方に向けられる。

 私はサンタから目を逸らすように俯くと、衝動に突き動かされるがまま、思った事をそのまま口にし始めた。


「サンタにどうにかして欲しい訳じゃない……サンタに人の話を聞かない馬鹿共を止めて欲しいんじゃない……多分、私は誰かを助けたい訳じゃなくて、この状況をどうにかできない自分に腹を立てているんだと思う」


 私の身体にしがみつく『聖女としての自分』を投げ捨てる。

 聖女としてではなく、私個人の言葉を紡ぎ始める。


「上手く言葉にできないけど、多分、私はこの状況を何もできていない自分に腹を立てているんだと思う。やりたい事をできていない自分に不快感を抱いている……んだと思う。よく分からないけど、私がやりたい事は、彼等を救う事じゃないと思う」


 神造兵器を行使する第二王子を眺めながら、幻覚を駆使して第二王子の攻撃を避ける元騎士を眺めながら、私は思った事を口にし続ける。

 聖女としての自分ではなく、ありのままの自分の言葉を必死になって紡ぎ続ける。


「私自身も自分で何を言っているのか分からない……けど、ここで何もしないのは嫌だ。彼等が自滅する姿を見続けるのは嫌だ。誰かを助けたいんじゃない。この状況を何とかできない自分をどうにかしたい。私は、……」


 思った事を口にし続ける。

 推敲も反芻もしていない所為で、私の口から出る言葉は支離滅裂だった。

 そんな私の言葉をサンタは聞き続ける。

 だから、私は甘えてしまった。

 だから、私は彼に寄りかかってしまった。


「私は、何もできない今の自分と決別したい。できる事を増やしたい。聖女のままだと、ダメだ。聖女のままだと、この状況を何とかできない。だから、聖女じゃない自分を見つけ出したい」


「ミス・エレナ、貴女は一体何を言って……!?」


 第三王子が何か言っている。

 けれど、今の私は彼に構っている余裕を持っていなかった。

 自分の気持ちを言葉にするだけで精一杯だった。

 

「あー、ややこしい。一言でまとめろ」


 そう言って、サンタは俯く私の頭を撫でる。

 投げやりな言い方をしているけれど、彼の声色はとても優しいものだった。

 顔を上げる。

 サンタの目をじっと見つめる。

 私の事をじっと見続けるサンタの瞳を見つめながら、私は思った事を口にした。


「──美し(つよ)くなりたい」


 心臓がドクンと跳ね上がる。

 誰かの言葉が私の背を押す。

 誰かの言葉が聖女という重い皮を被った私の背中を突き飛ばす。

 ──第二王子の神造兵器を捕食する元騎士の姿を知覚する。

 喉が渇く。

 ──声を荒上げる第三王子の姿を知覚する。

 腹が鳴る。

 ──私の言葉を待ち続けるサンタを真っ直ぐ見据える。


「何処でも生きていける強さが欲しい。誰かを助ける強さじゃない。私は、自由に生き続けたい。自由に生きるための強さが欲しい」


「そうか」


 身勝手な我儘(ねがい)

 それをサンタは一言で受け入れてしまった。

 サンタの瞳を見る。

 彼の瞳には『私』の姿が映し出されていた。

 聖女としての私ではない。

 我欲を剥き出しにしている醜い私の姿が、サンタの瞳に映し出されていた。


「ようやく自分(いのち)と向き合えたな」


 そう言って、サンタは元騎士の姿を一瞥する。

 元騎士はというと、第二王子が持っていた神造兵器を胎内に取り込んでいた。

 

「嬢ちゃん。俺にできる事は、たかが知れている」


 サンタの身体から魔力が噴き出る。

 それを知覚した瞬間、私はサンタの姿を見失ってしまった。


「俺の力じゃ、嬢ちゃんの期待には応えられないかもしれない」


 尻餅を突く第二王子。

 武器を失い、丸腰になった第二王子は情けない悲鳴を上げていた。

 第二王子を襲おうとする元騎士。

 元騎士が血走った目で走り出そうとした瞬間、サンタの飛び蹴りが元騎士の後頭部に突き刺さった。


「でも、考える時間だけは確保してやる。だから、嬢ちゃん。人を知れ、世界を識れ」


 遺跡の床に叩きつけられた元騎士の身体が起き上がる。 

 第一王子と第二王子の神造兵器を取り込んだ影響なのだろうか。

 私の感覚が正しければ、彼の身体は先程よりも頑丈になっていた。


「思考を止めるな。常に最善を追い続けろ」


 高密度の魔力を纏った元騎士。

 パワーアップした元騎士に怖気つく事なく、サンタは何処からともなくハンドベルを取り出す。

 

「聖女という皮を脱ぎ捨てろ。そうすりゃ、嬢ちゃんはもっと……おぼよぉ!?」

 

 キメ顔を作っていたサンタの顔面に元騎士の拳が叩き込まれる。

 油断していたんだろう。

 サンタは情けない断末魔を上げると、無様な格好で床の上を転がりまくった。


「ええええええええ!!??」


 鼻血を垂らしつつ、うつ伏せの態勢で寝転ぶサンタ。

 勝利の雄叫びを上げる元騎士。

 そして、自らの死を確信して股を湿らせる第二王子。

 私の素っ頓狂な声が遺跡の中を駆け巡る。

 

「ちょ、サンタっ!? なんであんな攻撃喰らっているの!? いつもだったら、簡単に避けているじゃん!?」


「あー、すまん。カッコつけるのに集中し過ぎていた」


「カッコつけるんだったら、最後までカッコつけて!」


 うつ伏せの態勢のまま、起き上がらないサンタ。

 それを好機と思ったのか、理性を失った元騎士はサンタに襲いかかる──事なく、第三王子の下に向かって駆け出す。

 あまり頭が良くない私でも理解できた。

 元騎士の狙いが。

 彼は奪うつもりなのだ。

 第三王子が持っている神造兵器を。

 

「ああ、……もう!」

 

 起き上がらないサンタから目を逸らし、私は第三王子の下に向かって駆け出す。

 第三王子は特に焦る事なく、腰を少しだけ落とすと、腰に着けていた神造兵器を鞘から解き放った。

 


◇side:魔王


 ──チャンスだ。

 第一王子と第二王子の神造兵器を取り込んだ虐者(ワンコ)の姿を知覚する。

 神造兵器(オレのあじ)を覚えたんだろう。

 理性を失った虐者は、更なる力を得るため、神造兵器を持っている第三王子に襲いかかった。


(分かってる。サンタ(あいつ)が敢えて攻撃を喰らった事くらい。オレにとって絶好の機会を作るため、アイツは敢えて隙を作った)


 避けられる攻撃を敢えて避けなかったサンタの姿を知覚しながら、オレは己の魔力を昂らせる。


(何でアイツがあんな不自然なやり方で隙を作ったのか分からねぇが、このチャンスを見逃す訳にはいかねぇ。あの虐者が第三王子の神造兵器を取り込んだ瞬間、オレはあの虐者を喰らう)


 きっとサンタはオレの妨害を行うだろう。 

 そのために必要な準備を済ませているのだろう。 

 だが、どんな手段を用意していても、オレの方が早い。

 第三王子の神造兵器は回収できないかもしれないが、虐者が取り込んだ神造兵器は確実に回収できる。


(準備は万全じゃねぇ。が、勝算はある。チャンスを掴むには、今動くしかねぇ……!)


 魔力を得た第三王子の神造兵器が輝き始める。

 理性を喪失した虐者が幻覚(こうげき)を繰り出した瞬間、聖女エレナの注意が、サンタの視線が、虐者と第三王子に向けられた瞬間、オレは賭けに出た。

 

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は10月27日(金)22時頃に予定しております。

 ちょっとリアルが忙しくなってきたので、今年中に完結は無理そうですが、ちゃんと完結させるので、最後までお付き合いよろしくお願い致します。

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厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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