表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/252

第百五十六話 切り札


「……これはもう、千客万来、なんてレベルじゃないな」


 僕は目の前に集まった高レベル魔物の見本市のような光景に、苦笑いを浮かべる。



  LV 95  ブラッディサイクロプス

  LV 86  シャドウストーカー

  LV 80  スプリームゴースト

  LV 92  ネクロウィザード

  LV 95  イクスデュラハン

  LV 82  トワイライトナイト

  LV 91  ブラックネフィリム

  LV 93  ダークネスシューター

  LV 88  エビルケルベロス



 いっそ壮観とも言えるような、凶悪な魔物のパレード。

 一体一体がちょっとしたイベントのボスを務められそうな見た目をしているし、レベルを見る限り、それはあながち間違ってもいないだろう。


(世界一ファクトリーくんさぁ……)


 いくら周回主人公が戦うことを想定しているとしても、流石に限度ってものがあるんじゃないだろうか。

 このイベントをデザインした人を小一時間問い詰めたいところだけど、もちろんそんな暇はない。


 魔物たちは今はこちらを警戒したように一定の距離を保っているけれど、あの魔物たちが一気にこちらに押し寄せてくれば、ただでさえレベルの低いレミナなんてひとたまりもないだろう。


「わ、わたしも魔法で……」

「いい。それより、僕の後ろから絶対に出ないように」


 それでもレミナは果敢に助力を申し出てくれるけれど、まだレベル55のレミナでは出来ることにも限りがある。

 戦力として当てにするよりは、不確定要素をなくした方がいい。


 じりじりと近付いてくる魔物たちを視線で牽制しながら、僕はこれからの戦闘の方針を考える。


(……決めるべきなのは、何を見せて何を見せないのか)


 まず、本当に僕やレミナの身に危険が迫った時は、出し惜しみはしない。

 それは大前提。



 ――その上で、努力目標として「バレてもいいライン」と「出来ればバレたくないライン」を考える。



 レミナは確かにモブキャラだけれど、セイリアやファーリ、トリシャといったメインキャラと近しい場所にいるキャラだ。

 僕が原作ではありえない能力を持っていると知られれば、それが回りまわって原作を破壊する可能性は否定出来ない。


 まず一つ言えるのは、僕の強さを「初見攻略時の主人公」とするのは無理があるということ。


 だってどんなに上手くやっても、一周目初見攻略時のステでこの深層鬼畜モンスターラッシュを捌ける訳ないからね!

 ほんと世界一いい加減にしろ!


 だから僕が狙うのは、「周回プレイしてゲーム開始時から強い主人公」のライン。

 周回主人公を原作がどう処理しているのかは知らないけれど、原作ゲームでも存在するのなら、「主人公のレベルが最初から高い」ことが原因で原作のイベントから外れることはないはずだ。


 となれば、「ゲーム内でレベルを上げたら出来ること」はほとんど見せてもいいけれど、「ゲームでのアルマがどんなに鍛えてもやれないこと」は極力隠す方針で行くべき。


 具体的に言うなら、例えば純粋に強力な魔法や武技を見せるのは別に問題ない。

 でも本来十段階がマックスのはずの魔法を百段階目で使ったり、おそらくストーリーが進んでも光の魔法しかまともに使えないだろう僕がいきなり正反対の闇の魔法を使ったり、というのはたぶんやるべきじゃない。


 ……なんだかすでにやらかしてる気もするけれど、〈シャドウトーテム〉については必要経費だと思って一旦忘れよう。


 僕が心の中で方針を固めたのと時を同じくして、向こうの準備も整ったようだ。


「――来る!」


 そこで焦れたように集団から飛び出したのは、三つの顔を持つ獣〈エビルケルベロス〉。

 こちらの肝が冷えるような速度でボロボロになった道を進み、その牙で僕らを噛み殺そうと地を駆けてくる。



「――〈ウィンドバースト〉!!」



 反射的に、先ほどまで使っていた魔法で迎撃するけれど、それは悪手だった。


(敵が、バラける!)


 前回ウィザードたちを完封出来たのは、敵が少数で、確実に〈ウィンドバースト〉を当て続けることが出来たからだ。

 これだけの数の敵がこうも広がっていては、とてもじゃないけれど〈ウィンドバースト〉では捌き切れない。


 いや、それどころか〈ウィンドバースト〉によって敵が四方八方に散ってしまい、対処が難しくなってすらいる。

 僕は小さく舌打ちをして、雪崩を打つようにこちらに走り出した魔物の群れに手を向ける。


(もう風縛りなんてしてる場合じゃないか!)


 僕が風魔法にこだわったのは、それが一番場への影響が少ないからだ。

 火魔法では森が延焼する可能性があるし、水魔法や土魔法だと、魔法で放った水や土が終わったあともその場に残る。


 けれど、状況がここまで悪化してしまったなら、今さらだ。



「――〈スプラッシュ・ウェイブ〉!!」



 放ったのは、水属性の第七階位魔法〈スプラッシュ・ウェイブ〉。


 バースト系魔法などと比べても威力は低いが、その代わりこの魔法には強いノックバック効果がある。

 地上に生まれた巨大な水の波が、集団から抜け出した獣たちを押し返す。


「まだだっ!」


 もちろん、そんなものは一時の時間稼ぎ。

 勢いが強いとはいえ、所詮は水の波だ。


 直撃したケルベロスたちはともかく、ほかの魔物に対してはほとんどダメージを与えられていないし、ケルベロスたちにしても押し返されただけ。

 数秒もしない間に立ち直って向かってくるだろう。


 ――だからここで、次の手を打つ。


 集まった魔力の激しさを示すがごとく、僕の身体から真っ赤なオーラが噴き上がる。

 身に纏った赤光をそのまま敵に叩きつけるように、僕はその魔法を発動させた。




「――第十三階位、〈ダイヤモンドダスト〉!!」




 言葉と、同時。

 全てを凍らせる絶対零度の地獄が、そこに顕現する。


(よし、上手くいった!)


 さっきの〈スプラッシュ・ウェイブ〉は、単なる足止め魔法じゃない。

 水の波で敵を「濡らす」ことによって、次の氷の魔法の拘束力を高める布石だった。


 事実、その目論見は上手く嵌まり、一体だけで普通の冒険者パーティを一蹴出来るほどの魔物たちが、凍結によって残らず動きを止めていた。


「まだだ!」


 そしてもちろん、この程度では止まらない。


「〈スプラッシュ・ウェイブ〉! 〈ダイヤモンドダスト〉! もういっちょおまけに、〈スプラッシュ・ウェイブ〉! 〈ダイヤモンドダスト〉!!」


 凍りつき、動きの止まった魔物の集団に、追加の水と氷の魔法をお見舞いしてやる。

 この四連魔法によって、視界内の全ての敵は氷の彫像と化した。



 ――水の魔法と、氷の魔法によるコンボ。



 これは、おそらく元のゲームにはなかったコンボ技だ。


 分類上は水の魔法も氷の魔法も同じ水魔法だし、ゲームには「水に濡れている」なんて状態異常はなかった。

 しかし、ゲームが現実となって魔法で生み出した水が残るようになって、そこにシナジーが生まれた。


 特に、〈ダイヤモンドダスト〉は前に教官に騙されて使った〈ライトニング・ストーム〉と同格の第十三階位魔法。

 その威力は、たとえ高レベルの魔物であっても無視は出来ないはず。


 これで一息つけそうだ、と文字通りに僕は息を吐いて、



「――あぶないっ!」



 しかし、深層の魔物はそんな生やさしい相手じゃないと、思い知らされる。


「なっ! ほかの魔物を、盾に!?」


 凍りついた巨大な魔物の背後から、次々に魔物が姿を現す。


 このコンボの主眼は、放った水を凍らせることで拘束力を強めるもの。

 つまり、最初の水魔法をやり過ごされてしまえば、それは単なる単発の氷魔法と変わりがない。


 それでもその身体は半分氷に覆われているものの、奴らの本分は遠距離攻撃。

 動きの鈍った身体に構わず、殺意のこもった仕種で僕らに武器を差し向ける。


(――ま、ずっ!)


 突き出された杖から、あるいは手のひらから吐き出される黒い魔力。

 その大半はただの闇魔法で、トーテムによる軽減によって無効化されたけれど、


「――ッ!?」


 その魔法の陰に、矢や槍などの遠距離武器が隠されていた。


「頭使ってくれるよ、まったく!」


 物理攻撃は、当然トーテムの効果では防げない。

 それに、後ろにいるレミナのことを考えれば、回避する訳にもいかない。


「つぅっ!」

「レオハルト様!」


 ほとんどは捌いたものの、いくつかの矢が僕の身体をかすめ、そのHPを減らしていく。


「っく! 〈ガルーダフラップ〉!!」


 九階位の風魔法で、瞬間的に矢を散らす。

 けれど、これが根本的な解決にならないことは、明らかだった。


 術者から飛ぶタイプの攻撃魔法では、先ほどのように巨体の魔物に隠れられ、一番倒したい遠距離型の魔物は難を逃れる可能性が高い。


 必要なのは、この場の魔物を同時に、かつ徹底的に破壊するような、大火力技。


(ここが〈絶禍の太刀〉の切り時か? ……いや)


 武技には五分のクールタイムがある上に、〈絶禍の太刀〉の消費MPは驚きの255。

 僕の最大MPの三倍近い値であり、通常の武技どころか、そんじょそこらの魔法よりも遥かに魔力消費が大きい。


 大会などでも、使う時に不自然に魔力切れになって(赤い光を出して)いたのを見せてしまっているし、ここでレミナ相手に見せるのはリスキーだ。



 ――それよりも、この状況を打開するのにぴったりの魔法が、僕にはあったはず。



 僕はそっと右手を腰の辺りまで引き、そこに左手を添える。

 それはまるで、両手の間に、目に見えない何かを溜めるような構え。


「レオハルト、さま……?」


 今まで一度も「構え」や「タメ」の姿を見せなかった僕のその姿に、レミナは敏感に反応する。

 不安そうな声を出すレミナに軽く微笑みを返して、僕は強い意志と共に、正面に向き直る。


(出来れば、こっちも使いたくはなかったけど……)


 今まで見せた様子見の技や、小手先のコンボとは違う。

 大量にレベルが上がってからは初めて見せる、僕の本気の魔法。


 まるで優位にあるような態度でこちらを囲み、にやついた笑みを浮かべる魔物たちに、僕は右手を向けた。


(特別に見せてやるよ。正真正銘、僕の切り札を!)


 突き出した腕を沿うように魔力が走り、淡く輝く赤光が肌を撫でる。

 手のひらに集まった魔力を言葉と共に吐き出すように、僕は声高に叫んだ。




「火属性、第十五階位魔法……〈ファルゾーラ〉!!」




 瞬間、魔物の群れの中心に小さな太陽が生まれ、僕らの視界は白に染まった。

解禁!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かっこいいアルマくんの表紙が目印!
書籍二巻、11月29日より発売中!
二巻
ついでににじゅゆも


― 新着の感想 ―
[一言] おもしろい! 更新楽しみに待ってます。 応援してます!
[気になる点] 外野からもバッチリ見えてるんじゃ...
[良い点] 薙ぎ払え! [気になる点] HPが足りるのかな [一言] ファイヤだよね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ