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妖精姫の結婚相手

やっぱり無理でした。

本編これで最後です。

「さあさあ、移動しようかね? ジェットが待ちくたびれているからね」


 そんなラリマーの言葉とともに、ユークレースとカーネリアンは侯爵が待つという同じ敷地内の別邸へと案内された。


 その道行で、ラリマーが狸おやじ腹のいい人であることと、ジルコン少年が腹黒であることがよくわかったが、そこは割愛する。


 そして、ちっともわからなかった状況が、ラリマーの口よりあっさり開示された。


 まずは侯爵のこと。


 ジェットというのはラリマーの甥で、現侯爵。


 ただし、まだ年齢はカーネリアンと同じ十歳だということ。


 血統主義のこの国では、後継は基本長兄男子。


 早々両親を亡くしたジェット少年は叔父のラリマーを後見としてその爵位を継いだ。


 実際に侯爵業務も滞りなくこなせているらしい。


 そこに、執事のジルコンも精力的に協力してるとのこと。


 ジルコンはジェット侯爵の父の従兄弟の息子で、その能力の高さから侯爵の将来の右腕として期待され、侯爵と同等の教育を授けられてきたとのことだった。


 ラリマーはぽりぽりと頭をかきながら、「僕は仕事はてんで駄目でねえ」と笑った。


 ああ、それはよくわかる。


 仕事の出来る出来ないは年齢や人柄には比例しない。


 旦那様を見ていればよくわかる。


 なので現在は実務はジェットとジルコン、対外的なこと(実権のない外交とか社交)はラリマーや最初に勘違いした執事のようだった使用人が引き受けているとのこと。


 で、今回の本題。


 カーネリアンと同じ年の侯爵に、花嫁なんか必要ないじゃないか、の点。


 だってまだ結婚できないし。


 法的に認められるまでまだ五年はかかる。


 本来急ぐ必要はまったくなし。


 必要ないからこそ、お嬢様ことユークレースが選ばれたのだとのこと。


 理由を聞いて納得した。


 そう、まだ結婚は早い、しかし数年後には超優良物件となる侯爵様の未来の花嫁の座を狙い、争奪戦が勃発しているとのこと。


 自身の娘を、もしくは自身をと売り込みに入る者達。


 過多な贈り物・茶会や夜会の招待状。


 迷惑な訪問・つきまとい。


 これが結婚適齢期まで、もしくは相手を定めるまで続く。


 そんな状況に、ブチ切れたのは侯爵当人。


 さっさとお相手を決めてやる、と意気込んだはいいが、相手の選択は重要だ。


 まず、身分が高すぎても低すぎてもいけない。


 相手の親が、ヘリオドール家を利用してくるのも駄目だ。


 結婚相手の年齢も上過ぎても下過ぎても不可。


 資質も、そんな相手よりうちの方が、と押してこられては意味がない。


 そんな状況で、『妖精姫』こと『ユークレース・フローライト』ほど条件に合致した者はいなかった。


 まずはその妖精姫とまで称されるほどの美貌。


 容姿については文句のつけようがない。


 これを理由に、こちらの方がと言えるものはいるまい。いたとして、こんな厚顔無恥な相手は鼻で笑い飛ばせばいい。


 そして、他に目がいかない理由としても、美貌のお相手がいるというのはもっともな断り文句となる。


 また、フローライト家の窮状も恩を売りつける良い理由だった。


 フローライト伯爵も、上に立つ者の手腕としてはアレだが、人柄は温和で野心の欠片もないところが条件にぴったりだ。


 フローライト嬢本人も、人見知り(実際は人見知りどころではないが)で屋敷に大人しく籠もっている物静かな令嬢とのこと。少し年齢が上なのを差し引いても文句のつけようがない。


 必要なのは、『ヘリオドール侯爵の最愛の相手として、屋敷の奥にひっそりと過ごしてもらう、ある程度の身分で、親族の干渉のない、誰もが納得する相手で、なおかつ侯爵の生活の支障とならない名ばかりの婚約者の令嬢』なのだ。



「それは、なんて言うか、もう……、うちのお嬢様にドンピシャというかなんというか」


「そうでしょう? 僕も調査の結果ユークレース嬢のことを知った時はあまりの当てはまりぶりに思わず大笑いしましたよ」


 腹黒執事がそう言った。


 何故に大笑い。やはりこいつは性格悪い。


「それにしても遠いですね、別邸」


 今までの説明聞き終わってもまだつかない。


「そうですね。でももうすぐですよ。基本お二人にはそこで過ごしてもらうことになります。生活に必要なものはこちらで用意しますし、必要なものがあれば言ってもらえれば手配しますよ。この屋敷から出ないのであれば、自由にされてかまいません」

  

 ああ、引きこもり推奨環境か。


 カーネリアンはちらりとユークレースを見やった。


 ユークレースは先ほどから一言も声を発しはしないが、その瞳は話を聞き進める度に、キラッキラ輝きを増している。


 直視するもの眩しいくらいの輝きっぷりである。


 そりゃそうだ。


 婚約者として名前を借りる対価として、家と必要なものは与えるから外に出ないで大人しく好きなことしてていいだなんて、こんなお嬢様にとってベストな環境は他にはない。


 もし将来的に侯爵に好きな相手が出来て離縁されるにしても、この様子なら生涯生活に困らないような保障はしてくれそうだ。


 カーネリアンは溜め息をついた。


 そこには安堵とどこか疲れたような色があった。


「はい、着きましたよ。ここです」


 案内されてきたのは、壁の色が白く塗られた、可愛らしい外装の、小さな(貴族の家としてはの話)家だった。


 それは、少女趣味のユークレースの好み、ドストライク、だった。


「服や靴、生活雑貨など必要なものはそろえているはずなので後で確認下さい。では、中に入りましょう」


 そう言って、ジルコンは扉を開けた。


 そこには、一人の少年が立っていた。


 少年は扉が開くなり、開口一番「遅い!」と怒鳴った。


 その少年は黒髪で、将来有望そうな整った容姿をしていた。


 しかし、ぶすっつらをし、腕を組み、仁王立ちをして立っているその姿は、実に、ふてぶてしそうなお子様であった。


「すみませんね、ジェット様」


 ちっともすまなそうな顔をしていない腹黒執事はそう言って謝った。


 副音声で、「だったらお前がいけばいいだろう」という声が聴こえてきそうな様子である。


「ほらほら、ジェット。最初からそんな怒らないで。君の将来の花嫁さんが驚いているよ」


 ラリマーはその豊満な腹を揺らし、まあまあと宥める。


「あ? もとは使えない狸が悪りいんだろがよ。で、噂の妖精姫ってどれだ。どうせたいしたもんじゃ……」


 リーンゴーンカーンコーン……。


 聴こえないはずの鐘の音が聴こえたような気がした。


 カーネリアンはぼんやりそう思った。


 うちのお嬢様こと、妖精姫ユークレースは、たいしたもんなんだよ。


 その容姿だけは。


 まさに、妖精。


 奇跡の美貌。


 中身はお粗末過ぎて涙が出るがな。


 一目で恋に堕ちたらしいお子様侯爵と、たかがお子様の悪態で気を失う秒読み三秒前の主を目の前にして、カーネリアンは支える体勢を整えると同時に、これからのことを思い、溜め息をつくのだった。

でも後一話、まとめの話UPしますのでよろしくお願いします。

でもまだ一文字も書いてないので少し時間かかるかも。

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