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恵まれぬ者に金塊を(承)

◆side:クラウス


「セント・A・クラウス。それが貴方という象徴(マスコット)の名前よ」


 結局、俺は聖人(マスコット)になった。

 別に聖人になりたい訳でも、困っている人を救いたい訳じゃない。

 エミリーに命を助けられた。

 受けた恩を踏み倒せる程、当時の俺も腐った人間じゃない。

 その所為で、エミリーが人治国家を樹立させるまでの二年間、俺は聖人(マスコット)としてこき使われた。

 二年。

 劣化エリクサーで寿命を伸ばし続けた俺にとって、短い時間。

 もう記憶は殆ど掠れて、覚えていない事が大半。

 けれど、これだけは覚えている。

 二年間の殆どが浮島(くに)を支配する神々との闘いだった事を。

 と言っても、後世に語り継がれるような華々しい闘いを繰り広げた訳じゃない。

 聖人らしい所業をした訳でもない。

 自らを聖人だと嘯き、期待を煽るため味方を騙し、闘いを有利にするため敵を欺き、少しでも敵の戦力を削ぐため武器や食糧を盗み、そして、確実に勝利するために全ての手段を用いて敵を殺す。

 そんな歴史の教科書どころか物語にさえならない所業を延々と繰り返す事で、俺達は勝利を掴み取った。


「神々を生かす必要も活かす理由もないわ。アレは人の世にいてはならない存在。人類どころか他の生命でさえも共存できない個体よ」


 エミリーの言う通り、神々の精神構造は共存に適しないモノだった。

 どの神王も生かす価値なんてなかった。

 先ず最初に闘ったのは、西の国の神王。

 『性能が劣っているから』という理由で人間達を見下し、『見ていて面白いから』という理由で人間を牛に変え、『口に入れば同じだから』という理由で牛に変えた人々を食べている西の国の神王と闘い、暗殺した。

 次に闘ったのは、南の国の神王。

 『性能が劣っている人間を効率良く使う。それが神であり王でもある私の役目だ』という理由で人間を虐げていた南の国の神王と闘った。

 南の国の神王は狡猾で悪辣だった。

 ヤツは魔法を使えない人々を生きた爆弾に造り替え、魔法が使える人々は自由意志のない操り人形に加工した。

 それだけじゃない。

 あろう事か、南の国の神王は人間との間に作った自らの子──半神半人を素材に一角獣(ユニコーン)の大群を生み出し、それらを戦略的に使う事で俺達を二つの意味で苦しめた。

 ただ効率良く敵を排除するために。

 迅速に敵を駆除するために。

 南の国の神王は所有している人間だけでなく、自らの子どもを消耗品の道具として扱い、俺達の陣営に多大な被害をもたらした。

 それでも、エミリーの機転や仲間達の奮闘そして、戦闘を通し得た技術により、俺達は南の国の神王を殺害する事に辛うじて成功。

 そして、──


「神々は善悪でも美醜でもなく、性能の良し悪しで物事を判断している、神々(かれら)は自分達よりも性能が劣っているモノに同情なんかしないし、社会を形成するために人を残そうと考えたりしない。己が愉悦のために性能の悪いモノを虐げる。それが神々の生態よ」


 当時十二歳だったエミリーは俺達の手を借りる事で殺害する事に成功した。

 東の国神王──実の父を

 父側についていた兄弟達を。

 そして、自らの母親も。

 

「私が浮島(てんか)統一を狙う理由は、自分のため。人間が滅んだ後、神々の矛先は半神半人である私に向けられる。アレは父性なんてものを持ち合わせちゃいないわ。いつか神よりも性能が劣っている私達半神半人を虐げる。此処で使い潰される人間達を見て見ぬフリしてしまったら、いつか自分も使い潰される。そう思ったから、私は父達を殺す事を選択したのよ」


 神々に使い潰される人間達のような末路を辿りたくない。

 それが建前(りゆう)だとエミリーは言った、肉親だった死骸(モノ)を見ながら。

 自らき言い聞かせるように建前(りゆう)を口にする彼女を見て、俺はようやく気づいた。

 彼女が浮島(てんか)統一を目指す本当の理由を。

 ──弱者が報われる国を作りたい。

 その一心で、彼女は俺という聖人(マスコット)を使い、人を掻き集め、この浮島(くに)に巣喰う神々を排除し、そして、肉親に手をかけた。

 ただ『虐げられる人達が可哀想』という本音(りゆう)だけで。

 『弱者が報われる世界でいて欲しい』、ただそれだけの理由で。

 エミリーは成し遂げてしまった。

 浮島(てんか)の統一、そして、人治国家の樹立を。

 多大な代償を支払う事で、エミリーは成し遂げてしまった。


「……」


 自分の(きもち)から目を背け、奪っ(おかし)た(つみ)を背負うエミリー。

 こんな事を彼女に選択させてしまった。

 自分自身に嫌悪感を抱く。

 それと同時に、俺は思った。

 『エミリーが嫌いだ』、と。

 自分の(きもち)に気づいていながら、エミリーは(きもち)を敢えて押し殺し、己が役目を果たした。

 そんな彼女を見て、俺は自己嫌悪に陥る。

 自己嫌悪に陥ると同時に、思った。

 聖人になりたい。

 聖人(マスコット)ではない本物の聖人(セイント)に。

 誰も悲しまない祝福(けつまつ)を与えられる聖人に。

 なりたいと心の底から思った。

 思ってしまった。


 ──じわりじわりと過剰な正義感が遅効性の毒のように身体を駆け巡る。

 本当の意味で俺が道を踏み外したのは、今思うと、この瞬間だったかもしれない。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 次の更新は1月7日20時頃に予定しております。


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