第百三十一話 魔法適性検査
「――ま、待って待って! これで魔法の適性が調べられるって、どういうこと!? この魔法って、トーテムを出して同じ属性の攻撃を防ぐもののはずだよね!?」
突然叫び出したトリシャに驚きながらも、僕はなだめるように説明をする。
「えっと、別にそう難しい話じゃなくてさ」
魔法を使い続けて熟練度が上がると、大抵の魔法は少しずつ魔法の威力が上がったり、魔法が大きくなったりはする。
ただ通常の魔法だと、その威力や規模は術者の魔力や魔法詠唱の技能、属性補助系の装備やバフなどで変化するため、魔法が大きくなってもそれが熟練度のおかげなのかほかの要因なのか、特定するのは難しい。
しかし、そこで出てくるのがこの〈エレメンタルトーテム〉という魔法。
「さっきも言った通り、この魔法は本人の魔力なんかじゃ効果は変わらないけど、熟練度が一定まで上がると見た目が変わるんだ。で、この魔法ごとの熟練度の伸びは、その属性の魔法の適性が高ければ高いほど大きくなるんだ。だから……」
そこで、ようやく横で話を聞いていたセイリアも頭が追い付いてきたらしい。
「あ、そっか! 火属性が得意なら火属性トーテムはすぐ大きくなるし、逆に苦手なら何度もやらないと大きさが変わらない。その回数を数えたら……」
「うん! そこから魔法の適性が分かるんだよ!」
僕は力強くうなずく。
不遇魔法を救うために頑張って考えた利用法なので、ちょっとだけ嬉しい。
ただ……。
「わ、分かるんだよ、じゃないよぉ!」
その代償のように、横にいたトリシャがまた叫び出す。
「せ、せっかく、今回のは大したものじゃないって安心してたのに……」
へなへなと、その場にしゃがみこんでしまうトリシャ。
「と、というか、魔法の適性にはっきりとしたランクがあるなんてのも初耳だよ! も、もう完全にわたしのキャパオーバーっていうか、こんなの……」
そう言いながら、「大変なことを聞いてしまった」と言わんばかりに頭を抱えてしまった。
「ト、トリシャ……」
トリシャと親しいレミナのみならず、セイリアまで心配そうにトリシャを見つめるけれど、大丈夫。
僕も不遇魔法を救うため、こんなところで引き下がるつもりはないし、トリシャを説得する材料はすでにそろっているのだ。
「急に色々話してごめん。トリシャ。でも、さ」
「な、なに!? これ以上変なこと……」
なぜだか僕を警戒するトリシャに笑顔で近寄って、そっと耳打ちする。
「――自分の適性、ちゃんと知りたくない?」
その途端に、トリシャの動きが止まる。
「そ、れは……」
僕は知っている。
トリシャは自分の魔法の才能にコンプレックスがあるみたいだけど、実は人一倍魔法への興味も好奇心も強い。
あの地味な無限魔法の訓練を文句を言いながらもずっと続けているのがその証拠だ。
そんな彼女が、こんな誘惑を跳ね除けられるはずがない。
「で、でも……」
いまだに何やら思い詰めている様子の彼女を楽にしてあげるため、僕はそこに逃げ道を用意してあげることにした。
「大げさに考えてるみたいだけど、このくらいなら大丈夫だよ。ほら、どの魔法が得意かなんてやってるうちに大体分かるもんだし、適性が分かったところで魔法適性が変わる訳じゃないしさ」
「そう……かな? そう、かも?」
あと一押しという気配を感じ取った僕は、さらに言葉を続ける。
「それに、これは僕のためでもあるんだ」
「レオっちの、ため……」
トーテムがレベルアップする回数については自分で測ってみたけれど、いかんせん僕の素質はSとEの両極端。
途中の値は一応類推は出来るとはいえ、圧倒的にデータが足りない。
「足りないデータを集めるために、出来るだけ多くの人に検査をしてもらった方が僕も助かるんだ」
それに、〈精霊の儀〉を済ませて精霊と契約をすると、契約前と比べて経験値と熟練度の獲得量が倍増する。
これは学園入学後に主人公たちが急成長することへのゲーム的な理由付けだと思うが、そのせいで学園入学前に調べた数値をそっくりそのまま使う、という訳にもいかないのだ。
「だから、僕を助けると思って、ね?」
ダメ押しに、ささやくように促す。
すると、彼女はしばらくの沈黙のあと……。
「……うん」
と小さくうなずいて、
――堕ちたな、ヨシ!!
周りから「何やってんだコイツ」という視線を受けながらも、僕は小さくガッツポーズをしたのだった。
※ ※ ※
「――はい。出来たよ」
【魔法適性 トリシアーデ】
火:B
水:―
土:D
風:C
念のため、それぞれのトーテムが三段階目に成長するまで魔法を使ってもらい、回数から適性を算出した。
本当は光と闇のトーテムも呼び出せるんだけど、光と闇の呪文も知っているとなると、僕がその二つの属性の魔法も使えることがバレてしまう。
なので、今回やるのは基本の四属性だけだ。
「……ふ、ふぅぅん。これがわたしの適性、かぁ。まーったく、平凡だなぁ。やーんなっちゃうなぁ」
結果をまとめた紙を渡すと、トリシャはまんざらでもなさそうな顔で自分の適性が書かれた紙を眺めてニヤニヤとしている。
喜んでもらえたようで何よりだ。
(……おかげで、ほとんどデータは確定したかな)
足りなかったCとDのサンプルが取れたから、FからSまで値は算出出来た。
あとはこれが間違っていないか、検証するだけ。
(――うん! 不遇魔法の夜明けも近い!)
なんだかもうそういう問題でもない気はするけれど、初志貫徹は重要だ。
トーテムくんの地位を盤石にするため、僕は次なる獲物に目を付けた。
「じゃ、次はレミナにお願いしようかな」
レミナは魔法が得意らしいし、純粋に結果も楽しみだ。
そう思ってレミナに水を向けると、
「あ、待って! レミナは……」
そこでレミナを庇うようにして、トリシャが立ちふさがった。
ただ、
「――大丈夫だよ、トリシャ」
彼女の行動は、背後に庇われているはずのレミナ本人によって、止められる。
「……レミナ?」
普段自己主張のしないレミナの訴えに、トリシャが目を丸くして振り向く。
「庇ってくれるのは、嬉しい。でも、一緒のチームになるならいずれ知ってもらわなきゃいけないこと、だから……」
レミナは、いつもの自信のなさそうな態度を今だけは捨てて、優しく微笑んでいた。
そのレミナの言葉に何を思ったのか。
トリシャは「ふぅぅ」と大きく息を吐くと、一転して不敵な表情を浮かべて、宣言した。
「もう、ほんとはもうちょっと隠しておきたかったんだけど、しょーがないな! 驚く準備をしといた方がいいよ! レミナはきっと、レオっちに匹敵するくらいの魔法の才能があるから!」
「……それは、ないと思うけど」
何しろ、僕は光以外全E適性の男。
僕と同じだったとしたら、才能があるどころか底辺だ。
「ふーん、言うねぇレオっち! レミナ、やっておしまいなさい!」
一周回っておかしなテンションになっているトリシャに押し出されるように、レミナが前に出てくる。
確かに、レミナは有望株ではあるけど……。
(……そうは言っても、原作のメインキャラじゃなさそうだからなぁ)
モノクルで調べた限り、レミナに図鑑マークの記載はない。
つまり、ゲームで言うところの「モブキャラ」だ。
流石にそこまで際立った結果は出ないだろうと思いながら、トーテム魔法を使ってもらって……。
(え? いや、え……?)
検査が進むにつれて、そんな余裕は吹き飛んだ。
いや、だって、さ。
火:A
水:A
土:A
風:A
……この子、めちゃくちゃすごくない?
思わぬ伏兵!!





