第百話 絶影
ついに第百話に到達!!
一応節目なのにまた毎日更新途切れそうになったのは内緒です!
リューシュカ先輩との試合を終え、僕は思わぬ手応えにガッツポーズをしていた。
(行けるんじゃないか、とは思ってたけど、この大会と〈絶影〉、想像以上に相性がいいかもしれないぞ)
先ほどリューシュカ先輩に対して放った技は、刀の十個目に当たる武技〈絶影〉。
これはまさに影すら追いつかせない超高速抜刀術で、とにかく発動が早い。
よくある漫画やアニメの侍キャラの戦闘シーンで、「刀を構えた状態で『シャキン!』という音が鳴ったと思ったら、次のコマでは侍はすでに敵の背後にいて敵を斬ったあと」というオサレ対決シーンを見ることがあると思うが、この技はそれを再現したものになっている。
もう少しきちんと解析すると、具体的なモーションは、
1.刀をほんの少しだけ抜く
2.数メートル先に瞬間移動
3.移動した間にいた相手にダメージ
の三つの工程から出来ていて、それぞれの段階がほぼ一瞬で終わるため、ダメージ発生までが異様に早いのだ。
(この世界がターン制のままだったら別になんてことない技だったんだろうけど……)
当然これは、刀の技を作るならまず思いつくようなエフェクトではあるし、従来のターン戦闘だったら大した特徴もない技として終わっていたはずだ。
だって、技の演出が一秒で終わろうが百秒かかろうが、ゲーム上の時間では同じ一ターンだからだ。
ただ、この技が現実化した世界、それも一発当たったら即敗北のルールと組み合わさると……。
――戦略も戦術もぶっ飛ばす最強技、問答無用の必勝法になってしまうのだ!
少なくとも、発動前に無防備になる〈スティンガー〉や〈血風陣〉とは発動までの速さが段違い。
多少敏捷に差があったくらいでは、この発動までの速度差は埋められない。
〈スティンガー〉や〈血風陣〉がまだ構えのうちに〈絶影〉が発動出来てしまうし、発動から着弾までの間すらも〈スティンガー〉や〈血風陣〉よりも短い。
少なくとも、〈スティンガー〉や〈血風陣〉を避けられないようなら〈絶影〉を避けることも不可能ということになる。
(……ま、それに見合うだけの苦労はしてきたんだけどね)
考えれば考えるほど有用に思えるこの技だけれど、なぜこの技が大会で全く無名だったのかというと、その理由も想像がつく。
まず、「刀」が非常に入手の難しい武器だということ。
僕はステータスの素質カテゴリを覗いて武器種は全て把握していたから、「刀」カテゴリの装備だって存在は把握していたし、一度使ってみたいと思って色々と手を尽くして探した。
ただ、どんな高級店にも刀は売っていなかったし、ダンジョンなどから刀を手に入れたという話もほとんど聞かなかった。
それでも貴族である父の伝手も使ってもらって、唯一手に入れられたのが、攻撃力一で取り回しも絶望的なこの〈折れた刀〉なのだ。
おそらく刀という装備自体が、ゲーム後半の敵からのレアドロップしか存在しないような高級装備なんじゃないかと僕はにらんでいる。
普通であればゲーム序盤に手に入れることなんて出来ないし、手に入れても装備条件で使いこなせない、という訳だ。
そうなると学生レベルで「刀」を使うには、この〈折れた刀〉を使う以外にないのだけれど……。
(〈折れた刀〉で熟練度上げするの、地獄みたいな苦行なんだよね!)
まず、折れてるから敵に当たらない。
当たっても攻撃力が一しかないからダメージ判定にならない。
当然属性武器でもないからボム次郎で熟練度上げも出来ないし、直接攻撃系の武技は刀が折れてるせいでこっちも当てられない。
ほとんど八方ふさがりだ。
……じゃあ、僕はどうやって刀の熟練度を上げたか?
そんなの決まってる。
絶対に当たらないのを前提として、刀の武技の空撃ちをし続けたのだ!
通常攻撃は素振りでは一切熟練度は上がらないけれど、武技なら空撃ちでも一応熟練度は入る。
ただ、敵に当たらなければ雀の涙ほどで、しかもMPは普通に消費するし、一回使うと五分のクールタイムが入ってめちゃくちゃ効率が悪いし……と悪いとこだらけ。
さらにさらに、苦労して武技を覚えても、刀は低位の間に覚えられる技のほとんどが剣と同じ。
〈スラッシュ〉が〈袈裟斬り〉に、〈パリィ〉が〈燕返し〉になっているなどの微妙な違いはあるが、基本的に技の性能はほどんど変わらない。
はっきり言って上げる苦労に見合った武器ではないし、生涯をかけて一つの武器に習熟していくのが当たり前、という世界では、好き好んでほかの武器から刀に乗り換える人なんてそうそういないだろう。
ただし……。
長い苦行を乗り越えて熟練度を上げ続け、刀のレベルを十付近にまで上げることが出来れば、また状況は変わってくる。
そこからは剣とは違うユニークな効果を持つ技がどんどんと出てくるし、斬撃を飛ばす〈血風陣〉や、炎をまとわせる〈火走り〉、それからどう攻撃しているのか不明瞭な〈絶影〉のような「刀で直接攻撃していない」技については、〈折れた刀〉でもほかと同じと思われる範囲が適用される。
「武器の攻撃力が一」という点にさえ目をつぶれるなら、〈折れた刀〉であっても十分に刀による高速で多彩な武技を堪能出来るようになるのだ。
――そして僕は今、大会という晴れの舞台で、この「刀」という武器の知られざる強さを身をもって証明しようとしていた。
※ ※ ※
二回戦の対戦相手は、態度も声も大きい男子生徒だった。
「いやぁ! まったく、参ったぜぇ! ここにゃあリューシュカの奴が来ると思ってたから、それ以外の有象無象のことなんか、一切調べてなかったんだよなぁ!」
三年Bクラスに所属しているというその先輩は、自身と比べると一回りも二回りも小柄な僕を見て、ハン、と鼻を鳴らした。
割と失礼な態度だと思うけれど、まあこっちも遠目にその男子生徒を見たティータが「うげ、暑苦しっ!」と言って顔をしかめていたから、ある意味おあいこだろうか。
「ハッ! かつては〈ドラゴンガール〉とまで呼ばれた女が、腑抜けたもんだぜ! こぉんなガキに不意打ちくらって一回戦負けなんてなぁ!!」
言いながら、格下をなぶるような笑みでニヤニヤと笑うと、手にした斧を威圧するようにブンブンとわざとらしく振るう。
「わりぃけどよぉ! オレはリューシュカと違って、テメエみたいなガキが相手だからって手心加えたりなんかしないぜぇ? 開幕の一発で終わり、だ。最速で決着をつけてやるよ!」
男子はそう凄んでくるけれど、正直図体が大きいだけでリューシュカ先輩の肌がひりつくような圧にはまるで及んでいない。
けれど、まあ……。
そんな彼にも、予言者の才能はあったんだろうか。
試合展開については、彼の宣言通り、
「くらえ! 〈ダブ――」
「〈絶影〉」
その日の試合の中でも、最速で決着がついたのだった。
快進撃!!





