アルレオン2日目3
――アルレオン軍学校・リンド・ブルム教室――
激マズだったミルファのドリンクが効いたのか、
どうしようもなかった眠気もすっかり消え、
オレたちは物理と数学を足したような授業を受けていた。
ただし、授業はオレが理解できる範囲をはるかに超えていて、
完全に置いてかれてる気分だった。
ミルファといえば、相変わらず、
教室の後ろで授業を見学している。
「では、この問題を解いてください。」
若い教師が黒板に問題を書くと、
「はい、解けました。」
そう言って、フルムが黒板にスラスラと回答を書き始める。
「お見事です。」
教師はフルムの解答を文句なしだと褒める。
その後の授業は、いくつも出される問題に対し、
一問だけ級長リコが答えたものの、
その他すべてフルムが答えた。
この授業はフルムの独壇場だった。
授業が終わりにさしかかった頃、
ゴゴゴゴゴゴ!!!!
凄まじい轟音が上空から響いてくる。
いきなり、校舎の外が騒がしくなった。
外へ目をやると、
赤く光る棒を持った職員たちが、
空へ向けその棒を振り回している。
「うわぁ、あの機体!!」
ミルファが真っ先に機体に気づき
窓から体を乗り出す。
すると、一機のライデンシャフトが、
アルレオン上空に現れた。
(リゼル、ライデンシャフトだ!!)
<うん!!>
若い教師は驚きながら、
「あの…領主様、
これは一体何事でしょうか?」
ミルファにたずねた。
「サーベラス!!!」
ミルファは教師の質問を無視して、
勢いよく教室の外へ駆けだした。
(…サーベラス?そういえば、
どこかで聞いたような…)
<タツヤ!!!
王都からオルレアンへくる途中で見た、
あの機体だよ!!>
(…ってことは…。)
そうこうしているうちに、
一機のライデンシャフトが校庭に着陸した。
ゴオオオオ!!!
今度は突然、教室のドアが開き
レリウス教官が教室へ現れた。
「貴様ら、新校長の着任だ!!
急ぎ校庭へ出迎えにでる!!」
生徒たちはレリウス教官の指示に従い、
一斉に素早く廊下に出る。
<タツヤ!みんな外に出てるよ。>
「え!?
あ、ちょ、ちょっと、待ってよ。…」
みんなは廊下に出るなり、
すぐに隊列を作り、
駆け足で進みだす。
(誰かー!!
まったくもう、
また置いていかれるのかよー!!)
オレは走って、なんとか隊列にくっついていく。
オレたち以外の生徒も、
駆け足で校舎を出ている。
オレは必死で隊列について行きながら、
デイニーに目をやった。
オレの気のせいだといいんだけど、
デイニーは朝からオレと距離を取っているようだった。
――アルレオン軍学校・校庭――
オレが教室で授業を受けていると、
1機のライデンシャフトが、
アルレオン上空に飛来し、
そのまま学校の校庭へ着陸した。
そんな最中、オレたちは教室へ現れたレリウス教官から、
すぐに校庭へ出るよう命令された。
オレやリンド・ブルムの生徒が廊下へ出ると、
他の教室からも、生徒が続々と校庭へ向け移動している。
廊下や階段は学生だらけ、
全生徒が一斉に校庭へ向かっているから当然なんだけど、
驚くほどに統制が取れていて、
混乱はどこにも見当たらない。
オレたちが校舎から出ると、
「リンド・ブルムは最前列に横並び!!
他の兵科の生徒たちはいつものように整列!!」
格納庫で見たドワーフの教官が、
大声で生徒たちへ指示を出していた。
他にも、
「儀仗隊!!もっと前へ!!」「工兵科遅れとるぞ!!」
など、様々な指示が校庭を飛び交っている。
数千人の生徒たちが一糸乱れぬ動きで隊列を作り、
あっという間に、
広い校庭をビシっとした列が埋め尽くしていった。
「歩兵科2年B班、整列完了!」
「砲兵科1年D班、整列完了!」
「リンドブルム全学年、整列完了!」
オレはというと、
教室から必死でリコたちについていって、
なんとか列に収まっていた。
すべての生徒たちの整列が終わると、
校庭はシーンと静まりかえった。
(な…なんか緊張してきた…。)
<ちょ、ちょとタツヤ、しっかりしてよ。
なんでタツヤが緊張するの。>
(こういうの…慣れてなくて…。)
オレたちがそんなやりとりをしていると、
膝立ちのライデンシャフト、
サーベラスのコックピットハッチが開く。
校庭に集まった全ての生徒、
教官たちの視線がその一点に注がれる。
コックピットからゆったりと現れたのは、
王都の基地で会ったヒゲ面の将軍だった。
(あっ…あの時の…
ヒゲのおっさん!!!)
オレは心の中で叫んだ。
<タ、タツヤ、そんな言い方失礼だよ。>
リゼルがすぐさまオレを注意する。
(そ、そうか…、あのひげのおっさんが、
新校長なんだ、
あーあ、…なんか緊張して損した。)
オレの体から自然と力が抜けていった。
<スゴい!スゴい!!
サンダース・ヒル将軍が新しい校長先生なんだ!!>
脱力するオレと違って、
リゼルはめちゃくちゃ嬉しそうだった。
あらためてヒゲのおっさんを見ると、
いつの間にか機体の向かって左の肩に、
魔導メガホンを持って立っていた。
オッサンはしっかりと生徒を見渡している。
そして、おもむろにしゃべりだした。
「さすがアルレオン軍学校、
よく訓練されておる、
上々ではないか、
はっはっはっは。」
サンダースは機上から満足気に生徒達を見下ろしている。
「この度、アルレオン軍学校校長の任を授かった、
サンダース・ヒル中将である。
伝統あるアルレオン軍学校の校長を務める栄誉をいただき、
大変光栄である。
そして、未来ある君たちとともに、
この学校のより一層の繁栄と飛躍に尽力する次第である。」
ドンッ!ドンッ!ドンッ!
ヒゲのおっさんのあいさつが済むと、
一斉に祝砲が放たれた。
パチパチパチパチパチパチ!!!!!!!
そして、割れんばかりの拍手が鳴り響く。
オレも周りに合せ手を叩いた。
(へぇー、おっさん意外と人気あるんだ。)
<意外と人気あるって…、
サンダース・ヒル将軍は王国の英雄なんだよ!>
(……英雄ね……。)
オレとリゼルがそんなやりとりをしていると、
機体の正面にミルファが立っていた。
「”ベルディア公”
ようこそアルレオンへ。
貴殿のような伝説のパイロットを、
新校長に迎えることができ、
我々は大変喜ばしくある。」
堂々としたミルファの挨拶だった。
次に、リンドブルム級長のリコが、
オレたちの列から一歩前へ出た。
「”ベルディア公”
閣下の打ちたてた数多くの武功に、
一歩でも近づけるよう、
われらアルレオン軍学校、
すべての者がより一層の勉学と訓練に励むことを、
ここに誓います。」
リコの祝辞もなかなかのものだった。
(すげー…、リハーサルも無しに、
あんなにスラスラと…。)
<タツヤじゃ絶対無理だよね。>
(そ…そんなにはっきり言わなくても…。)
<だってそうでしょ。>
(う…っ…そうだけど。)
リゼルの意見は正しかった。
一連のあいさつが終わると、
おっさんは颯爽と機体から降りた。
そこでミルファは思い立ったように、
全員へ向かってアナウンスを始めた。
「明日は休校とする、
新校長の歓迎式典を我が屋敷で執り行う!」
生徒たちから大歓声があがった。
サンダース・ヒル専用魔導機兵”サーベラス”
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