表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

35/119

今に至るまでの出来事と精鋭と逃亡生活

◆side:アルベルト


 眼前に広がった無数の墓石を眺めながら、右手に着けていた手袋を外す。

 オーガにつけられた右手の古傷が、俺を詰るような目で睨みつけていた。

 肺の中に溜まった空気を吐き出す。

 眼前に広がった無数の墓石を眼に焼き付けながら、こう思った。


 ──人の命は俺が思っている以上に重く、儚いものだ、と。


(……これが、アイツが見ていたものなのか?)


 約二年間。

 エレナが見ているものを理解するため、俺は国王(ちち)が見捨てた民衆を救おうと試みた。

 けど、掬えたのは僅かな命だけだった。

 沢山の命が掌から滑り落ちた。

 

「………」


 右手の古傷をじっと見つめる。

 異形(オーガ)と化した民衆につけられた古傷は、今の俺を詰るような目で睨んでいた。

 腰に携帯している神造兵器が小刻みに揺れているのを知覚しながら、自分自身に毒吐く。


「……ああ、クソ」


 今に至るまでの出来事を思い出す。

 エレナに婚約破棄を言い渡した。

 魔王が現れた。

 父と縁を切った。

 エレナと同じものを見ようと人助けを行った。 

 王都に残った人達を連れ、南の方にある未開拓の地に向かった。

 誰も住んでいない地を切り拓き、村を作った。

 狩猟を行った。

 採集を行った。

 将来のために農民の力を借り、みんなで畑を作ろうとした。

 未開拓の地は魔王の影響を殆ど受けてなかったので、土地は痩せ細っていなかった。

 数年かければ、それなりのインフラを築く事ができると確信した。

 畑を耕した。

 生まれて初めて農作業をやった所為で、俺はみんなの足を引っ張り続けた。

 みんなは俺の愚行を許してくれた。

 それどころか、俺の事をリーダーとして認めてくれた。

 国の後ろ盾がなくなった俺を何でリーダーに選んだのか分からない。

 けど、俺は心の底から彼等の期待に応えたいと思った。

 彼等の期待に応えるため、先ず俺はみんなと話し合った。

 話し合った結果、ルールを作る事にした。

 みんなで共存できるルールを。

 法律の知識をちょっと齧っているお陰で、ちょっとだけ役に立てた。

 水を補給できるよう井戸を作った。

 雨風を凌げるよう、木の家を立てた。

 畜生に畑を荒らされた。

 頭の良い人達に魔術を教える事で生活のレベルを底上げしようと試みた。

 収穫祭を開催した。

 農民の人達が教えてくれた『クラウス生誕祭』と呼ばれるものをやった。

 そこそこ順調だった。

 一年経とうとする頃には、村のインフラは8割方完成していた。

 そこそこ平穏な日々が始まった。

 けど、その平穏な日々は長く続かなかった。

 新たな生活が盤石なものになりつつある頃、国王(ちち)の使いである騎士が俺達に『採った食糧(もの)の三分の二を渡せ』と要求した。

 俺について来てくれた人達は反発した。

 騎士は力尽くで言う事を聞かせようとした。

 俺はついて来てくれた人を守るため、騎士を殺してしまった。

 初めて人を殺した。

 殺す気はなかった。  

 けど、手を抜いたら、こっちが殺されてしまうので、手を抜けなかった。

 その結果、殺してしまった。

 使いが殺された事を知った国王(ちち)は、俺達を殺すため、精鋭を送り込んだ。

 精鋭の中には学生時代の友人や俺が次の聖女として選んだアリレル、そして、第二王子(おとうと)が混ざっていた。

 話し合おうとした。  

 聞く耳は持っていなかった。

 闘うかどうか迷った。

 けど、背負った沢山の命が俺から逃げの一手を奪い取った。

 ……かつての顔馴染みと殺し合った。

 友人を沢山殺した。

 守っていた人達が沢山殺された。

 身体に沢山の傷がついた。

 アリレルは光魔法で俺が守っていた人達を虐殺した。

 第二王子(おとうと)は神造兵器や騎士(ぶか)を使って、逃げ惑う人々を殺害した。

 守っていた人達が『黒い龍』と契約を交わした。

 守っていた人達の多くが異形(オーガ)と化した。

 手を汚そうとする彼等(オーガたち)を止めようとした。

 ……止められなかった。

 返り討ちに遭ってしまった。

 争うかつての顔馴染みと異形(オーガ)となった人達に背を向け、逃亡した。

 異形(オーガ)になっていない百数人と一緒に逃亡した。

 逃げた。

 逃げている最中、十三人亡くなってしまった。

 逃げた。

 追手に攻撃され、身体の至る所に傷がついた。

 逃げた。

 逃げている最中、俺は自分と聖女(エレナ)を比較した。

 孤児の保護。

 浮浪者を対象にした炊き出し。

 災害に見舞われた城下町の復旧作業。

 そして、怪我や病で苦しんでいる人達の救済。

 ちゃんと人を救っている聖女(かのじょ)と今の自分を比較して、劣等感を抱いた。

 ──聖女(エレナ)が見ているものを知りたい。

 追手から逃げる頃には、もうそんな余裕のある事を言えなくなってしまった。

 願いとは余裕のある者が持つ者だ。

 生きる事が儘ならない人が、他の人の命を背負っている人が、持つ者ではない。

 きっと聖女(エレナ)が自らの心身を削っていたのも、余裕がなかったからだろう。

 自分の願いを抱く余裕を持っていなかったんだろう。

 聖女(エレナ)が見ているものは未だに理解できていない。

 けれど、彼女に余裕がなかった事だけは何となく理解できた。



 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方、そして、新しくブクマしてくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は8月24日(木)20時頃に予定しております。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
厚かましいと自覚しておりますが、感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ