特別IFストーリー やりこみ転生ゲーマー その四
「――レ、レミナ? 大丈夫?」
トリシャちゃんの話を聞いた私は、口から煙を吐いて倒れてしまった。
(意味が、意味が分からない……!!)
詳しい話を聞いてみたら、原作は想像していたよりも粉々だった。
まず、入学初日の〈精霊の儀〉。
トリシャちゃんと以前から仲が良かった私は、すでにトリシャちゃんから光の魔法の適性を見出されていた。
だから〈精霊の儀〉ではなんにでも気の付くトリシャちゃんに、風属性が強い触媒を渡され、主人公ちゃんが呼んだのは風の精霊。
つまり、主人公光適性バレイベントは完全にスキップだ。
なんてこった!
もちろん、その影響はすさまじい。
まず、偽聖女に光の精霊で目立ったことで目をつけられ、そこをハルト様やセイリアに助けられるイベントは当然発生しない。
しかし、歴史の修正力なのか、ランドはセイリアに絡んでいったようだった。
ま、まあ「初日から!?」とは思うものの、これはいい。
問題なのは、中途半端に修正力が効いたのか、絡まれるセイリアの元にハルト様が助けに入り、ランドを完全に撃退してしまったこと。
これによってセイリアが廃人になることはなくなり、Dくんルートは完全に閉ざされてしまった。
(い、いや! セイリアのことを思えばいいこと! とってもいいことなんだけど!!)
そして、イベントの破壊はこれに留まらない。
本来は、闇の力を手に入れ、復讐姫となったセイリアが優勝するはずの闘技大会。
この闘技大会でのトロフィーが真エンドフラグにもなる超重要アイテムのため、ゲーム終盤にこの大会で優勝したセイリアに勝つことで、間接的にプレイヤーが手に入れられる……はずなんだけど、この世界のセイリアは闇の力に手を染めていない健全な状態。
これじゃあトロフィーが全く関係ないキャラに渡って原作崩壊……と思いきや、
(なんかこの大会、ハルト様が勝っちゃったらしいんだけど!?)
もう何がなんだか分からないレベルの事態が発生していた。
いやまあ確かに、スペックだけならハルト様もなかなかなんだけど、闇の力のようなズルをしなければ、流石に一年生組はまだ校内のでかい大会に勝てるだけの力はない。
ない、はずなんだけど……。
(一体どうなってるの!?)
もう何度目になるか分からない心の叫び。
でも原作くんの受難は、こんなものじゃなかった。
次は、討伐演習。
このイベントは、主人公と攻略対象が転移罠によってワープ。
拠点に残った一年生のみんなが襲われて、奮闘も虚しく多数の死者が出る……ってイベントのはずなんだけど。
(――アレで死者ゼロってどういうこと!?)
これの舞台裏として、光の魔法を使うクラス最大戦力である腹黒姫ことフィルレシア皇女を転移罠で隔離し、その間に一年生の演習参加者を襲わせるという計画が動いていた。
実際には転移罠には光の適性を持つ主人公と、その隣を歩いていた攻略対象(その時点で、主人公と一番仲が良いキャラが選ばれる)が罠にかかり、黒幕の計画ほどではないけどかなりの被害が出る、というイベントだったはず。
それが無傷の勝利ということは、クラス全体の戦力が原作よりも上がっていることにほかならない。
そして、極め付きなのが学園交流戦。
なんとなんとなんと、レミナ率いる主人公チームが、あの腹黒姫フィルレシア様率いるファイブスターズと決勝戦で激突、見事に優勝を勝ち取ったらしい。
「――って、なんでだよ! それやったらエンディングだよ!!」
と思わず叫びそうになったのは、誰にも責められまい。
何かしらの要因で、原作と違って腹黒姫様のレベルが低かったんじゃ、と思ったらなんと姫様のレベルは103。
もちろん、表のレベルでこれだから、裏のレベルも考えると原作より相当に強くなっている。
(それを倒せるだけの主人公チームの戦力って、何?)
私はおそるおそる自分のステータスを覗いて、そして見たことを後悔した。
――この主人公もうレベル六十超えてる!!
いや、いやいやいや!
(まだ一年の一学期だよ! まだゲーム始まったばっかだよ? もうルートによっちゃ、そろそろラスボス倒せるじゃん!!)
このゲーム、貴族の中に一人放り込まれてしまった平民、という性質上、序盤は主人公がめちゃくちゃ弱い。
ダントツでレベルが低く、やれることも少ないが、それが二年、三年と成長していくにつれ、だんだんそのチート染みた性能が明らかになって……となるはずなのだが、これはもうひどい。
(てか熟練度の伸びやば! え、なに? チートツール使った?)
そんな訳の分からないことを考えてしまうくらいに、アホみたいに能力値が育っていた。
(まさか、二周目主人公? い、いや、でもトリシャちゃんの話だと、入学時の能力は人並みって感じだったし……)
だとしたら、「私」より前にこの身体を動かしていた人物が主人公のレベルを上げ、原作を改変したのだろうか。
……でも、それもしっくりこなかった。
なぜなら、原作への干渉はもっと前から行われているからだ。
私はそこで、クラスメイトを見回す。
そこにいる顔はほとんどが見覚えのあるもの。
しかし、いくつかの顔が、ゲームとは決定的に異なっている。
中でも一番大きな差異は、間違いなく……。
――ロブライト侯爵家、リスティア・ロブライト。
フォルストプレイヤーの間では偽聖女と呼ばれた金髪ドリルが、この教室にはいなかった。
トリシャちゃんから聞き出したその原因は、陰謀の発覚。
幼い頃のフィルレシア皇女に対する陰謀が発覚したせいで、彼女は一家ごと国外に追放されていたのだ。
正史において、ロブライト家が仕込んだ魔道具によって、フィルレシア皇女は魔法を暴走。
彼女が唯一心を許していた侍女が大怪我を負い、その後死亡。
フィルレシア皇女は孤独になると同時に、その事件を咎める形でロブライト家を中心とした大きな政変が起こり、数々の貴族家の中心人物が犠牲になった。
悪徳貴族であるロブライト侯爵の力が強まったことに加え、トリシャちゃんの実家であるシーカー家の人間や、大貴族であるレヴァンティン家、それに何より、皇帝が唯一気を許す相手であり、レオハルト家の当主である英雄〈レイモンド・レオハルト〉が命を落としたことが、結果的には皇帝の専横を許す遠因となった。
これによって国が乱れなければ、〈剣聖グレン・レッドハウト〉も死ななかったのではないか、なんて考察も掲示板では見た覚えがある。
……確かに、この事件はフォルストストーリーにおける最初の悲劇だ。
もしも私がこの世界に転生したとしたら、一番に止めたいと考える事件はこれかもしれない。
……そして、そうだ。
私は最初の選考では落選し、補欠で選ばれた「二番目の転生者」だ。
だとしたら、この世界には私より前に転生権を手に入れた、「一人目の転生者」がいるのではないだろうか。
でもその「一番目の転生者」の転生先が主人公であるレミナであるとは、ちょっと思えない。
入学までのレミナは平凡なようだったし、何よりも平民の彼女には、皇女であるフィルレシアの暴走を止める手段がない。
だとしたら、これだけ原作をひっかきまわし、フォルスト世界を完膚なきまでに破壊した、「一人目の転生者」とは誰なのか。
「……そう、か」
全ての要素を洗い出し、原作と今の世界の違いを、その理由を絞っていき、「一人目の転生者」の意図を丁寧に読んでいくと、分かった。
この中で「一番原作と状況が違っている人」を追っていくと、たった一人の人物に行き着く。
転生者は、「あの人」以外に考えられない。
(そう、この事態を引き起こした、元凶は……)
果たして「私」は原作をめちゃくちゃにした元凶にたどりつけるのか!
次回、IFストーリー最終回!
23時頃には、きっと……





