第二百十五話 帝室十字
一応今まで使った魔法とか技の設定メモしてあるんですけど、たまーに書き忘れとかあるんですよね
長編シリーズの弊害が……
(――失敗した!)
まさか、フィルレシア皇女が〈ホーリー・ブレス〉の上位互換魔法を習得しているなんて、想像もしていなかった。
リスティアが参考元となる〈ホーリー・ブレス〉を使ったのは第五学園戦なので、これはゲーム的にはおそらく干渉不可能なイベント。
決勝戦で〈ファイブスターズ〉との戦いに絶望感を持たせるための、初見殺しイベントなんだろうけど……。
(見事に引っかかったよ、ちくしょう!)
そのせいで、貴重なMPの大半を使い尽くしてしまった。
僕の最大MP112に対して、本物の〈ファルゾーラ〉の消費MPは66。
十五階位魔法の中では消費は軽い方だけれど、二発目を撃つことはもう出来ない。
(こんなことなら、消費MP軽減か最大MP増加の指輪をつけてくれば……)
と思ったけれど、後の祭り。
とにかく初撃で決めたいと思っていたため、〈ファルゾーラ〉が外れることがないように、魔法の効果範囲を広げる指輪をつけてきてしまっていた。
僕は後悔の念に苛まれるけれど、時は待ってはくれない。
「くっ! それなら何度でも……!」
そう言ってルークスくんが魔法を唱えようとするのを、慌てて止める。
「――魔法はダメだ! リスティアの〈ホーリー・ブレス〉と同種のバリアが張られてる!」
こういうバリア魔法の突破法で、「魔法を減衰されるなら、その分だけたくさん撃てばいい」なんて解決策もあるけれど、あのバリアについてはそれで突破出来る類のものじゃない。
〈ホーリー・ブレス〉に対して第五学園チームが魔法を連打していたが、あれが悪手だったのは試合結果が証明している。
(ああもう! リスティアはなんて面倒なもんを残してってくれたんだよ!)
大雑把な考え方だけど、例えばこちらの魔法の威力が500、相手の魔法防御が50なら、ダメージは「威力500-防御50」で450になる。
その時相手に〈ゴッド・ブレス〉がかかっていた場合、450を九割カットしてダメージは45に減る……とはならない。
――なぜなら〈ゴッド・ブレス〉は「魔法の『威力』を九割減衰させる」と書いてあるからだ。
数多の世界一ファクトリー製ゲームをプレイして、その説明文の癖をつかんだ僕なら分かる。
世界一ファクトリーがこの書き方をした時、減衰されるのはダメージ計算後の『ダメージ量』ではなく、ダメージ計算前の『魔法威力』。
正しくは、魔法の威力が最初に九割減衰されて500から50になり、ダメージは「威力50-防御50」と完全に相殺されてノーダメージ。
つまりこのバフがある限り、相手に450ダメージを与えられるような強力な魔法も、全く無意味になってしまうのだ。
(こんな法外な魔法、ヒロインキャラに持たせていいもんじゃないだろ!)
僕は内心そう毒づくけれど、余計なことを考えていられる状況じゃない。
こちらの攻撃が防がれたのなら、次は向こうのターン。
彼女たちの魔法が飛んでくる前に、僕は急いで指示を出す。
「防御陣形!」
その叫びの直後、チームメンバーが僕の背後に集まるように動き出す。
これがレミナを守る、僕らの秘策の一つ目だ。
試合前、不安を隠せないレミナに言った、ディークくんの言葉がよみがえる。
《心配すんなよ、レミナ。オレたちは帝室十字って陣形で戦う。オレが中心に立ち、防御力の高いレオハルトが先頭、両脇をトリシアーデとルークスが固める。お前はオレの後ろに立つ。お前のポジションが一番安全だ。安心して戦ってくれ》
……こうして思い出すとなぜだかフラグっぽい台詞に聞こえてしまうが、この帝室十字は帝国に伝わる由緒正しい陣形で、その効果については疑いようがない。
そしてさらに、
「――〈護国の盾〉!」
そのディークくんが大きな盾を構え、高らかにスキルの発動を宣言する。
――武闘派として知られるディークくんの、大胆な盾役へのコンバート。
これが、レミナを守る秘策、その二つ目だ。
ディークくんは剣が一番得意だけれど、ほかの武器も扱えないこともなく、何よりも〈護国の盾〉という味方を守る固有スキルを覚えていた。
このスキルは僕の覚えている〈かばう〉の上位互換のようなスキルで、「自らの防御力を高めつつ、周辺キャラを守る」という便利技だ。
これにより、大楯でレミナへの視界を切って直接攻撃を防ぐと同時に、万が一の時の備えも出来る、万全の布陣が完成する。
――この帝室十字と、盾役のディークくん。
この二つで、ガッチリと防御を固める!
……ように、相手には見えるだろう。
それをダメ押しするかのように、
「――〈ストーンウォール〉!」
リングの中央に魔法で壁を作って、さらに守りを固める姿勢を見せる。
〈ストーンウォール〉は地属性第七階位の魔法。
この魔法で生み出した壁は短時間で消える代わりに耐久力が高く、また、トーテムなどよりも大きくて広いため、射線が遮れるメリットがある。
だからこそ、
(行ってくる!)
(こっちは任せろ!)
ディークくんと目配せを交わして、僕は剣を片手に走り出した。
(あんな魔法を張られた以上、遠距離戦では勝ち目がない。だから、ディークくんたちが堪えている間に、僕が前に出てフィルレシア皇女を仕留める!)
これが、僕らの本当の作戦。
ディークくんの攻撃力は惜しいけれど、彼をレミナの守りに専念させることで、僕をフリーにするというのがこの布陣の肝だ。
結局のところ、総合力で劣る僕らが勝つにはどこまで行っても僕の攻撃力に頼るほかない。
だから、ディークくんたちが耐えている間に火力に優れた僕が単独で敵チームを突き崩して勝利する、というゴリ押し作戦が、僕らの出した最適解だった。
(まさか、あんな魔法を使われるとは思わなかったけど……)
それでも、やることは変わらない。
石の壁を目隠しに、一気に相手チームまでの距離を詰める。
気付かれずに壁までたどり着いたところで、壁を背にしてふうと息をつく。
問題はここからだ。
(まともな刀があれば〈絶影〉で一気に勝負をかけるんだけど、折れた刀じゃ、ね)
〈絶影〉による奇襲は魅力的だけれど、何でも当てれば勝ちだった以前の武闘大会と違い、この交流戦のルールでは攻撃力1の〈折れた刀〉で戦うのは流石に厳しい。
なので今回は刀による戦闘はすっぱりあきらめ、素直に強めの剣を持って、敵陣に殴り込みをかける。
(出来れば、敵チームが魔法を撃った直後に突入を……ん?)
その、瞬間だった。
「――刀技の九〈火走り〉」
背後を走る悪寒に従い、飛び退る。
半ば転がりながら振り向いた先に、見えたもの。
「なっ!?」
それは、頑強なはずの壁がまるでバターのようにあっさりと切り裂かれ、ズレ落ちていく光景と、
「――あはっ! アルマくん、見ぃつけた♪」
真っ赤に燃え盛る剣をだらりと下げ、昏い目で笑うセイリアの姿だった。
セイリア選手のエントリーだ!
毎日更新じゃないと許されなさそうな引きなのでたぶん明日更新です!





