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超・初心者(スーパービギナー)の手引き  作者: くらげマシンガン
最終章 超・初心者の手引き
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L166 希望に向けた手は虚空を

 そいつは俺の発言を聞いて、僅かに驚いているようだった。これが普通の生物なら、呆気に取られて隙を見せても良いと思うが。残念ながら『生物』ですらないそいつは、人間がやるように目を丸くして、恰も驚いている様子を表現するに留めた。


 俺は目尻の涙を拭いて、ゴーグルを装備する。全身から今一度魔力を放出し、魔法公式を組み立てる。


 俺がそうするように、仲間達もそれぞれ魔力を展開した。限界まで、魔力を。例え、敵わないと知っていても。


「……やはり、『生物』というものは――――いや、『人類』だろうか。我々とは全く違う価値観・モラルを持っている。凡そ、合理的とは思えない行動だ」


 つまり、この『神』などと名乗る愚か者どもは、俺達からしてみれば『存在しない筈のプロフェッショナル』。あらゆる面で人間を凌駕し、その卓越した身体能力、計算能力を用いて、生物の進化を遥かに超えた速度で成長する。


 活動エネルギーは、この星の魔力に変えたと言っていた。『境界線』を越えた連中。故に魔力枯渇する事もなく、自由自在に能力を使用できる。


 人ひとり程度の魔力ならいざ知らず、星と同化したに等しい奴等の魔力を抑え付ける事は難しい。ゴールバードが俺達にやったように、魔力封印みたいな事は出来ないということだ。


 上級者。熟練者。……例えるなら、そういうモノなのだろう。


 ――――そうか。だからこそ、嘗ての人間も必要としたのかもしれない。


 人間にとっては絶対的に不可能な力を、進化のレベルを超えて生み出そうとした。……そうして、『翼をもがれた』んだ。


「てめえが『神』だと? ……ふざけるなよ。てめえが神なら、俺は全知全能の超・神にでもなんでも、なってやるよ。このポンコツが」


 こうなってしまうと、どうしても頭の中に疑問が浮かんで来てしまう。


『完璧』である事って、そんなに大切な事だろうか?


 中途半端でも、暖かくて、思いやりがあって。その方が、きっと幸せだとは思わないか?


 そうだ。……俺はきっと、求めていたんだ。知らず、追い掛けていた。


 まるで機械のように『魔力』を追い求めていく人々の中に、『暖かさ』のようなものを。


 俺は一度も、完全な存在に成りたいなどと望んだ事はない。


 全身を覆う程の魔力は仲間達の魔力と呼応し、より巨大に、強大になっていく。俺達そのものが、まるで隕石のようにパワーを持った何かへと変わっていく。


「怒っているのか……? それも不思議だ。怒りというものは、脅かされる者に対しては抱かない筈だ」


 そう言いながらも、奴は一瞬の隙も見せない。……攻撃すれば、ダメージを受けるのは俺達だった。それは、間違いない。


 まるで電流が走るかのように、俺の身体は痺れていた。敵う筈も無いものに、今正に突っ込んでいくのだという、恐怖。それは俺の全身を包み込み、足を竦ませる。


 それでも、俺達は。




「<超・ソニックブレイド>!!」




 動き出した。




 稲妻のように『紅い星』目掛けて放たれた一撃。俺は銀色の長剣を出現させ、その一閃を『紅い星』に向けて放った。


 戦力は、魔力の強さを見れば分かった。『紅い星』はやはり、周囲の『市民』とは別次元の存在だと感じられた。今この中で奴を止められるとしたら、きっと俺だけだろう。その間に、仲間達の手で周りの『市民』さえ、どうにかする事が出来れば。


 複数で『紅い星』と戦う事さえ出来れば、戦況は逆転するかもしれない。


 振り抜き、背後を振り返る。


 リリザが、僅かに頷きを見せた。


 大地が唸る。数に圧倒的な差がある俺は、気付けば六人程の銀色に光を反射する機械に囲まれていた。一瞬にして、俺は不利になる――……だが。


「もう一度、聞こう。……我々は、君達を『危害を加える者』として攻撃するだろう。……それでも、構わないのか?」


 こいつらは所詮『魔力をエネルギーの媒体とした』機械に他ならない。『境界線』を越えるだけの実力を持っていたとして、明らかに親玉とは異なる点がある。


 過去に爺ちゃんと戦った『紅い星』と違って、こいつらは後から生み出されたコピーに過ぎない。例え知識があったとしても、経験が蓄積されている訳では無いだろう。


 なら、きっと俺よりは、弱い。


 俺を取り囲んでいる六体のうち、一体を決めた。左手を向けると、ターゲットとなる『市民』の周囲にドームのように魔法陣が現れる。


 フィーナの使っていた、<サンクチュアリ>のようなものだ。物理的に影響を与えない、閉じ込めるための結界を創り出した。その状態で俺は、一体目掛けて左手の指を鳴らした。


「<超・強化爆撃イオン>」


 ドームの中で、恐ろしいまでの爆発が巻き起こる。


 爆風の中、『紅い星』は俺を見て、僅かに目を見開いた。……どうしてだろうか。その瞬間だけは、人間的な反応を起こしたように見えた。その様子を確認して、俺は引き攣ったような笑みを浮かべてしまう。


 感情が、備わっていない訳ではないのか……どうやら『上位種』ってのは、本当に当たっているものらしい。


 たったそれだけで、身が凍るような恐怖に襲われる。知識、経験、技術。俺の全てを上回る相手。それに怒りを覚えさせる事が、いかに危険なことか。


 だが、俺は宣言した。


「クソ喰らえだ」


 下等である俺達相手に、感情の起伏を発生させる事も無い。……ただ、それだけに過ぎなかったのだろう。


 ならば、『自分さえ、殺し得る存在』なんだと認識させる事が出来れば、感情が起こるのではないか。そういう、予想だった。


 どうやら、それは正解らしい。


 本質的な感情というものは、この『紅い星』にも備わっているようだ。


 爆風が収まると、俺の狙った『市民』は破壊されていた。本当に全く攻撃が通用しない、という訳でも無いようだ。簡単な不意打ちで壊せるのは、これで最後かもしれないが。


「……残念だよ。トーマスは幾らか、我々の思考に付いて来ていた。君は愚かにも、下等生物でありながら我々の要求に応えなかった」


 気のせいだろうか。


 そう言う『紅い星』の瞳に、どことなく怒りの意志が宿っているように感じたのは。


 良いぞ。そのまま、俺に照準を絞れ。


 仲間に目を向けるな。俺を追い掛けてこい。


「本当に下等かどうか、その目で確かめて見ろよ!!」


 雄叫びは、自分の為に。こいつらは、俺が叫んだところで欠片も恐怖する事はない。


 ならば、抑え込め。自分自身の中にある『恐怖』という感情を封印しろ。


「<超・飛弾脚ひだんきゃく>!!」


 叫ぶように、魔法公式を展開した。虹色の球体で全身を包み隠した俺は、人間ならば絶対に反応出来ない蹴りを『紅い星』の親玉目掛けて放った。


 だが、奴はあっさりとそれを避ける。織り込み済みだ。囲まれている状況から脱却する為の一手。通り抜けると俺は、僅かに地面を滑って辺りの状況を確認した。


「俺から目を離してみろ。精魂込めてお前が作ったマネキンなんか、一つ残らず潰してやるよ」


「……成る程。どうやら君は、他の生物とは違う段階に居るらしいな」


 俺は、大丈夫だ。少なくとも、『紅い星』に対抗するだけの実力は持っている。


 前衛にマウス、エト先生、レオ。その後ろにチーク。ロイスとベティーナは砲台と化し、中央にリリザとフィーナを。防御の為の結界が張られ、ガングによる奇怪な植物が周りを覆っていた。……あれも、防御か?


 だが、敵の数が多過ぎる。俺だけに集中してくれる筈もなく、仲間達の周囲を埋め尽くすように『市民』が覆い囲っていた。


 ……だが『紅い星』が直接仲間達に行くよりも、遥かにマシだ。


「良いだろう。……やってみるといい」


 こうしていれば、少しは安全――――…………


 そう思った瞬間、俺と奴との間を、何かが横切った。


 緑色の髪が、風に揺れていた。小さな身体は胸を貫かれて血に染まり、草原を赤く染めていく。


 その姿を見ただけで、全身に悪寒が走った。


 ――――ロイス。


 声にならない声は、しかしロイスに届く事はない。数メートル程吹っ飛び草原に転がったロイスは、それ以上身体を動かす事はなかった。


 俺も仲間達も、その殆どを『市民』に囲まれている状況では、向こうの戦況は見えない。……直ぐに防御は破られた、という事だろうか。それとも、たまたまロイスがターゲットにされ、集中攻撃されたのか。


 何故、ロイスが。


「可能だと思うのなら、それは仕方のないことだ」


 腸が煮えくり返った。叫び、隙を見せる事をどうにか堪える。


 考えるな。……悲しむのは、後でも出来る。


 俺が奴を破壊さえすれば、仲間の勝利を待つでもなく、戦争は終わるんだ。


 時間がない。前を向け。一刻も早く。……なんとか、しなければ。


 俺に出来なければ、誰にも出来ない。


「<超・ドラゴンブレイク>!!」


 全身を、魔力が満たす。


 俺は、この星に力を借りているんだ。幸いにも、『紅い星』は俺に怒りの感情を向けている。仲間の所へ向かう事はないように思えた。


 涙は、頬を伝った。握り締めた長剣に我武者羅に魔力を込め、俺は『紅い星』へと長剣を叩き付けるように振った。


 奴は、左手でそれをガードする。……どうして、そんなにも余裕なのか。何故、反射する事が出来るのか。


 プロフェッショナル。


 そんな言葉が、俺の脳裏を掠める。


 長剣を消去し、バックステップに宙返りを加えて体勢を立て直した。その頃には、俺の左手には既に弓が出現している。


「<超・ガトリング・アロー>!!」


 無限に生成されていく矢。左手からは絶えず光の雫が溢れ、流星のように俺は矢を連射した。


 俺が奴を倒すことさえ出来れば、後ろの『市民共』は、まだどうにかなる。……どうにかなる、筈だ。


 ただの<ガトリング・アロー>ではない。この矢は、魔力によって威力に上方修正を掛けた矢だ。只の弓士が使うそれとは一線を画する攻撃。


 ぶち壊せ。力の限り。


「らああああああああ!!」


 限りなく、矢は連射される。


 だが、『紅い星』はまるで俺の行動を知っていたかのように、左手を前に出した。背後の市民も、同様に左手を前に出して魔力を展開する。音もなく発動された魔法公式によって、俺の攻撃は弾かれた。……何だ、あれは。<ラジカルガード>?


 奴等の右手から生み出された光線が奴等の盾を貫通し、俺へと反撃を――――…………


 やばい!!


「うわあっ――――!!」


 横っ飛び、その攻撃を避けた。左足に、僅かな痛みが走る。


 掠ったが、致命傷は免れたか。


 せめて、トリガーくらいまともに用意しろよ……!! 魔法が速過ぎて、何をされているのかも分からない……!!


 ――――えっ。


 瞬間、真横から俺に向かって何かが降り注いだ。咄嗟に右腕でそれをガードした俺は、飛んで来た物の正体に目を見開いた。


 幾つもの歯車、何に使うのかも分からないアイテム達。……何よりも印象的だったのは、いつかに見た、緑色の植物昆虫『グリーンホタル』。


 歯を食い縛り、俺はその次に飛んで来るモノを受け止める。


 右腕で受け止めたチークの左半身は、無くなっていた。


 呼吸が、止まった。


 ……時間が無い。……時間が無い事は、最初から分かり切っているというのに。


 俺は今、悪夢を見ているのだろうか。


 そうでなければ、一体これは、何なんだ。


「涙を流すのは、悲しいからだろう。……不自然だな。こうなることは、分かり切っていた内容のはずだ」


 俺は草原に、チークを寝かせた。目を開いたままで倒れるチークの瞼を下ろした。


 奴さえ、倒す事ができれば。


「おおおおおおおおお――――――――!!」


 嵐のように、吹き荒れる。俺の全身を満たした魔力は上限を超えて、広場に竜巻を巻き起こす迄の魔力の塊となる。


 もっと。


 もっと。もっと。もっと。……魔力を。こんなもんじゃ、こいつを倒せない。


 俺に、魔力を!!


 今の自分を、際限なく上回る。必要以上の進化を求め、俺は『紅い星』に向かって突っ込んだ。


 鬼だって、こうまで殺気を放つ事は無いだろう。


 魔力在るところに、争い在り。


 その現実は、どうしようもない程に俺を、俺達を、災害に巻き込んだ。……自然でも天変地異でもない、人に創られ生み出されたそれによって発生した戦争は。


<超・キャットウォーク>を更に上回る速度強化。取り出したのは、二本の短剣。俺が最も得意とする、小回りが効いて扱い易い武器だった。


 真正面から、一発。通り抜けて、返しに左腕を背後に向かって振る。


 力に物を言わせて、何度も両手の短剣を振り回した。首。脇。腹。心臓。関節と急所を目掛けて、目にも留まらぬ速度で放たれた乱舞は、しかし全てを『紅い星』に受け止められる。


 ――――なんで。


 顔色ひとつ、変えねえんだ……!!


 近くに居る『市民』の攻撃は、俺には当たらない。一撃喰らえば戦況が変わる事を知っていれば、自ずと慎重にもなる。その全てを鮮やかに避けながら、俺は『紅い星』の親玉だけにターゲットを絞っていた。


 砕けろ。


 砕けろ。


 ――――砕けろ!!


 俺の魔力で草原は削れ、やがて土の地肌が晒される。乱舞を受け止める『紅い星』は、やはり表情一つ変えずに俺の事を見詰め、攻撃を受け止めている。


「大した速度だ。……反撃する猶予がない」


 そう言う割には、ちっとも焦っている様子が見られなかった。


 ……焦っているのは、俺の方だ。


 あと何人の犠牲が出る? ……俺が負ければ、被害は仲間達だけでは済まない。


 どうにかして、一刻も早く、こいつを倒さなければ。我武者羅でもいい。道理が通っていなくてもいい。奇跡でも、神の悪戯でも、何だっていいんだ。


 そこに、理屈はなかった。ありったけの力を振り絞り、出来る限りの最速で俺は攻撃を仕掛け続けた。


「壊れろっ……!! 壊れろよ!!」


 頭の片隅では、もう気付いている。


 俺はきっと、こいつを倒せない、と。


 全身の筋肉が悲鳴を上げている。……これは既に人間の領域を超えている行動なのだと、俺に警告を伝えているかのようだ。


 構うものか。人間の限界を超えていると言うのなら、人間なんか辞めちまえ。この状況をどうにか出来るのだったら、俺は人間で居る必要なんかない。


 その想いが、俺の攻撃速度を更に速めていく。


 猛り、叫んだ。短剣の攻撃では、奴に致命傷を与える事は出来ない。もっと、圧倒的な攻撃力が必要だ。


 なら、これだろう。短剣を瞬時に消去し、両手に構えたのは巨大なハンマー。単純な魔法公式から成る、最強最悪の破壊攻撃。


「<超・インパクトスイング>!!」


 振り抜き、通り過ぎた。


 そこに衝撃はなく、空虚な動作で『紅い星』との距離が離れた。俺の掴んでいたハンマーはただの棒切れと化していた……棒から先が切断され、攻撃を防がれたのだ。


 俺は振り返り、その姿を見詰める。


 奴は右手を剣に変化させて、俺の攻撃を受け止めたようだった。……いつかのゴールバードが、同じ事をしていただろうか。


 俺は。


 ……気付けば、次の手を見失っていた。


「先生――――――――!!」


 叫び声は、レオのものだった。エト先生が血を吐き、倒れた――――ついに、前衛が崩れ出した。


 数の暴力。それは、俺が思う以上に絶大な被害を出していた。俺がこうしている間にも、一方的な攻撃は続いている。


 ……間もなく、全滅する。前衛の崩れたパーティー程、脆いものはない。


 アカデミーに居た時から、パーティーでの戦いというものを見てきた。……防御が崩れてからは、本当に早いのだ。それは多人数戦術において、大火力の後衛を失う事よりも恐ろしい。




 ――――――――全滅?




 否応も無く、その言葉は俺の身体を凍らせる。『紅い星』は、黙って立っているだけだ。背を向ければ、俺が攻撃すると知っているからだろう。身動き一つ取る事はなかった――――その状況でさえ、俺達は奴に敵わない。


 そして、俺も『紅い星』に、敵わない。


 また、消えた。


 声も無く、魔力反応が消える。……巨大な反応が消えた。これは恐らく、マウス五世のもの。


 闇から俺を呼ぶ声がする。その歴史に終わりを告げ、現れた無に身を投じて呑み込まれるべきなのだと、暗い声は耳元で囁いた。


「ラッツ・リチャード。これは、君が招いた出来事だ。君はどうしようもない過ちを犯した」


 そいつは、俺に淡々とした表情で語り掛ける。思考は停止し、迷いを隠す事が出来なくなっていた。膝をつき、項垂れる俺に近付いて来る。俺の頭を、『紅い星』が硬質的な右手で掴む。


 なんだ?


 ……どうして、こんなことに。


 唇が、震えた。


「限りなく、愚かな過ちだ」


 俺は、また、間違えたのか?


 …………今度は、何を?


 ああ。……ついに、レオも消えた。押し込まれるように、『市民』の魔力が仲間達を襲っている。追い掛けるように、ベティーナがやられた。


 目を向ける事が、出来ない。


 特殊な防御結界を作っていたササナも、前衛が居なくなった事で剥き出しになった。フルリュがそれを庇う――――…………


 堪らず、耳を塞いだ。


「仕方ないな。人は、繰り返す。そのどうしようもない過ちの連続を断つ私達の行動は、善行とも言えよう」


 ガングが、まるで玩具か何かのように破壊された。その身体に埋め込まれていたアイテムから、魔力反応が消える――……向こう側に残る魔力反応は、あと三つ。


 リリザの創り出した結界が、僅かに猶予を与えたようだった。だが、通常から考えれば強大な魔力も、この群れの中では小さな一つの反応に過ぎない。『境界線』を越えた三つの魔力反応は、既に風前の灯火だ。


 あまりの事態に、身動きを取る事が出来なくなった。……どうして良いのか分からず、膝をついた俺はカラカラに乾いた喉から、声を出すことも出来なくなっていた。


「君の『記憶』を、貰って行こう。今日の出来事が誰からも、忘れられるように。我々の一部となるのだ。喜べ」


『紅い星』の右手に、魔力が込められた。


 そうか。……こうして、爺ちゃんの記憶は奪われたのか。遠い次元の向こう側に、持って行かれた。誰からも覚えられる事無く、その生涯を終える事となった。


 俺も、そのひとつとなるのか。


 ――――あれ?


「さらばだ。ラッツ・リチャード」


 いや、待て。……待てよ。


 唐突に生まれた矛盾が、しかし俺の喪失した戦意を、はっきりと取り戻した。


 顔を上げ、俺は仲間達の方を見た。




 ――――――――魔力反応が、三つ。

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