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マズロー・シャゴール

―― マズロー・シャゴールの回想 ――


 時はおよそ10年ほど前にさかのぼる。


 シルドビス大陸中央北部、

 緩やかな丘陵地帯に広がる

 王国領アン・ベルディア。


 第13王国軍・前線基地は、

 ベルディアの街から離れた、

 東部の森の中に設けられた。


 帝国との激しい戦闘は続き、

 森の青々とした木々は、

 暖かな赤や黄色へとその姿を変えつつあった。


 前線基地の司令部は、

 そんな森の地下に造られた。


 正午過ぎ、

 司令部に一人の若者が現れた。


「グレミア士官学校出身、

 マズロー・シャゴール少尉であります。」


 若者はやや緊張した面持ちで、

 自分の名と階級をはっきりと名乗った。


 第13王国軍・司令官サンダース・ヒル少将は、

 若者の足先から頭頂部まで、

 じっくりと観察しながら、

 彼の背後へ回った。


「君か、志願してこの部隊へ

 配属された王都出身の士官候補生というのは。」


「はい。」


 マズローは正面を向いたまま勢いよく返事をした。


 サンダースはゆったりとした足取りで、

 マズローの正面へ戻った。


「”ベルディアの監獄”。

 我が第13王国軍は、

 配属を待つ新兵どもの間で、

 そう呼ばれとるらしい。

 聞いたことはあるだろう。」


 サンダースは淡々と語った。


「………。」


 マズローは黙ったまま、

 サンダースを見つめた。


「何故志願した。」


 サンダースは黙る若者の顔に、

 自分の顔を近づけた。

 

「武勲を立て、将軍のように、

 出世したいからであります。」


 サンダースはマズローから顔を離し、

 うつむきながら、


「……簡単に言ってくれる。」


 独り言のような返事をした。


 そして、すぐに顔をあげ、


「ここに送られてくる者たちは、

 極端に身分が低い者、

 何かしら問題を起こした者、

 そんなあぶれ者たちの集団だ。

 出世を望む者にとって、

 最も可能性が低い部隊だと断言してよい。

 本当の狙いはなんだ。」


 マズローは顔色一つ変えることなく、


「自分は”死”を望んでおります。」


 あっさりと答えた。


 サンダースは黙って、

 目の前の若者の真っ直ぐな瞳を、

 静かに見つめた。





――― 王都・中央軍本部・幹部将校執務室 ―――


 ”慧眼のマズロー”

 マズロー・シャゴール准将は、

 過去を思い返していた。


 マズローはかつての上官サンダース・ヒルへ、

 自身が入手した最新の軍及び、

 王族に関する情報を手紙に記していた。


 その内容は、

 次期中央軍・参謀本部司令官として、

 北方領主サウール・ポウジーが選任されたこと。


 ギル・ドレなど一部の幹部についても異動辞令がでたこと。


 ジグバ演習林襲撃事件捜査中にも関わらず、

 王家親衛隊”バーミリオン”隊長

 アリエス王女が王都を離れたこと。


 演習林で遭遇した幻術士が身に着けていたフードから、

 とある薬草の成分が検出されたこと。


 などであった。


 マズローは書き終わると、

 机に置かれた古い写真を眺めた。

  

 そこには、今よりも若かりし頃のサンダースや、

 マズロー、アーノルド、ビムたちの姿があった。


 その時、


 コンコンコンコン


 ドアが鳴った。


「人事担当官です。」


「入りたまえ。」


 マズローは素早く手紙を引き出しへしまった。


 人事担当官は部屋へ入るなり、

 手にした書類を読み上げた。


「マズロー・シャゴール准将閣下、

 貴殿に異動辞令の通達であります。 

 本日付で参謀本部・新司令官

 サウール・ポウジー大将閣下付きとなります。

 すぐに受け入れ準備に取り掛かり下さい。」


 聞き終わると、

 マズローは大きく息をはいた。





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