第八十六話 リアレイス
ティータの霊圧が消えすぎていたので急遽テコ入れ回です!
えっ大会? ……知らんなぁ
「――な、なによコレはぁ!!」
そう言って、文字通りに僕の耳元から大声を出したのは、僕の契約精霊のティータだ。
セイリアとの訓練では、ボム次郎で危うく事故を起こしそうになった。
だから、今後はそういうことのないように、「安全チェックヨシ!」しなくてはならないと思い、とりあえずボム全部のHPを最大まで回復させておこうと思ったのだ。
そこでまずは、とボム次郎を取り出したちょうどその時、間が悪いことに起き抜けのティータが飛び出してきてしまった。
しかも、
「こ、これ〈リトルボマー〉……じゃないわよね? あんな雑魚モンスターにしては魔力の量が絶対おかしいわ! それにコイツ、限界まで膨れ上がってるじゃない!」
たとえ寝起きだったとしても、腐っても上級精霊。
どうやら見ただけで、ボム次郎が普通の〈リトルボマー〉じゃないと見破ってしまったようだった。
「だ、大丈夫だよ! これは、その、ただちに危険はないから!」
「ないワケないでしょーが! こんなもの爆発したら寮が吹っ飛ぶわよ!」
僕は必死でなだめるが、ティータは引き下がる様子を見せなかった。
そして強硬な態度から一転、僕を心配するように、優しく語りかけてくる。
「いーい? 自覚はないみたいだけど、アンタはか弱いニンゲンなのよ。爆発を食らったら黒焦げになっちゃうし、刃物でザックザクやられた程度で簡単に死んじゃったりするの。 だから……ね?」
そう優しく諭すように僕に言い聞かせ、
「――こんな危険物、さっさとどっかにポイ、ってしちゃいなさい!!」
そう言って、ボム次郎を窓から投げ捨てようとする。
僕はうんしょとボム次郎の入った円筒にとりつくティータを、大慌てで止めた。
「わ、わー! 待った待った待った! ここまでこの子のレベル上げるの、ほんっとに大変だったんだからさ!」
……そう。
僕がボム次郎を手に入れるまでには、語るも涙、聞くも涙な過去があるのだ。
※ ※ ※
――セイリアたちに言わなかった、〈リトルボマー〉が熟練度上げに向いている理由の「四つ目」は、「レベルを上げられる」こと。
通常、遭遇するモンスターのレベルは固定であり、そのレベルを上げる手段はない。
しかし、〈リトルボマー〉の行う行動「すいこむ」は同族モンスターを吸収し、そのレベルを自分のものにすることが出来る。
〈リトルボマー〉のもともとのレベルは5だから、一匹を吸い込むとレベル10、二匹でレベル15という感じにレベルが増えていく。
つまり、計八十三匹の〈リトルボマー〉を吸い込ませれば、レベルを420まで上げられる、ということだ。
もちろんRPGで一度に同じモンスターが80匹も出てくるということはないし、〈リトルボマー〉は仲間を呼ぶモンスターじゃない。
ゲーム環境だとレベル400超えの〈リトルボマー〉を作るなんて絶対に不可能だっただろうけど、ここはもう現実だ。
戦闘に区切りなんてないし、〈リトルボマー〉をほかの〈リトルボマー〉のところまで連れて行ければ、理論上はいくらでもレベルを上げることが出来る。
実際に僕は半年間をかけてボム次郎に吸収を使わせ続け、ついにはレベル420のボム次郎を完成させた、という訳だ。
ただ当然、それは決して平坦な道のりではなかった。
(こいつら、ほんっとちょっと目を離すとすーぐ爆発するんだよなぁ)
〈リトルボマー〉は割とレアなモンスターだし、この世界では歩いているだけでモンスターが無限湧きすることもない。
一度ボマーを根こそぎにしたら数週間ごとにボマーがいないか生息域を探し回る必要があったし、せっかくのボマーがほかの冒険者に倒されたり、勝手に爆発してしまうこともあった。
さらに言うと、ボム次郎自体が爆発してしまえば全ての努力は水の泡。
〈リトルボマー〉のレベルアップを安定させるためには様々な障害があり、それらを解決するためには特別な技能が必要だった。
ボム次郎の育成期間は半年だが、そもそも〈リトルボマー〉の育成が出来るようになるまで、年単位での試行錯誤があったのだ。
――とはいえ、苦労した分の見返りは大きかった。
レベルが上がると「ふくらむ」のHP消費速度は高まるものの、回復量さえ足りていれば一切攻撃はされないし、ボマーのレベルを上げれば上がるほど、それを利用した熟練度上げの速度は速まった。
それに、〈リトルボマー〉はもともとの能力が弱いからか、レベルが上がってもそんなに強くはならない。
レベルだけを上げまくっても〈リトルボマー〉は〈リトルボマー〉であり、最初から高レベルのモンスターの強さには全く届かないのだ。
もちろん、そこまでレベル上げをした時点で「ふくらむ」を上限まで使われていることがほぼ前提になるし、攻撃の伸びはそこそこ高いから爆発の威力はやばいことになっているのだけれど、少なくとも「攻撃が通らない」とか、「避けられる」ようなことは起こらなかった。
それについてはまあ、たかがレベル80そこそこのセイリアが、レベル420のはずのボム次郎相手に途中までは破綻なく回復出来ていた、ということから考えても明らかだろう。
僕が実験した限りでは倒した時の経験値についてもそこまで多くはならないようで、前にレベル30くらいの〈リトルボマー〉を作って倒してみたけれど、普通に単体で倒していった方が効率がよかった。
まあ、今回は熟練度上げのためのサンドバ……訓練相手が欲しいだけなので、全く問題ない。
とにかく僕は数々の創意工夫と無数のモブ〈リトルボマー〉の犠牲のうえ、この最高の訓練相手を手に入れた、という訳だった。
※ ※ ※
「……ということでね。これはすっごく重要なものなんだよ」
僕がそう涙ながらに語ると、ティータは「はぁぁぁ」とため息をついた。
「最初見た時は『なんでこんなベヒーモスに轢かれただけで死んじゃいそうなひ弱な人間がアタシを呼び出したんだろ』って思ってたけど、やっぱりアンタ、普通じゃないわね」
「そ、そんなことは……」
……いや、あるんだろうか。
ゲームの主人公って、やっぱり平凡と言いつつ何かしら非凡な要素があったりするし。
「アンタが何考えてるかは全く分からないけど、的外れなことを考えてるのだけは分かるわよ」
そんな僕を見て、ティータの目つきはさらに鋭くなる。
けれど、しばらく僕を見つめたあと、ティータは諦めたようにもう一度ため息をついた。
「……しょうがないわ。アンタは止めたってまたやりそうだし、もうその爆弾、捨てろとは言わないわよ」
「あ、ありがとうティータ!」
ボム次郎の延命が叶ったことを喜んで、ティータの手を指でギュッと握る。
ティータは「もう、ちょーしいいんだから」とまんざらでもない顔をしていたけれど、僕に注意を促すのも忘れなかった。
「あ、でも! 絶対に気を付けなきゃダメなんだからね! 間違ってもその危険物から目を離したり、爆発させかねない扱いはしないこと!」
「も、もちろん!」
今日の昼間、危うく爆発させるところだったことは、ティータには黙っておくことにしよう。
キツツキのように何度もうなずく僕を、ティータは胡散臭そうな目で見たあと、
「……本当は、アンタの魔力がもっと増えてから、って思ってたんだけど」
それから、何かを決意したような顔をして、僕に向き直る。
「いい? アンタは何を言っても無茶をやめなさそうだから、アタシが特別に……と、く、べ、つ、に! 力を貸してあげるわ!」
「力を貸す、って?」
僕の言葉に、ティータは不機嫌そうに唇を尖らせる。
「まほーよ、まほー! それも、アタシくらいの精霊じゃないと使えない、とっておきの魔法をかけてあげる!」
それからティータは目つきを鋭くして、厳かに言った。
「――精霊魔法〈リアレイス〉。殺されたって、一回だけ復活出来る魔法よ」
そのとんでもない効果に、流石の僕も絶句した。
それって、物語の終盤にようやく登場するレベルの強力な魔法じゃないだろうか。
「ま、復活するというか、どんなにすごいダメージを受けても一度だけ瀕死で踏みとどまる、って言った方が正確かしらね。どーせアンタはまた無茶をするんだから、こういう魔法がないとニンゲンなんてすぐ死んじゃうでしょ。だからよ」
照れ隠しのように話すティータは、感動している僕を見ると、慌てて釘を刺してきた。
「い、言っておくけど、これをかけたからって無理なんてしちゃダメだからね! 〈リアレイス〉も決して万能なモノじゃないわ。今のアンタだとこの魔法を使ったら魔力切れでアタシは消えちゃうだろうし、特別な魔法だから二十四時間に一回しか使えない。体力とか気力とかが戻るワケでもないから、過信したらダメなんだからね!」
「分かってるよ。ありがとう、ティータ」
やけに早口でしゃべるティータだけど、それが僕のためを思ってのことだというのは、十分に伝わってきた。
(本当に、僕のところに来てくれたのが、ティータでよかった)
この信頼に応えるためにも、もう決して無茶なことは……あ、そうだ。
「――その魔法をかけたら自爆でも死ななくなるか、ボム次郎を使って一回試してみてもいい?」
「――いいワケないでしょ! やっぱりなんも分かってないじゃないアンタ!!」
こうして今日も、二人の夜は更けていくのだった……。
懲りないアルマくん!
次回からほんとにほんとにほんとにほんとに大会編となります!
なんかもう早速更新速度ブースト切れかけてますが、評価とか感想とかでドーピングしてもらえると嬉しいです!





