第二百二十九話 妖精のお姫様
実は面白そうな8番ライクのゲームのアイデア思いついてたんですよね!
ただ色々検討したんですが、ジャンル的にどうしても技術力と演出力が必須になるので、幸いなこと(?)に諦めムードです
――メイリルさんの故郷、サスティナス領。
僕らがやってきたその場所に広がっていたのは、視界いっぱいの荒野だった。
「これが、サスティナス領が抱える病理の一つです。すぐに風精様の暴走を鎮めなければ未来がないというのは、この土地の状態が大きいんです」
その声に、顔を上げる。
荒れ果ててしまった荒野を、彼女は決意を持った面持ちで眺めていた。
「土地が荒れた原因も、風精ってこと? でも、風精って空を飛んでいるんじゃないの?」
それが地上を変えるというのも、どうも素直にはつながらない。
僕がその疑問をぶつけると、彼女はゆっくりと首を振った。
「はっきりとしたことは、分かりません。ただ、風精様が現れる土地が、どんどんと荒れていっていることだけは、確かです」
沈痛な面持ちの彼女。
どうやらメイリルさんにも確信はないようだけど、やはり風精に原因があると考えているようだ。
(ただ……)
いつもと違って、イベントの既定路線に乗っているとは言えない現状。
風精の問題を何とかしてから、「実はその裏にさらなる真相がありましたー!」なんて展開を避けるためには確証がほしい。
「……あ、いや、そうか」
しかしそこで、単純なことに気付いた。
餅は餅屋。
精霊のことに詳しい専門家が、僕にはついているのだ。
「――ええと、召喚!」
昨夜夜更かしをしていたせいか、まだ僕の中で眠っている相棒を呼び起こす。
僕が専門家として呼んだのは、この世界における僕の相棒。
「――んー、アルマ、もう朝ぁ? ……ってうえぇぇ!? どこここぉ!?」
なんだかやたらと久しぶりに感じる僕の契約精霊、ティータだ。
「あはは。話すと長いんだけど、実は……」
今まで寝ていたティータに、これまでの状況を話そうと口を開いた時だった。
ガタタンという音に振り向いた先、メイリルさんが馬車の椅子から転げ落ち、
「――ひ、光の神霊様っ!?」
想像もしていなかった言葉を口走る。
「へっ?」
「ふぁっ!?」
メイリルさんが口にした言葉に、完全に馬車の時間が止まった。
「い、いや、あのね、メイリルさん。ティータは風の精霊で……」
確かにティータは明らかに普通のシルフとは思えないすごい精霊ではあるけれど、〈光の神霊〉は、原作におけるいわば最高峰の存在。
いくらなんでもそれはないだろうとティータを振り返ると、
「ひ、ひひひひひひかりって、な、なな、なぁんのことぉ? ア、アタシ風精霊だしぃ? 光とか闇とか聞いたこともないんだけどぉ? みたいなぁ?」
これ以上ないほどに動揺していた。
(というか、自分が光の精霊なのを否定するのはともかく、光も闇も知らないは無理あるでしょ!)
語るに落ちる、とはこのことだ。
(というか、そう言われると思い当たる節が多すぎる!)
今思い返すと、ティータの属性が風ではなく光だと考えれば、辻褄の合うことはたくさんあるのだ。
まず、ティータが教えてくれた魔法。
〈シルフィードダンス〉は風魔法だが、〈ライトニングスピード〉も〈リアレイス〉も光魔法だ。
それに、原作主人公である僕、アルマ・レオハルトの適性が、明らかに光特化であること。
持ち主が光特化なんだから、その相方であり、推定専用精霊であるティータも光の精霊であるというのは考えてみれば自然!
「や、やはり……」
そして、そのティータの反応によって、メイリルさんもなんらかの確信を得たのだろう。
崩れ落ちた体勢から身を起こすどころか、さらに身体を伏せて、まるで土下座みたいな姿勢を取った。
「伏してご挨拶申し上げます! おそれながら、神霊ティターニア様とお見受けいたします! ひ、卑賎の身にて拝謁の機会を賜り、身に余る栄誉を……」
「ちょ、メイリルさん!?」
震えながら土下座挨拶を始めたクラスメイトの姿に、僕は思わず度肝を抜かれてしまった。
いや、普段のポンコツなティータを知る者としては、メイリルさんのへりくだりっぷりには動揺してしまうけれど、でも……。
(「ティターニア」って、僕でも名前は聞いたことあるビッグネームじゃないか!)
元ネタはシェイクスピアか何かだっただろうか、色んなゲームで出てくる妖精の親玉みたいなイメージだ。
世界一は強いモンスターや召喚ユニットに神話や名作から名前を引っ張ってくる例はあるし、もしティータがあだ名みたいなもので、彼女の本当の名前がティターニアなら、確かに神霊だったとしても不思議はない。
(いや、そういえば……)
ティータはいつも自分を偉大な存在だと口にしていた気もする。
もしかして、ティータ的にはこの対応が正解なのか、と思って慌てて振り返ると、
「えぇ……こわぁ」
頭を下げられた当のティータ自身が、メイリルさんの土下座にドン引きしていた。
それから、ハッとして僕を見ると、あせあせと両手を振る。
「っていうか、人違いだから! アタシはティターニアじゃなくて、ティータだし!!」
「え? で、ですが、御身から感じる強い光の魔力、それから妖精そのもののお姿は、かの妖精女王としか……」
「だ、だから……」
メイリルさんの言葉に、ティータは一瞬だけ僕を見てためらったように口をもごもごとさせたが、結局堪え切れず、
「あーもう! そっくりなのは当たり前でしょ! それはママ! アタシは妖精女王ティターニアの、一人娘なんだからぁ!」
割と重要そうな情報を、馬車中に響くような声で叫んだのだった。
※ ※ ※
(まさか、ティータにそんな背景があったなんて……)
驚くと同時に、どこか納得がいくところもある。
ティータは明らかにそんじょそこらの精霊とは違ったが、ティターニアなんてビッグネームをいきなり主人公の初期精霊にすると流石にオーバーパワーだし、原典からズレたことをすると叩かれかねない。
ただ、ティターニア本人ではなく、その娘ということにすれば、諸々の問題は解決する。
本人じゃなければどんな性格設定をしたり、多少雑に扱っても問題ないし、能力的にもゲーム初期は強くなくても将来的に神霊に並ぶほどのポテンシャルが期待出来るおいしい位置とも言える。
「ええと、もう一度確認しておくけど、ティータは光の精霊ではあるけど、〈光の神霊ティターニア〉本人じゃなくて、その娘なんだね?」
僕がそう念押しするように尋ねると、ティータは憤慨するようにパタパタと羽を揺らした。
「だから、ずっとそう言ってるじゃない! いーい? アタシはママより若くてピッチピチだし、ママよりずっと……」
「わ、分かったって! でも、どうして自分のこと、隠してたんだ?」
長くなりそうな語りをキャンセルして問いかけると、ティータはちょっとばつが悪そうな顔をして、語り出した。
「それは、その、ママから言われてたのよ。『もし下界に喚ばれることがあったら、普通の精霊のフリをしなさい』って」
「妖精女王様が?」
ティータが神霊ではないと分かって、ようやく普通にしゃべれるようになったメイリルさんが、思わずといったように尋ねる。
ただ、いまだどこか腰が引けているように見える辺り、まだティターニアショックの影響は大きいようだ。
「んー。なんかよく分からないけど、アタシが天才すぎるせいかも! あ、あと、『ふつーのへーみん(?)』とかいうのが光の精霊と契約しちゃうと、その人の人生が大変なことになっちゃう、とかも言ってたかしらねー」
「な、なるほど……」
ティータが天才かは措いといて、精霊の属性は、契約者の適性に依る。
光の精霊なんかと契約したら、光の魔法適性があることがバレバレだし、大騒ぎになることは確定だろう。
そんなことを考えて、思わず黙り込んだ僕に、
「ね、ねえ……。やっぱり、ずっと隠してたこと、怒ってる?」
めずらしく、ティータが不安そうに問いかけてきた。
ただ、その答えは決まっている。
「……いや、そんなこと、ないよ」
確かに公爵家の僕なら注目が集まっても人生が狂わされるなんてことはないだろうけれど、光適性が大っぴらになれば、「初期は落ちこぼれ」というアルマの初期設定が崩れる。
つまり、原作を守護れなくなる可能性が高かった。
かといって、僕の光属性への覚醒イベントが将来的に存在するだろうということを見越せば、通常属性の精霊では不適格。
そう考えていくと、「本当は光属性だけどそれを隠しているティータ」は、もはや僕の精霊として最適解どころか、唯一解とすら言える。
「むしろ、僕はずっと、ティータに助けられてきたんだって、分かったよ」
「え……」
ティータの小さな瞳と、正面から向き合う。
その瞳は、いまだに不安に揺れていた。
(……本当にそう、だよね)
口に出して初めて、分かる気持ちもある。
確かに口うるさいところはあったけれど、ティータはずっと、一番近いところから僕を助けてくれていた。
ファーリの騒動もティータが力を貸してくれなければ解決しなかったし、ティータが〈リアレイス〉を教えてくれなければ、シギルをあんなに簡単に倒すことも、バブルポーションを飲んで即死耐性を上げることも出来なかっただろう。
そのどこまでが原作通りの流れで、どこからがこの世界にいるティータ独自の行動なのか、それは分からない。
でも、どちらであっても構わない。
ティータの僕への献身も、僕の胸の中に渦巻く感謝の気持ちも、どちらも本物だ。
そんな確信の下、僕はティータに向かって笑いかける。
「ありがとう、ティータ。やっぱりティータが僕の相棒で、よかったよ」
「ア、アルマ……」
絡み合う視線が、熱を帯びる。
それに促されるように、
「あのね、アルマ! アタシも……」
ティータが僕に向かって何かを、とても大事な何かを伝えようとして……。
「あ、あの! ちょっと待ってください! 妖精女王でなくともティータさんが光精霊なら、もしかしてアルマさんって、光魔法が使えることになる、のでは?」
「「……あ」」
すっかり存在を忘れていたメイリルさんに突っ込まれ、僕らは慌ててメイリルさんに口止めを頼んだのだった。
二人は仲良し!
話は進みませんでしたが、ようやくティータを出せたので満足です!
そろそろメイリル編も佳境なので、明日もたぶん更新します!





