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遡行と圧倒的な物量と地割れ

 何かが眉間を貫く。

 それが敵の攻撃だと知った途端、視界が真っ黒に染まった。

 痛覚が機能し始める。

 だが、痛みを感じるよりも先に、私の意識が真っ黒に染ま──


 ガガガガガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ

  ──意識を失う。

  ガガガガガガ ガガガガガガ

  ──死が私の身体を抱き締める。

 ガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ

 ──死という不可逆の結果が私の意識を奈落の底に誘う。

 ガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ

 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ


 だが、錆びた水の滴る音が結果(それ)を否定した。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!/ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 黒くて大きな蛇──第三王子の成れの果てが悲鳴を上げる。

 その瞬間、真っ暗だった視界が元の状態に戻る。

 サンタの前に一歩踏み出した私の身体は、サンタの前に踊り出した筈の私の身体は、何故か一歩後退していた。

 何故か元いた場所に戻っていた。

 

「……なっ!?」


 目蓋を見開く。

 敵──黒くて大きな蛇の姿を目視する。

 さっきまで傷一つついていなかった敵の身体には、何故か無数の亀裂が走っていた。

 痛みに悶え苦しむように身体を捩る敵を見て、私の頭の中は『なぜ』で埋め尽くされる。

 だが、私の『なぜ』はサンタの一言によって氷解した。


「空間が歪んでいる……? もしかして、アイツ、時間を巻き戻したのか……?」


 サンタの発言が私に気づきを与える。

 慌てて周囲を見渡すと、確かに歪んでいた。

 鉛色の雲も、城だった瓦礫も、地面も空も、少しではあるが、グニャリと歪んでいる。

 

「なんで時間を巻き戻して、……もしかして、俺に向けて放った攻撃がエレナに当たったのか……? だから、無理して時間を巻き戻したのか……?」


 改めて敵を見る。

 身体に無数の亀裂が走った所為なのか、敵の巨体は少しだけ縮んでいた。

 サンタの発言から察するに、どうやら敵は時間を巻き戻したらしい。

 時間を巻き戻す事は敵にとって、かなりの負担だったらしく、その所為で、敵の身体から死の匂いが漂い始めていた。


「ミス・エレナ……! なぜ、サンタを庇って……!/時間遡行を行った結果、身体の三割を損傷。機能は低下したものの、まだ此方の方が優勢/貴女が邪魔しなければ、今さっきので終わっていた……!/この浮島(くに)の復興には、聖女エレナという必要が必要不可欠。時間遡行の強行は合理的だったと言える」


 敵──第三王子の感情がサンタを庇った私を問いただす。

 敵──第三王子の理性が身体の中で蠢く無数の無意識に方向性を与える。

 目の前の敵を観察する。

 敵の匂いを嗅ぐ。

 今まで得た全ての情報を統合し、対策を頭の中で思案する。

 敵の事情を考慮する余裕はない。

 なぜ時間を巻き戻したのか。

 なぜ私に異常な執着を見せるのか。

 それらの疑問を隅に押しやり、目の前の敵を倒す事に集中する。

 もう愉しいとか挑戦だとか言ってられない。

 時間を巻き戻せるし、人の死をなかった事にする相手が敵なのだ。

 仮に私達が敵に致命傷を与えたとしても、『彼』は時間を巻き戻して、致命傷(それ)をなかった事にできる。

 敵は想像していた以上に格上だった。

 それに気づき、私は焦りを抱いてしまう。


(多分、無数の無意識を束ねているのは、第三王子の理性。束ねた無意識が一つの塊になり、方向性を得た結果、第三王子の感情として出力されている……? いや、敵の生態を考察するよりも、使える手札を確認した方が効果的。まだ分からない事だらけの敵の生態を考えるのは時間の無……)


「どうして……!? どうしてサンタなんか庇った……!? 答えろ、ミス・エレナっ!」


 我を取り戻した敵──第三王子が声を荒上げる。

 私はサンタの方に視線を移し、彼と視線を交わすと、敢えて『彼』を刺激した。


「──自分のためだよ」


 黒い水でできた無数の槍が敵の頭上に現れる。

 数は千を優に超えている。

 敵は絶叫染みた声を発すると、無数の水の槍を私達目掛けて飛ばし始めた。


(この無数の水の槍の目的は、私とサンタを引き離すためのもの……!)


 敵について分かっている事は、数少ない。

 それでも、分かっている事がつだけある。

 一つ目は、敵が私に固執しているという事。

 二つ目は、敵がサンタだけを殺そうとしている事。

 三つ目は、敵が私を生け捕りしようとしている事。

 それらの要素が私達に気づきを与える。


(私を傷つけない、且つサンタを確実に殺すための状況を作るため、『彼』は物量で押し切ろうとしているんだと思う……! なら、)


「サンタっ!」


「ああ、分かってる……!」


 私と同じ結論に至ったサンタが声を上げる。

 サンタと視線を交わした後、サンタは私の想像通りに動──


「これが俺らの切り札だっ! 喰らえ、エレナガード!」


 ──く事なく、私を羽交い締めした。

 私を盾として使おうとするサンタ。

 道具扱いされた私は空気を読まずにブチギレ。

 『シャー!』と声を上げ、自らの後頭部をサンタの身体に打つける。

 サンタに小ダメージを与えた!


「いて! 何すんだよ、嬢ちゃ……エレナ!」


「また嬢ちゃんって言いかけた! ちゃんとエレナって呼んでよ!」


「いや、今はそれどころじゃねぇから! ふざけている場合じゃねぇから! ほら、見ろ! 水の槍がすぐそこに……」


 私とサンタを貫かんと言わんばかりに押し迫る無数の水の槍。

 それらは私の目と鼻の先まで押し迫ると、私に直撃する事なく、唐突に弾け飛んでしまった。


「ふ、やはりエレナガードは第三王子(ぼっちゃん)相手では無敵。これなら、最低限の労力で……」


「サンタ、背後」


「うおっと!?」


 弾け飛んだ水の槍十数本が地面に染み込む。

 その瞬間、サンタの背後にあった地面から黒い水の矢が射出された。

 間一髪の所で避ける事に成功したサンタ。

 けれど、敵の攻撃は未だ止まず。

 次々に押し迫る黒い水の槍。

 次々に地面から射出される黒い水の矢。

 それらが私を抱き抱えたサンタに襲いかかる。

 けど、さっきの音速を遥かに超えた攻撃と違い、それらの攻撃は相対的に遅かった。


「サンタ、右斜め後ろ」


「はいよ」


 私を抱き抱えたまま、ハンドベルを振るい、水の槍を受け流すサンタ。

 私は匂いで敵の攻撃を予知しつつ、サンタが気づいていない攻撃を口遊む。

 

「三歩後退した先に罠。左後ろにある瓦礫に注意。三秒後、真上から攻撃」


 匂いのお陰で、敵の攻撃は分かりやすかった。

 身体から匂いを垂れ流しつつ、黒くて大きな蛇──第三王子は休む事なく攻撃を繰り出し続ける。

 それをサンタはハンドベルを振るいつつ、身体を軽快に動かしつつ、時々私を盾にしながら、押し迫る水の槍を避け、防ぎ、捌き続ける。

 時折、サンタの予測を超える攻撃がやってきた。

 それを私が予め指摘する事で、サンタに攻撃を捌いてもらう。

 私一人でもサンタ一人でも太刀打ちできない圧倒的な物量。

 それを軽々と繰り出せる敵を見て、改めて脅威を感じる。


(敵の強さは私達の理解を超えている。けど、)


 余裕がないのか、それとも感情的になり過ぎている所為なのか、敵の身体から出る匂いは先程よりも濃厚で分かりやすいものになっていた。

 その所為で、サンタが予測できない攻撃も私が予知する事で、避けられる代物と化してしまう。


「あらよっと!」


 全ての攻撃を捌き切る。

 サンタはハンドベルを天高く放り投げ、抱き抱えていた私を下ろすと、何処からともなく白い槍を取り出した。


「──神威(アスター)


 シンプルな装飾が施さた、白を基調とした細い槍。

 サンタが目を細めた途端、細くて白い槍の鋒から光が放たれる。

 

「──聖夜を駆ける(ケリュネイア)我が僕(ランケア)


 今の今まで防戦し続けたサンタが攻勢に転じる。

 槍の鋒から放たれた白い光の球体は、天を穿つかのように浮上すると、世界を真っ白に染め上げた。

 細くて白い槍の鋒から光が放たれる。

 槍の鋒から放たれた白い光の球体は、天を穿つかのように浮上すると、敵の巨体を真っ白に染め上げた。


「ダンサー、プランサー、ヴィクセン、コメット、キューピッド、ドンダー、ブリツェン」


 サンタが持っていた細くて白い槍が分裂する。 

 一本だった槍は瞬く間に八本の槍へと変貌すると、サンタの手から離れ、敵に向かって飛び立つ。

 八本の槍は宙を掻い潜るように飛翔すると、敵の眉間に突き刺さった。

 

「我が驕りが聖夜を乱す」


 黒くて大きな蛇の頭上に呆れる程に大きな魔法陣が現れる。

 敵の頭上に現れた大きな魔法陣は白い光を放ちながら、大気を激しく揺さぶり始める。


「──神威(アスター)


 頭上で煌めく巨大な魔法陣が太陽の如く煌めく。

 世界を真っ白に染め上げる程の光量を発する。

 私の身体から尋常じゃない量の魔力が抜け落ち、サンタの身体の中に流れ込む。

 ──勝負を決めるつもりだ。

 私の身体の中にある魔力をサンタが使おうとしている。  

 その事実が私に確信を抱かせる。


「──聖夜の果てに(グロリア・イン・)……」


 今の今まで隠していたサンタの切札が牙を剥く。

 その時だった。

 『ぴしょん』と水の跳ねる音が聞こえてきたのは。


「……あ」


 あっという間だった。

 全長百数メートルの敵の巨体が溶けて消える。

 何の前触れもなく、上空に刻まれていた巨大な魔法陣が砕け散り、サンタの攻撃が強制的に中断に追い込まれる。

 ──圧倒的な力が理不尽を生み落とす。

 私達の理解を超えた敵の一挙手一投足が、私とサンタの思考に空白を与える。

 それが致命的だった。

 大地が割れる。

 大地に生じた亀裂が私とサンタを引き離す。

 目の前の現象(りふじん)を理解しようとしていた私とサンタ。

 理解しようと頭を働かせていた所為で、行動がワンテンポ遅れる。

 気がつくと、かなりの距離が私とサンタとの間にできてしまった。


(しまっ……)


 地面に染み込んでいた敵の巨体が地面にできた亀裂から現れる。

 無数の亀裂を身体に刻んだ黒くて大きな蛇が、私とサンタの間に現れる。

 絶体絶命。

 敵の目論見通り、私とサンタは引き離されてしまった。

 油断はしていない。

 驕りさえない。

 私もサンタも敵を倒す事だけに集中していた。

 全力を尽くしていた。

 けれど、それだけじゃ、敵の力を上回るどころか、実力の差を埋め切れなかった。


「サンタっ!」


 敵の身体から濃厚な殺意の匂いが漂う。

 鼻腔を擽る敵の匂いが、一秒後に訪れるサンタの死を予知させる。

 万策尽きた。

 今の私の手札じゃ、サンタを救えない。

 その結論に至った途端、藍色の炎が敵の身体を吹き飛ばした。


「──っ!?」


 私とサンタとの間に現れた敵の巨体が、突如現れた藍色の炎によって焼かれる。

 黒い水でできた敵の巨体が蒸発し、地面にできた亀裂の中に吸い込まれる。

 反射的に振り返る。

 そこにいたのは、案の定、銀髪の少年──魔王だった。

 いつも読んでくれている方、ここまで読んでくれた方、ブクマ・評価ポイント・いいね・感想を送ってくれた方に感謝の言葉を申し上げます。

 そして、告知通り更新できなかった事を、この場を借りて謝罪いたします。

 本当に申し訳ありません。

 まだ体調崩したままなので、次の更新はいつになるのか分かりませんが、年内完結目指して投稿していきたいと思いますので、最後までお付き合いよろしくお願いいたします。

 次の更新はX(旧Twitter)の@Yomogi89892で告知するつもりです。

 残り5〜6話(もしかしたら、もう少し話数多くなるかも)、頑張って執筆いたしますので、これからもよろしくお願いいたします。


(追記)12月20日

 一ヶ月程度放置して申し訳ありません。

 来週12月24日12時頃に最新話投稿します。 

 何話投稿できるか分かりませんが、24日は最低2話以上投稿できるように頑張りますので、よろしくお願い致します。

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