第八十七話 セイリア育成計画
つい最近連載始めたイメージだったんですけど、もう百話が見えてるのはやばいですね☆
懸念していた練習場所の問題は、兄さんに相談したらあっさりと解決した。
「こうなるだろうと思って、アルマが入学する前から色々と準備していたんだよ。君の訓練は、なんというか少し『刺激的』だからね」
そう言いながら兄さんが手渡してくれたのは、練習場所の使用許可証……ではなく、部活の設立申請書だった。
「え、ええっと……?」
「どうせなら、普段から使える拠点を作っておいた方がいい。創部には部員が五人必要だけれど、今なら問題ないだろう?」
確かに、僕、トリシャ、レミナ、ファーリ、セイリアでちょうど五人だ。
どうして兄さんが僕の交友関係を把握しているのかはちょっと引っかかるところだけれど、「兄さんだから」と思えばなんとなく納得出来てしまうから不思議だ。
ちなみに顧問はネリス教官。
兄さんからは「単に名前を貸してもらっただけだから、部活に訪ねてきても門前払いで構わないよ。いや、むしろ門前払いにしてほしい」と軽い口調で言われている。
……あの温厚な兄さんからこんな扱いを受けるなんて、一体何をやらかしたんだネリス教官。
部活名は〈戦闘技術研究部〉にした。
大雑把すぎて何をやっているか分からない部活だけれど、自分たちの手で謎部活を立ち上げるのは、すごい主人公感がある。
もしかすると原作にはない展開かもしれないけれど、ゲーム的に考えて、特定の部活に入っていないとストーリーが進まないということもおそらくない……はずだ。
部長については、僕が引き受けた。
性格的にファーリは引き受けないし、やはり表に立つ人物は爵位が高い家の人間の方が角が立たないものらしい。
「こんな無茶な部活を作って大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、問題ない。この学園では、多少の無茶をやっても結果が出ていれば誰も文句は言わないんだ」
「結果?」
僕が聞き返すと、兄さんは何を当たり前のことを、と言うように肩を竦めた。
「〈戦闘技術研究部〉なら、強くなることが活動内容だろう?」
そうして最後に兄さんは、ふっと笑みを浮かべ、
「――武術大会、期待しているよ?」
惚れ惚れするような石影 明ボイスで、そうささやいたのだった。
※ ※ ※
こうして僕は兄さんに言われるがままに部活を設立し、その日の放課後にはもう、僕らは自分たちで自由に使える活動場所を確保していた。
兄さんによる根回しによって僕らに割り当てられた活動場所は、校舎から少し外れた場所にあるちょっとした剣道場くらいの大きさがある建物で、防音や覗き見防止に加えて、爆発や衝撃に対する耐性もあるらしい。
これならボム次郎……はちょっと厳しいかもしれないが、ボム太郎が万一爆発してしまっても被害なしで抑えられそうだ。
一応、練習場所に困っていたら、と思ってディークくんにも声はかけたが、
「お、気にかけてもらってわりぃな! でも大丈夫だ! 大会出場者は優先的に練習場所を回してもらえるし、それに……お互い、ライバルに手の内を見せるワケにゃあいかないだろ?」
とさわやかに断られてしまった。
ギャルゲに出しておくにはもったいない男前というか、アルマくん以上に熱血主人公している奴だと思う。
(……まあそれでも、今回は勝たせてもらうんだけどね!)
確かにディークくんも優れた剣士なんだろうが、スペック的に言えばセイリアの方がこの大会には向いている。
初撃を入れた方が勝つというルール上、敏捷の値が最優先ステータスになるし、セイリアの剣術に対するセンスや勝負勘は素人目にも頭一つ抜けている。
唯一の懸念点は、武技の少なさだったけれど……。
「じゃあ、始めるよ」
「うん! よろしくお願いします!」
それもボム太郎との特訓によって、凄まじい勢いで改善されようとしている。
「前に説明した通り、熟練度を上げるには単純に殴るだけじゃなくて、この『無限の指輪』をつけて武技も混ぜて使っていくのが効率がいい。タイマーで時間を測るから、五分ごとに全部の武技を使い切るようにすること」
「分かった!」
僕の指示のもと、嬉々としてボム太郎を斬り続けるセイリアに、ほおが緩む。
(生き生きとしてるなぁ)
たまーに武技を混ぜはするものの、ボム相手に延々と攻撃を続けるのは重労働な上に単純作業だ。
熟練度の仕様上、手を抜いた攻撃では熟練度が上がらない可能性があるし、少しでも休めばボム太郎が爆発してしまうから休むことも出来ない。
普通であればすぐに嫌になってしまいそうなものだが、セイリアはそんな素振りを見せないどころか、どこか楽しそうにすら見える。
その姿は、今も道場の端で飽きることなくひたすら初級魔法を使い続けているファーリに通じるものがある。
魔法と剣、分野は違うけれど、案外似た者同士なのかもしれない。
(……うん。いい感じだな)
レベル420のボム次郎からレベル150のボム太郎に相手を変えたおかげか、HPゲージを見ても、回復量が間に合っていないということもなさそうだ。
前回の昼休みのデモンストレーションが効いたのか、すでにセイリアとは「条件」については合意済み。
魔王への切符でもある武術大会の優勝トロフィーが、ぐっと近付いてきたという感触があった。
セイリアと交わした、訓練を手伝う条件は三つ。
1.訓練内容を誰にも教えないこと
2.訓練中はこちらの指示に従うこと
3.優勝した場合にトロフィーを譲ること
三つ目のトロフィーの条件についてはセイリアは不思議そうにしていたけれど、「あのトロフィーは魔法の品で、僕がずっと探していたものかもしれない」と言ったら、深く詮索せずにうなずいてくれた。
元よりセイリアの目的は剣聖である父親に実力を見せることで、トロフィーには特にこだわりはないようなのが幸いだった。
……こちらの布陣に、隙はない。
けれど、ルールを考えるといくらでも万が一が考えられるのがこの大会だ。
原作を守護るため、僕は手を抜く訳にはいかない。
そのためには、ちょっとした奥の手を用意しておくのもいいかもしれない。
「セイリアに、ちょっと相談があるんだけど……」
「ボクに?」
一応条件の二番目があるから無理矢理に言うことを聞かせようと思えば出来なくもないけれど、こういうのは本人のやる気が一番大事だろう。
僕は兼ねてから温めていた案を披露することに決めた。
「――もしセイリアが嫌じゃなければ、大会のために一つ、奇策を用意したいと思うんだ」
着々と進む改造!





