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この行き場のない怒りに終焉を(3)

──話は数十分前まで遡る。



「嬢ちゃん、本当にここにいるのか?」


「うん、この奥に第二王子達がいる」

 

 古びた遺跡の中を歩きながら、私の前を歩くサンタの疑問に答える。

 初代国王が建国以前に使っていた王城は、今にも朽ち果てそうなくらい自然と同化していた。

 崩れた石造の家屋も殆ど蔦や木に覆われているし、銅像があったであろう場所には土台しか残っていない。

 かつて城として使われていた建物もボロボロだ。

 殆ど原型が残っていない。


「にしても、二番目の兄さんがこんな所にいるとは……かなり追い詰められているみたいですね」


 私の斜め前を歩く第三王子が言葉を発する。

 彼の吐き出した言葉からは何の匂いもしなかった。

 視線を横に向ける。

 私の隣。

 重い足取りで歩くデッカいワンちゃん──元騎士が目に入る。

 何か考え事をしているのだろうか。

 幾ら話しかけても、元騎士は私の声に応えなかった。


「あ、あの、」


 再び声を掛ける。

 案の定、私の言葉は無視されてしまった。

 一体、何を考えているのだろう。

 そんな事を考えながら、私はサンタ達と共に遺跡の奥に向かう。

 歩いて、歩いて、歩き続けて。

 私達は遺跡の奥の奥にある部屋に辿り着く。

 遺跡の奥の奥には、第二王子と騎士団長、そして、高等騎士──騎士団の中で優秀と認められた騎士の総称──が居座っていた。


「よお、聖女。久しぶり」


 部屋の奥の奥にある上座。

 石でできた玉座に鎮座している第二王子が私に声を掛ける。

 その後、第三王子とサンタ、そして、私達の背後にいる元騎士を一瞥すると、嫌そうな顔をしながら、こう言った。


第三王子(おとうと)と行動しているのは、何となく分かるんだけど、そっちの男と背後の化け物はなに? 何で俺の前にそいつら連れてきてんの?」


第二王子(にいさん)、話せば長くなるのですが……」


「長くなるんだったらいいよ。興味ないし。それよりも、俺の騎士(ぶか)を襲っている化け物がいるみたいなんだよね。そいつ、やっつけてくんない? これ以上、手駒(ぶか)がいなくなると困るんだよね」


 第二王子は古びた玉座に座ったまま、骨付き肉に齧り付く。

 あの骨付き肉は一体何処から採ってきたのだろうか。

 第二王子はそこそこいいものを食べていた。


「あの、第二王子。この遺跡にいるのは、ここにいる人達で全員ですか?」


「ん、そうだけど」


 以前よりも痩せてしまった騎士団長と高等騎士を見比べながら、第一王子が保護した人達を思い出しながら、第二王子に質問を呈する。

 第一王子のように民間人を保護していないのか、彼は『なに当たり前の事を聞いてんだ』みたいな表情を浮かべながら、私の疑問に答えた。


「……民を、保護したりとかしていないんですか」


「する訳ないじゃん。今、俺は第一王子(アニキ)殺す事で手一杯なの。あ、聖女、第一王子(アニキ)何処にいるのか知らね? 第一王子(アニキ)殺さないといけねぇの」


 ヘラヘラ笑いながら、第二王子は私の疑問に答えた後、聞いていない事を口にする。

 第一王子や目の前にいる騎士団長と違い、第二王子の容姿は以前よりも少しだけ『ふくよか』になっていた。

 多分、食うものに困っていないんだろう。

 顎の下に少しだけ贅肉がついた第二王子を見つめながら、私は目を細める。


国王(オヤジ)がさ、第一王子(アニキ)殺すまで神殿に戻るなみてぇな事を言ってんの。だから、こんな所で生活しなきゃいけねぇ事になっちまった。あ、聖女、俺の代わりに第一王子(アニキ)殺してくんね? お前、聖女なんだろ? だったら、王族(おれ)の言う事聞いてくれるよな?」


「……あの、第二王子」


「ああ、あと、外にいる気持ち悪い化け物達を処分しておいてくれよ。ほら、肌が緑色の化物。なんか知らないけど、あの緑色の化物、王族貴族(おれたち)を殺そうとしていてさ。本当、困っているんだよね」


 私の話を聞く事なく、第二王子は一方的に自分の話をし続ける。

 会話が成り立っていないと判断したのだろう。

 今の今まで黙っていた第三王子が口を挟む。


「あの、第二王子(にいさん)、ミス・エレナの話を聞いてやってくださ……」


「うるさい」


 何処からともなく現れた剣が衝撃波を放つ。

 あの剣が神造兵器──魔王の身体の一部──である事を理解した途端、第三王子の背中が遺跡の床に激突してしまった。


「病持ち(けっかんひん)が俺に話しかけてんじゃねぇよ。俺は次期国王なんだぞ? なに対等な面して話しかけてんだよ」


 咳き込む第三王子。

 玉座に座ったまま、私達を見下ろす第二王子。

 そして、第二王子の横暴を咎めようとしない騎士達。

 以前、目の前の光景と似たようなものを見たような気がする。

 だが、私の悪癖──『嫌な事をすぐ忘れる』──が発動したのか、それとも何者かに記憶を弄られたのか、具体的に思い出す事ができなかった。


「……第二王子、貴方は一体何を、」


「そういやさ、聖女はどうやって此処に辿り着いたの?」


 第三王子を傷つけた第二王子を問い詰めようとする。

 が、私の話を聞くつもりがないのか、第二王子は自分がしたい話をし始めた。


「そこにいる第三王子(けっかんひん)が守ってくれたのか? それとも、お前らの背後にいるでかい犬が守ってくれたのか?」


「……次期国王陛下。その、……」


「黙ってろ、俺は聖女と話してんだ」


 そう言って、第二王子は口を挟もうとした騎士団長に不可視の攻撃を仕掛ける。

 騎士団長は腹部に重い攻撃を喰らうと、床に膝を着き、苦悶に満ちた声を発し始めた。

 ……目の前にいる第二王子に不快感を抱いてしまう。

 サンタも私と同じ気持ちになっているのだろう。

 何も言葉を発していないが、嫌そうな顔をしていた。


「いえ、私を守ってくれたのは、隣にいるサン……いや、彼でして」


「あー、そうなの。じゃあ、その犬は処分していいんだ」


 第二王子の言っている言葉の意味が理解できなくて、つい言葉を詰まらせる。

 第二王子は戸惑う私に構う事なく、デッカいワンちゃんと化した元騎士を指差すと、こんな事を言い出したら。


「んじゃあ、死刑」


 元騎士の身体から嫌な匂いが放たれる。

 その匂いを感じ取った途端、私の背筋に冷たいものが流れた。

 反射的に振り返ろうとする。

 が、私の行動よりも先に第二王子が失言する方が早かった。


「見た目がキモい。騎士団長、さっさとあの犬みたいなヤツを殺して」


 その言葉を聞いた瞬間、私は理解する。

 サンタが即座に理解した事実を、ようやく理解する。

 ──もう、何もかも手遅れである事を。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は10月20日(金)20時頃に予定しております。


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厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
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