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第二百十八話 御旗を掲げて

今度はPCトラブルががが……

 リングに残っている味方は、石化して攻撃を受け付けなくなったレミナだけ。

 ならもう、どんな魔法を使っても巻き込む心配はない。



「――〈ファイア〉!!」



 強化されたその一撃はリング全体を焼き尽くし、決闘場に張り巡らされた結界に阻まれ、唸りをあげる。


「ぐ、ぅ!」


 術者本人でさえ目を開けていられないほどの熱風が、会場を吹き荒れる。

 石化したレミナの陰に隠れるようにして熱気をやりすごすと、少しずつ魔法の余波も薄れていく。


 やがて煙が晴れ、露になった決闘場に残っていた人影は、たった一つ。




「――こほっ、こほっ! 本当に貴方は、無茶なことばかりやりますね」




 わざとらしく咳き込みながら立つ、フィルレシア皇女だけ。


(……やっぱり、か)


 いくら〈ゴッド・ブレス〉による軽減があったとはいえ、理屈の上では103程度のレベルの彼女がさっきの〈ファイア〉を受けて生き残るのはおかしい。


 でもなぜか、それを当たり前に受け止めている自分がいた。


(……それでも、負けるつもりはない)


 フィルレシア皇女を倒すのは、おそらく周回プレイヤー向けの超高難易度イベント。

 けれど、この先にしかハッピーエンドが存在していないのなら、それを避けて通るという選択肢は僕にはなかった。


 一瞬たりともフィルレシア皇女から目を逸らさないように気を付けながら、ちらりと横目で会場のディスプレイを確認する。


(……なる、ほど)


 フィルレシア皇女のHPゲージは、ほぼ全損。

 けれど、まるで不自然なくらいにギリギリに、ほんの数ミリ程度のHPがそのバーには残っていた。


 対して、彼女のMPゲージはいまだに健在。

 その青いゲージは、いまだ八割以上の魔力が彼女の身体に残されていることを示している。


 一方、僕のゲージはHPはほんのわずかにしか減っていないものの、MPゲージは全損に近いほどに削られている。


 実際、僕のMP残量はたったの2。

 第一階位魔法の〈ファイア〉どころか、初級魔法の〈トーチ〉を使っただけでMP切れで負けになる状況だ。


(ゲージ残量だけを見るなら、互角、だけど……)


 僕にはMP回復手段がない一方で、フィルレシア皇女には回復魔法がある。

 どれだけHPが減っていても、MPさえ残っていれば光魔法でいくらでも回復は出来る。


 さらに言えば、レミナの石化だって光魔法の〈エンジェルキュア〉を使えば回復可能だ。

〈エンジェルキュア〉の射程は短いから、レミナに近寄らせないように気を付けていれば防げるはずだけれど、決して油断は出来ない。


(時間を与えれば、回復魔法が使えて遠距離攻撃も得意なフィルレシア皇女が有利になる。その隙を与えず、いかに接近戦に持ち込めるかが勝敗を分ける、か)


 少しでもきっかけがあれば、それが最後の戦いの開始の合図になるという予感があった。


 じりじりと、肌を焼くような緊迫感。

 僕とフィルレシア皇女は、互いの隙を探るように、見つめ合う。


 そして、張り詰めた均衡を崩すように、ゆっくりとフィルレシア皇女が手をあげて、




「――降参します」




 思いもしない一声を発したことによって、交流戦は静かな幕引きを見せたのだった。



 ※ ※ ※



 試合終了が告げられてもいまだに事態を飲み込めないでいる僕を襲ってきたのは、怒り狂ったチームメイトだった。


「――もう! もう、もう! レオっちぃいいいい!!」


 試合場に飛び込んできたトリシャは、レミナにドボドボと石化回復薬をかけると、元に戻った彼女を僕から奪うように抱きしめる。


「レミナ! 怪我はない?」

「え? あ、うん。……あれ? 試合は?」


 レミナの返答にほっと胸をなでおろしたトリシャは、こちらに抗議の視線を送ってきた。


「最初に使った〈ファルゾ……口にするのもやばい魔法とか、石化したレミナに技を撃ったこととか、煙でよく見えなかったけどもしかしてレミナを盾にしてたんじゃないの、とか、最後のあのわけわかんない威力の魔法はなんなの、とか、色々、ほんっとーに色々言いたいことがあるけど……」


 トリシャはそこで言葉を切って、



「とりあえず、その…………お疲れ様」



 ちょっと照れたように言うと、コツンと僕の胸を小突いてきた。


「やり方はまあ、ちょっと……いや、だいぶ……ううん、かなり……? 気にはなったけどさ。〈ファイブスターズ〉に勝てたのは、間違いなく、レオっちのおかげだから」

「トリシャ……」


 予想外の一言に戸惑っていると、彼女はたはは、と笑って頭をかく。


「ま、偉そうなこと言って、わたしはあんまり力になれなかったから、余計に、さ」


 ばつが悪そうに笑うトリシャをフォローしたのは、その腕の中にいるレミナだった。


「そ、そんなことないよ! トリシャが割って入ってくれなかったら、怖くて魔法なんて使えなかったから!」

「そうそう。それに、トリシャには作戦立てるとこから十分働いてもらったしね」


 すかさず僕も追従すると、


「それ、最終的にわたしの考えた作戦全部投げ出して、『レミナを石にして会場全体爆破して勝つ』ってぶっ飛んだ戦法をやらかした人が言う台詞じゃないけどね」

「う……」


 どうやら失言だったらしい。

 しおらしかったトリシャの視線が、途端に険しくなる。


(うーん。世界一ファクトリーのゲームなら、要救助者を石化して死なないようにするのは鉄板戦法だったんだけどな)


 なんならあまりにもこすられすぎて、「ほかのあらゆる状態異常に弱いのに、なぜか石化にだけは完全耐性を持つNPC」なんてのがゲーム中に出てくるようになるくらいには有名だった。


 だから僕は自信を持ってレミナ石化防御法を作戦として提案したんだけど、正直チームメイトのウケはあんまりよくなかった。


 むしろ当事者のレミナが「なるほど!」と感心していたのが一番好意的な反応で、あの性格がいいディークくんでさえちょっと引いたような顔をしていたのだ。


(やっぱりゲームと現実は違う、か)


 そうやって、僕が意外なゲームと現実の差異を噛み締めていると、残りのチームメンバーも集まってきた。


「やったな、レオハルト! まさかあそこから逆転出来るとは思わなかったぜ!」

「レオハルト頼りだったとはいえ、まさか僕らが〈ファイブスターズ〉を押さえて優勝とはね」


 ディークくんは喜色満面に、ルークスくんは感慨深そうな顔で、それぞれの感想を口にする。


「……そう、か。優勝、したんだ」


 その言葉に、僕にもやっと勝利の実感が湧いてくる。


 この交流戦イベントでは、あまりに色々なことがありすぎた。

 プレイヤーに対するいやがらせのようなチーム分け、システムの穴を突くようなギミック、あまりにも強大な元仲間、初見殺しすぎる魔法を持つフィルレシア皇女など、様々な障害が、常軌を逸した難易度が立ち塞がってきた。


 でも……。



(――僕はそれを全部乗り越えた! また一つ、原作を守護れたんだ!!)



 そう思うと、じわじわと達成感がこみあげてくる。


「……っと! 最後のお仕事の時間だぜ。ほら」


 そう言われて視線を戻すと、決勝からそのまま表彰式に移るようで、壇上にいかにも魔法学園に出てきそうなヒゲがもっさもさのおじいさんが出てきていた。


「じゃ、チーム代表としていっちょ頼むぞ、お二人さん」


 そうして仲間たちに押し出され、リーダーであるレミナと一緒に、今回の主催である特区の学園長の前に送り出される。

 普通こういうのはリーダーの役目なんじゃないか、と思ったけれど、


「レ、レオハルト様が来てくれて、心強いです!」


 レミナにそう言われてしまっては、流石に一人だけ戻るのも申し訳なく思えてくる。


(……まあ、ゲームの主人公だしね)


 原作でもきっと、チームのリーダーと一緒に表彰される役をやっていたのだろう。

 そう割り切って、レミナと二人、特区の学園長の前に立つ。


「ゆ、優勝おめでとう」


 なぜだか顔が引きつっているようにも見える学園長から、大きな旗を差し出される。


「……レミナ」

「はい!」


 ここからの作法は、事前に聞いていた。

 レミナと二人、一瞬だけ顔を見合わせると、二人で一緒に手を伸ばして、空へ届けとばかりに旗を突き上げる。



《統風の魔旗(貴重品):帝国西部の暴風を鎮めるために必要な魔法旗。魔王に至る四つの鍵の一つ。「たとえ、この身を闇に堕としても……」》



 割れるような歓声の中、天にはためくその旗を見ながら、僕は「これ、ゲームだとイベントスチルが入る場面かな?」なんてことを考えたのだった。

二つ目の鍵ゲット!




これで交流戦はひと段落!

あとは短めの後日談をいくつか投下しつつ、この隙にバーチャルダンチューバーの方をばりばり更新していく予定なので、暇があったらそっちも見に来てください!


なんと、今は「バーチャル美少年ダンチューバー」って検索バーに入れるだけで出てきます!

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かっこいいアルマくんの表紙が目印!
書籍二巻、11月29日より発売中!
二巻
ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
やっぱりこいつ猫耳猫の系譜だった……
またレミナの好感度高いキャライベントに引っ張り出されてる……これはアルマ君ルート入ったな! 皇女様のHPがギリギリ残ってるのはちょうどカクヨム最新話あたりに出てきたアレですかね 降参したのは……何で…
守るために石化させて、でトレインちゃん思い出した。 もしや猫耳猫も世界一ファクトリー製のゲームだった?
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