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対話と『自分のため』と取引

 一瞬の出来事だった。

 今の今まで黙っていた元騎士が暴れ始める。

 元騎士は無造作に床を蹴り上げると、腕力だけで高等騎士数名を戦闘不能状態に追いやった。


「嬢ちゃん、覚悟を決めろ。──今の俺達じゃ、誰も救えない」


 第二王子の短い悲鳴が、騎士団長の驚きの声が、第三王子の冷めた視線が、サンタの溜息が、かつて王間だった空間を満たし始める。

 止める暇なんてなかった。

 いや、止める余地なんてなかった。

 第二王子は私の話を聞こうとしなかった。

 元騎士もそうだ。

 2人とも私の話を聞いてくれなかった。


「ぐるるる……!」


 黒く澱んでいる元騎士の瞳が第二王子の方に向けられる。

 第二王子を殺すつもりだ。

 そう判断した私は縋るような思いでサンタの方に視線を送る。

 サンタは溜息を吐き出すと、首を横に振りながら、こう言った。


「あいつらは対話する事を放棄している。言葉は通じているが、会話が成り立っていねぇ。獣そのものだ。対話できない以上、力尽くでしかアイツらを止められない」


「………」


「仮に力尽くで止めたとしても、第二王子もデッカいワンちゃんも変わらない。あいつらは他責の化物だ。この状況になったのは自分の所為じゃない。あいつが悪い。自分にこんな事をさせる誰かが悪いと思っている。自分が悪いと思っていないから、自分の言動を省みようとしない」


 サンタは悲しそうな横顔を見せながら、高等騎士を襲い続ける元騎士を見つめ続ける。


「あいつらが自省しない限り、あいつらは際限なく過ちを繰り返し続ける。(つみ)と向き合うなんて事は絶対にやらない。自分の犯した罪を、他の人に擦りつけ続ける」


「……サンタ」


「それでも嬢ちゃんはアイツらを救いたいと思うのか? 嬢ちゃんの話を聞こうとしなかった、あいつらを」


 そう言って、サンタは私の眼を見る。

 私は彼の質問に答える事ができなかった。

 口を閉じている暇なんてないのに、口を閉じてしまう。

 自分の気持ちを言語化する事ができなかった。

 一体、私はどうしたらいいのだろう。

 私は何を考えているのだろう。

 頭の中がごちゃごちゃになる。

 聖女としてやらなければいけない事は分かる。

 けど、聖女としてやらなければならない事は、今の私の本心とかけ離れているような気がした。


「──嬢ちゃんは、一体誰を助けようとしているんだ?」


 サンタが私に問いかける。  

 以前、サンタが口にした疑問。

 あの時、答えられなかった問いが再度私の身に降り注ぐ。

 一体、私は誰を救いたいと思っているんだろう。

 今の私は聖女じゃないのに、誰を救おうとしているんだろう。

 考える暇なんてないのに考えてしまう。

 やらなければいけない事は決まっているのに、立ち止まってしまう。

 一体、私は何をしているんだろう。

 私は何がしたいんだろう。

 何でサンタは第二王子や元騎士よりも私を優先しているんだろう。

 分からない。

 分からない事だらけだ。


「……サンタ」


 考えようとする。

 が、それよりも先に私の口から言葉(ほんね)が漏れ出てしまった。


「……私を、助けて」


 私にとって予想外の一言が私の口から飛び出す。

 

「此処で彼らを見殺しにしたら、後悔、してしまう……助けられなかった自分に嫌悪してしまう。嫌な思いをしてしまう。私は、嫌な思いを、したくない。私は、……私を、助けたい」


 支離滅裂な答え。 

 私自身でも理解できていない言葉が口から漏れ出る。

 論理的じゃない、感情任せで自分勝手な言葉。

 サンタの質問に答えているようで答えられていない。

 

『で、嬢ちゃんはこれからどうするんだ?』


 思い出す。

 サンタと初めて会った時の出来事を。

 時計塔の最上階でサンタと話した内容を。


『……それは誰のためなんだ?』


 あの時のサンタの言葉を思い出す。

 彼は尋ねた。

 何故困っている人を助けようとしているのか、と。

 あの時、私は『自分のために人助けを行う』と言った。

 『困っている人、今苦しんでいる人を全て助けたい』と言った。

 『沢山の人を助けたいから、力を貸して欲しい』とサンタに言った。

 

「……我儘言っている事は、分かってる。でも、私の力じゃどうしようもないから……この状況をどうしたらいいか分からないから……私を、助けて、欲しい」


 あの時と同じ答えが、私の口から飛び出る。

 その瞬間、私は理解した。

 自分が『聖女としての自分』に固執していた事を。

 聖女を辞めたにも関わらず、私は聖女であり続けようとしていた。

 その事実を自覚してしまう。

 その事実を自覚した途端、私は自分の気持ちを知ってしまった。


「そういう取引(やくそく)だっただろ?」


 そう言って、サンタは私を助けるため、元騎士と第二王子を止めようとする。

 その後ろ姿を見た途端、胸の内から衝動が生じた。

 

「……いや、違う」

 

 前に進もうとするサンタの袖を掴む。

 サンタの視線が再び私の方に向けられる。

 私はサンタから目を逸らすように俯くと、衝動に突き動かされるがまま、思った事をそのまま口にし始めた。



 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 想定以上に文字数が多くなってしまったので、次の更新は本日22時頃に予定しております。

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厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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