第百三十六話 逆転の妙手
僕が放った想定外に高威力な〈ロックスマッシュ〉によって、大きなクレーターが出来た訓練場。
その場の全ての人間が目を丸くする中、僕は脂汗を流していた。
(――や、やらかしたぁああ!!)
僕の魔法が急成長した理由は一つ。
急激なレベルアップによる、魔力値の増大だ。
前にこの訓練場で魔法を使ったのは、僕のレベルがまだ25の時。
そこからティータの補正込みでレベルを75まで上げた結果、僕の魔力は前の数倍にまで跳ね上がっている。
(とはいえまさか、こんなにも変わるなんて……)
言い訳になるけど、レベルが上がったことによって魔法の威力が上がることを全く考えていなかった訳じゃない。
ただ、レベル25の時から僕の魔法はほかの生徒たちよりも比較的大きかった。
だから、魔法における魔力の影響はあまり大したことはなく、それよりも熟練度の影響が大きいんだと思っていたんだけど……。
(自分が思ってたより、僕が熟練度を上げすぎてたのか!)
どうやら、魔力による大幅なマイナスを帳消しにしてあまりあるくらい僕の熟練度が高かったせいで、結果的に魔力の影響が少ないように見えた、というのが真相らしい。
(……でもまあ、それもそうか)
僕はもう、本来ならゲーム後半にならないと使えないであろう第十五階位魔法を覚えている。
いや、さらにその魔法を覚えてからも熟練度上げをしているのだから、まだ第三、四階位程度しか使えないクラスメイトたちとは、大きな差があって当然だ。
(――なんて、冷静に分析してる場合じゃない!)
とにかく何かごまかさないと、また変な噂が立ってしまう。
せっかく今のところは原作からは大きく外れてはいなさそうなのに、あまりイレギュラーな要素は増やしたくない。
「――だ、大丈夫ですか!?」
僕はひとまず、魔法で出来たクレーターを前に呆然と座り込む教官たちの方へ駆け寄った。
「お、おい! 今のってロック……いや、でも、えぇぇ?」
座り込んだまま、クレーターの方を指さして混乱する教官。
どうやらあの傍若無人な教官をもってしても、あの魔法の威力は想定外だったらしい。
(ディークくんから逃げるのに、焦りすぎたな)
頭の中に後悔の念が湧き上がるけれど、悠長に反省ばかりしてはいられない。
こういう場合は、勢いでもなんでも、場を掌握することが大事だ。
「――驚かしちゃって、ごめん!」
だから僕は、先手を取るように、呆然と立ち尽くすクラスメイトに頭を下げた。
「え? あ、う、うん」
案の定、場に流されたクラスメイトの女の子は、よく分からないままでうなずいてくれた。
……ちなみに、教官じゃなくてこっちに声をかけたのは、演技とはいえ教官に謝るのはなんか癪だったからだ。
そうして稼いだわずかな猶予で、僕は考える。
(僕が隠すべきなのは、短時間で大量にレベルアップしたこと。だったら……)
すぐに方針を定めた僕は、これみよがしに右手の甲を前に出すと、こう言い訳した。
「これじゃ、参考にならないよね。ちょっと指輪を付け替え忘れて、想定以上の威力になっちゃったみたいなんだ」
「ゆび、わ……?」
僕が考えたのは、さっきの魔法の威力を装備の効果としてごまかす算段。
このゲームには、MPを節約する指輪のほかに、魔力を向上させる指輪もある。
そんな指輪をつけていたとなれば、レベルが低くても高威力の魔法を出せた理由付けになるはず。
「ちょっと待ってね」
そして、僕は教官たちが見ている前で指輪を付け替える。
とはいえ、もちろん僕は魔力強化の指輪なんて嵌めてないから、ここで指輪を外したところで魔法の威力は同じ。
――だからこそ、ここで僕は一計を案じる。
今までつけていた指輪を外し、当たり前の顔をして新しい指輪を嵌める。
僕が取りだした指輪にかかったエンチャントは、これだ。
《武術専心(エピック):装備者の魔力が50%減少する代わりに、腕力が30%上昇する(重複不可)》
僕が手に入れられた中でも高級な指輪にしかつかない、あからさまに貴重なエンチャント。
物理専門のキャラならほぼノーリスクで攻撃力を三割増し出来るという、おそらく物理系キャラのテンプレになるであろう大当たり効果だけれど、今回の目的はそこじゃない。
僕のお目当ては、前半のデメリット部分。
(これで魔力を下げれば、さっきまでは装備で魔力を底上げしていたように見えるはず!!)
魔力が高すぎるのなら、下げてやればいい。
装備のエンチャントが他人に見えないことを逆手に取った、僕にしか出来ないトリックだ。
(まあ、これの上位エンチャントなら、魔力を0にも出来るけど……)
流石に前よりも威力が弱くなってしまっては不自然だし、それで疑われては本末転倒だ。
半分でもかなりレベルアップの影響は残ってしまうけれど、少しずつ強くなった演出をするなら、この辺りが落としどころだろう。
「じゃあ、もう一度やってみるね」
こういうのは、相手に考える隙を与えたらまずい。
一方的に宣言すると、僕は魔法の的へと振り返った。
とは言っても、残念ながらさっきの〈ロックスマッシュ〉で近くにある的は全て壊れてしまっているけれども、魔法の威力をざっと見せる程度なら、的は必ずしも必要じゃない。
僕はさっきまで的があった地面を見据えると、静かに魔法名を口にした。
「――〈ロックスマッシュ〉」
厳かな声の下、空に現れたのは、直径一メートル半程度の大きさの岩塊。
先ほどのものよりは迫力に欠ける岩が、それでも無視出来ない威圧感をもって落下し、すでに消し飛んだ的の跡地に直撃する。
――轟音と、砂煙。
視界が晴れた時、新たに出来たクレーターが、さっきの魔法で出来たものよりもずいぶん小さくなったことに満足して、僕はうなずいた。
「――これなら、少しは参考になるかな?」
そう言いながら笑顔で振り向くと、僕に〈ロックスマッシュ〉を見せてほしいと頼んだクラスメイトは、なぜか虚ろな笑みを浮かべたのだった。
(ヨシ、上手くごまかせたな!)
パーフェクトコミュニケーション!!
……だったのかは、次回はトリシャ回で明らかに!
お楽しみに!





