第八十話 練武の掟
誤字報告と感想欄でブ〇ント語に怒涛のツッコミが来てて笑顔になりました
いえ、「ふいんき(なぜか変換できない)」とかもですけど、知らない人にとってはマジで普通に間違いなので、うまくネタだと分かるように書くの難しいんですよね!
あ、まあそれはそれとして、なろうの誤字報告機能は作者側からするとほんとに神機能(感想欄とかで報告されるより修正が百倍楽)なので、この作品に限らずどんどん使ってあげてください!
大会については一応は知っているつもりではいるけれど、正直知識には自信がない。
そこで困った時のトリシャ頼りと、空き教室に急いでなんでも知ってるトリシャさんに大会について尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「ええとね。〈英雄学園捧剣練武大会〉っていうのは、純粋な武術の腕を競うことを目的とした大会で、ほかとは違うすごく特殊なルールが採用されてるんだ」
大会に使用するのは、以前にセイリアとの模擬戦でも使った決闘用のリング。
ただし、そこに適用されるルールが個性的だという。
「この大会で競うのは武術……つまり、近接戦闘の腕前。だから、魔法の使用は全面的に禁止だし、遠距離武器や消耗品なんかの持ち込みも不可。それどころか持ち込める装備も武器だけっていうのが特徴的だね」
しかもその武器というのも、魔法の付加効果や斬撃が飛ばせるみたいな特殊効果がついているものはNGというのだから徹底している。
まさに完全に「武術」を修めた者たちによる祭典で、だからこそ、普段学園で強者として名が挙がる、僕の兄さんや皇女様のような魔法使いタイプの人たちは大会にはまず出てこないらしい。
「あれ? じゃあ『魔法も武術も修めた魔法戦士』みたいな人っていないの?」
「全くいない、って訳じゃないけど……。魔法も武技も、どちらも訓練リソースとして魔力を使用する以上、魔法戦士ってスタイルは結局のところ無理があるんだよね。……まあ、それでも〈エレメンタルマスター〉クラスになると近接でも絶対強いとは思うけど、そこは空気を読んで戦士系の人たちに活躍の場を譲ってる、って部分もあるのかな」
そう言われると、まるで僕が空気を読んでいないみたいだけれど、全部教官のせいということで一つ勘弁してもらいたい。
「でもなんと言ってもこの大会の一番の特徴は、『一撃死』ルール。相手の気力がどれだけ残っていても、武器や拳による有効打が一発でも入ればそこで試合終了。決闘場の効果で自動的にリングアウトさせられちゃうんだ」
そのルールが番狂わせの可能性を生み、普通の戦いとはまた違う、独自の戦略性を生み出しているらしい。
「先手を取って一発入れるか、相手の攻撃を躱して反撃するか。どちらにせよ、この戦いで重要になってくるのが〈武技〉になる」
「でも、一発が命取りになる戦いで、動きが事前に決まってる武技ってのは不利じゃないの?」
例えば振り下ろしの武技だったら、振り下ろしをする手の位置を読んで、そこに先に剣を突き立てればその時点で勝負は決まりそうなものだけど。
けれど、トリシャはその質問を待ってた、とでもいうようにニヤッと笑った。
「もちろん、そういう面もあるよ。だけど、このルールにはもう一つ、大きな特徴があってね。武技を使っている間は気力の鎧が効いているから、その間の武技以外の攻撃は有効打にならないんだ」
「じゃあ、普通の攻撃が当たりそうな時に武技を出せば……」
「相手の攻撃を無効化しつつ、こっちの攻撃だけを当てて逆転、なんてことが出来る。もちろん、武技の動きが読まれやすいのは同じだから、それをさらに躱されてカウンター、も当然あるけどね」
しかしとにもかくにも、使う武技のチョイスとタイミングが勝負の鍵となるそうだ。
「この大会は、学園の外からも見学が出来るんだけど、かなり人気でさ。ほら、このルールなら場合によっては新入生が上級生に勝ったりもするし、決着が明確に分かるから見ている方としては面白いんだよ」
わたしも毎年見に来てたしねー、と、さりげなく大会ガチ勢カミングアウトをするトリシャ。
やはり解説のプロは一味違う。
「ただ……」
そこで、トリシャは言いにくいことを言うように、言葉を選んで口を開いた。
「そのうえで言うけど、やっぱりこのルールでも実力差っていうのは明確に出るよ。使える武技の種類もそうだけど、攻撃と攻撃、武技と武技がぶつかった時は基礎能力が高い方が押し勝つし、何よりも……」
「敏捷、だよね?」
僕の問いに、トリシャは真剣な顔でうなずいた。
「うん。敏捷の差は、普通の動作だけじゃなくて武技にも影響する。この速度差が、このルールでは一番重要な能力になるんだ」
敏捷の重要性。
それは、かつて上級生の不良相手に戦った僕が一番痛感するところだった。
単純に考えて、同じ技を同じタイミングで出せば敏捷が高い方が勝利するだろうし、ほかの要素でごまかしようのないこういう大会では、実戦以上に強い影響が出るのは想像に難くない。
問題は、僕の敏捷の値がどういう立ち位置か、だけど……。
「えっとさ。ちなみに訊くけど、敏捷が22って……」
「間違いなく、大会出場者の中ではぶっちぎりの最下位だろうね」
躊躇いなく口にされた彼女の言葉に、僕は天を仰いだ。
(大会のルールは、大体は思っていた通りだったけど……)
正直、今の僕にとって、もっとも相性が悪いと言っても過言ではない試合形式と言える。
(魔法さえ、魔法さえ使えればなぁ……)
ぶっちゃけてしまうと、セイリアやディークくん程度の相手なら、たぶん〈ファイア〉連発だけで完封出来る。
何しろ僕の〈ファイア〉はほぼノータイムで連射が出来て、威力は第十五階位並み。
第十三階位を見て驚いているような相手が防げるものじゃない。
あるいは仮に攻撃魔法が禁止だったとしても、新しく覚えた精霊魔法を使えば速度差なんていくらでも埋めることが可能だ。
MP消費が激しいので試合ではそう連発は出来ないけれど、〈シルフィードダンス〉を使えば学園生レベルの速度を出せることはすでに実証済みだった。
でもその余裕が、この事態を招いたと言えばその通り。
(……こんなことなら、もっと前からちゃんとレベル上げしておけばよかったなぁ)
レベル上げなんてやらなくても、魔法さえあれば戦闘はどうにでもなる。
そんな慢心が心のどこかにあったことは否定出来ない。
(ほんと、どうしようか……)
そもそも、仮に運営に掛け合うか何かしてレベル上げを可能に出来たとしても、大会はもう一週間後。
流石に今から必死でレベル上げをしても、おそらくレベル100近くはあるだろう猛者たちと正面から渡り合うのは厳しいだろう。
(いっそ自力優勝はあきらめて、優勝者から譲ってもらう、とか?)
いやでも普通に考えて、記念の優勝トロフィーを他人に譲るとかは流石に……。
――コンコン。
僕が思考の迷宮に入りかけた時、空き教室にノックの音が響く。
防音の魔道具は中からの音は外に通さないが、外からの音はきちんと通すのが、こんな時には便利だ。
「僕が出るよ」
気分転換も兼ねて立ち上がり、扉を開くと、そこにはある意味で渦中の人物がいた。
「あれ、セイリア?」
僕らのクラスメイトにして、ディークくんと並ぶ代表選手。
〈ファイブスターズ〉屈指の剣の使い手、セイリア・レッドハウト。
「また、突然来ちゃって、ごめんね」
彼女を助けた日、電撃的に男子寮に入り込んで、強烈な「お礼」を残していった彼女の姿がフラッシュバックする。
しかし、いつも凛としているはずの彼女が、今は倒れそうなほどに弱々しかった。
「ほんとはこんなこと、アルマくんに頼むべきじゃないって分かってる。でも、ボクにはアルマくんしか頼れる人がいなくて……」
それからの光景はたぶん、あの日の焼き直しのようだった。
「――おねがい、します! ボクに、剣術を教えてください!」
扉を挟んで、大きく頭を下げるセイリアと、その先で立ち尽くす僕。
……ただ、唯一違うところがあるとしたら、お互いの表情だろうか。
あの時、興奮に上気していたセイリアの顔は、今は緊張と不安で血の気を失っていて……。
そして一方、それに対する僕は……。
「――僕に出来ることなら、もちろん! あ、でもその代わり、ちょおっとだけ『条件』があるんだけど……」
ニィィ、と口角が吊り上がっていくのを、抑えることが出来なかったのだった。
悪魔との契約!





