第二百三十六話 暴風の鎮め方
本当は書く予定じゃなかったんですが、「この話、ここくらいでしか差し込む余裕ないな」と思ったので急遽「私」視点です!
「――っぱレシア様よねー」
私はベッドの上にごろんと横になりながら、フォルストのスピンオフ小説〈闇皇女の軌跡〉を読み直していた。
――〈闇皇女の軌跡〉は、フォルストの公式ページから発売後しばらくして発表された、フィルレシア皇女を主役としたサイドストーリーだ。
スピンオフらしく、ストーリーのテイストはゲームとは全く違う。
つまりは、優雅で穏やかなフィルレシア皇女の毎日を描くほのぼの系SS……などでは全くない。
……テイストが違う、というのは、むしろ逆。
この話は、ファンの胸をあったかくさせるような素敵な物語が書かれたものじゃない。
ファンの心をえぐり、けれど惹きつけてやまない絶望が描かれた物語。
フィルレシア皇女をはじめとした〈ファイブスターズ〉が、如何に滅びの道を辿っていくかをねっとりじっとりと記した、いわば闇の書なのだ!
「そうは言ってもメンタル削られるから、休みの日でもないと読めないけどねー」
確かに〈ファイブスターズ〉はゲームにおいては敵役だが、だからと言って、どんな目にあっても何も思わない訳じゃない。
むしろ、フォルストの前身となったギャルゲーからキャラを流用したとも言われる彼女たちは、一人一人がしっかりとキャラ造形されていて、下手をすると本編の攻略対象以上のディテールを持っている。
そんなキャラたちが悲劇に巻き込まれていくのだから、当然その破壊力は相当なものだ。
さらに言えば、このSSの救いのないところは、ゲーム本編の裏側で起こっていた「事実」を掘り下げているだけの内容なので、ゲームでどんな選択肢を選んでも、この悲劇にはプレイヤーは一切干渉出来ないこと。
ここに描かれた悲劇は、ゲームにおける正史であり、「確定された歴史」なのだ。
(ま、そうじゃないと、ゲームのシナリオ破綻するっていうのも分かるけど、さ)
これらの悲劇は、ゲーム中盤に発生する「フォルスト最大のイベント」につながってくるため、シナリオ上変える訳にはいかないという理屈は分かる。
分かるが、いくらなんでもやりすぎというか、「人の心がないのか、あんたたちはぁ!」と言いたくなってくるほどのストーリーではあった。
……まず、この小説を読んだ読者に「一番心に残ったキャラを一人選んで」と尋ねたら、ほぼ間違いなく〈赤髪の復讐姫〉こと、〈セイリア・レッドハウト〉の名前があがるだろう。
〈ファイブスターズ〉の最初の「犠牲者」であり、卑劣な騙し討ちで全てを失い、外法の力に酔って復讐に狂っていく様はあまりに鮮烈だ。
目を覆いたくなるほどの悲劇というだけでなく、復讐姫となったあとのセイリアの暴れぶりは爽快で、ある種ピカレスクロマン的な面白さもある。
しかし、「傷跡の大きさ」という意味では、メイリル・サスティナスのもたらしたインパクトも負けてはいない。
彼女のエピソードを彩るのは、サスティナス領を荒らす狂った風の精霊。
それから、ゲーム本編にも交流戦の優勝賞品として登場する〈統風の魔旗〉だ。
しばし目を閉じて、ゲームのフレーバーテキストを脳裏に思い浮かべる。
《統風の魔旗(貴重品):帝国西部の暴風を鎮めるために必要な魔法旗。魔王に至る四つの鍵の一つ。「たとえ、この身を闇に堕としても……」》
ゲームにおいて、〈望月の遺跡〉のボスである「魔人」を倒すことで手に入るこの旗の説明文は、おそろしいことに一切の誇張なく真実だ。
彼女は、故郷のために婚約者に尽くして裏切られ……。
それでもと帝国の人体実験を受けてその身を魔にやつし……。
外法で身に付けた風の素質と共に〈風鎮めの儀式〉に挑む。
――しかし、彼女のその努力は、献身は、ほかならぬ彼女の手によって、裏切られることになる。
儀式によって逆流した〈狂える風精〉の声は、魔に染まった彼女を容易く狂わせた。
そうして……。
狂気に冒され「魔人」となった彼女は、サスティナスの地を永遠の暴風に沈め、滅ぼしてしまうのだから。
もう訪れることのない原作!
向こうで書いてるマスカレードナイト仮面もですが、ちょっと別件でやらなきゃいけないこともあり、次回更新は来週くらいになる予定
まあ適当に評価なり感想なり投げつつ待ってくれてると嬉しいです!





