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領主様のお屋敷2

 オレは机に置かれた日記に慌てて手を置く。


(お、おいリゼル!オレのこと…)


<あ、タツヤ!

 …ここは?>


(えっ…ここ!?

 えー、今ここがどこか

 説明してる場合じゃなくて、

 とにかくそんなことより…。)


<あ…、タツヤのこと!?>


(そ、そうだよ!!)


<…ごめん…しゃべっちゃった。>


「ま、まじか…。」


<…………。>

(…………。)


 二人の間に気まずい空気が漂う。


 オレはいったん日記から手を離した。


 ミルファは黙ってオレを見つめている。


 オレはミルファの視線を避けるように、

 部屋を見渡す。


 すると部屋中に置かれた、

 色んな実験器具や標本が、

 オレの視界に入ってくる。


「……人体実験。」


 オレは思わず声に出した。


「人体実験…!?」


 ミルファもつられて繰り返した。


「えっ、あ、それは…。」


「言ってることがよくわかんないけど、

 とにかく、あなたはヒビノタツヤなんでしょ?」


「え、あ、はい、

 自分は………。」


 オレは今にも消えそうな

 小さな声で返事をする。


「異世界転生人!!」


 ミルファは思いっきりオレの返事に被せてきた。


「あっ………。」


 オレは何も言い返せなかった。


「『あっ…』じゃないよ。」

 

「やっぱり…、ばれてます…よね。」


「ばれてます……よ!!」


 次にミルファは、


「あっちゃ~…。」


 派手に頭を抱えた。


「まぁ、この中のリゼル君から話を聞いて、

 間違いないとは思ってたけど、

 やっぱりそうなんだ。」


「は、はい…。」


 コンコンコンコン!!


「ミルファ様、軽いお食事とお茶をお持ち致しました。」


 部屋の外から男性の声がした。


「入っていいよ。」


 ミルファが返事をすると、

 老年の執事がサンドウィッチとティーセットを乗せたお盆を持って、

 部屋へ入ってくる。


「あぁ、そのへんに置いといて。」


「かしこまりました。」


 執事はゴチャゴチャした机の隅に、

 お盆を置き、すぐに部屋を出た。


「お腹減ってるでしょ、食べよ。」


 ミルファはオレの前にサンドウィッチの皿を置く。


 オレは黙ってサンドウィッチを見つめる。


「もしかして疑ってる?

 大丈夫、毒は入ってないから。」


 そう言うとミルファは先にサンドウィッチをほうばる。


「ほらね。」


(わ、罠じゃないみたいだ。)


「じゃ、じゃぁ、いただきます。」


 オレは思い切ってかぶりついた。


「う、うまい!!」


 パンも中に入っている魚も絶品だ。


「好きなだけ食べていいよ。」


 オレはミルファに言われた通り、

 遠慮なく二つ、三つといただいた。


「この魚は何ですか?」

 オレは興奮気味にたずねる。


「これ、スモークした鱒だよ。」


 ミルファは淡々と答える。


「へぇー、初めて食べた。」


 ミルファはオレの顔をのぞき込む。


「ふーん、元いた世界では食べたことなかったんだ。」


「うっ…。」


 オレはミルファの一言で現実に戻された。


「うーん、どうしたもんかな。」


 ミルファは食べながら考え込む。


「普通、異世界転生人は、

 転生直後のおかしな言動や、

 行動ですぐわかるんだけど。

 君の場合は、

 特殊な事情のおかげで、

 それがわからなかったわけだ。」


 困った表情のミルファ。


「ホントだったら、キミのこと、

 魔法省や元老院に報告しなきゃいけないんだよなー。

 報告を怠ると、お家取り潰しの厳しい処罰もあり得るし。」


 ミルファはさっきから、

 ブツブツと独り言をつぶやくように話す。


「ん~、困ったなー、

 意思を持った本と異世界転生人、

 こんな魅力的な研究対象をみすみす手放すなんて…

 うーん、どうしよう…。」


 ミルファはサンドイッチ片手に、

 部屋をウロウロ、ウロウロ

 落ち着きなく歩き回る。


「手放したくない!!」


 今度は急に叫んだ。


「よし、決めた!!

 しばらく君たちをこっそり観察することにしよう。

 ばれたらばれたで、

 その時はなにか裏工作を考えればいいや。

 いざとなればグランパに頼み込んだっていいわけだし。」


(う、裏工作!?)


「あの、結局オレはどうなるんでしょう?

 やっぱり、人体実験されるんですか?」


「そういえばさ、

 さっきから人体実験人体実験って、

 何の話?」


「え…異世界転生人は人体実験されるんじゃ…。」


 ミルファは少し考え込むそぶりを見せたと思ったら、


「ふっふっふっふっ。」


 こんどは突然不気味に笑いだした。


「や、やっぱり…。」


 オレは青ざめる。


「そんなわけないじゃん。」


 ミルファは落ち着いて答えた。


「………!!」


「まったく、そんな話誰に聞いたの。」


「それは、リゼルが…。」


「困った噂だなー。」


「そ、そうなんですか。」


「人体実験なんてしてないよ。

 まぁ、かなり行動は制限するみたいだけど。

 場合によっては、

 しつこい取り調べをされることもあるかな。」


「………。」


「こればっかりは、

 いくら領主の力を使っても、

 どうしようもないんだよねー。

 過去に、悪さをする異世界転生人がいたから。」


「悪さ??

 それは、例えばどんなことを?」


「自分は勇者だって言い張って、

 動物に乱暴する奴とか、

 俺は魔王の化身だーとか言って、

 それで村で大暴れしたりとかさ。」


(あれ、なんか聞いたことあるかも…。)


「ま、君の場合は、もう少し様子見、

 その間は黙っててあげる。」


(はぁ…、た、助かったのか。)


 オレは日記に手を置く。


(リゼル、とりあえず助かったみたい。)


<ホント!?>


(ああ。)


<良かった~。>


「あのさ、本題に戻るけど、

 いったいどうやってその本に意識を定着させたの?」


 ミルファはオレにたずねる。


「本って、この日記のこと?」


「そういえば、中身はそんな感じだったっけ、

 ま、ボクにとっては本でも日記でも、

 どっちでもいいんだけどさ。」


「それは、オレもよくわかりません。」


 ミルファは日記に手を置き、直接リゼルに聞く。


<最初、ボクの意識は自分の体にあったんです。>


 オレも日記に手を置く。


「そうそう、目が覚めたらオレがリゼルになってて、

 リゼルの意識と”こんにちは”したってわけ。」


<その後、いろいろあって気が付いた時には意識が日記に移ってた。>


「そのいろいろが、レイクロッサの一件てわけね。」


「は、はい。」<うん。>


「はっきりした方法はわかんないか…。」


 ミルファは独り言のようにつぶやく。


「あのさ、ヒビノタツヤの元いた世界ってどんな世界なの?」


 ミルファは、急に話題を変えた。


<ボクも、もっと知りたい。>


「え、オレのいた世界…、

 そ、そうだな…、」


コンコンコンコン!!


「ミルファ様、本日の執務が滞っておりますが…。」


「わかってるよ、この後やるから。」


 ミルファは大きなため息をついた。


「はぁ、じゃあ今日はここまでだね。」


(…やっと、終わった。)


「ふーん、わからないことだらけだ。

 ますます面白くなってきた!」


「そうだ、日記返してもらってもいいですか。」


「いいけど、条件がある、

 詳しく調べてみたいから、

 すぐにとは言わないけど、

 もう一回貸してもらうよ。」


「は、はい。」


「それからさ、

 今度からキミのことはなんて呼べばいいかな?

 さすがに、ヒビノタツヤはまずいもんね。」


「じゃ、じゃあ、”ティターニア”でお願いします。」


「ふーん、日記がリゼルで、

 キミはティターニアってわけだ。」


「はい。」


「あ、そうだった!!

 あと、これ。」


 ミルファはゴチャゴチャした机から、

 金属の輪っかを取り出し、オレに差し出す。


「ブレスレット…ですか?」


 オレは見たままの感想を伝える。


「どっちでもいいから、足出して。」


「……え?」


 オレが戸惑っていると、


「はい、これで完了。」


 ミルファはオレの右足に金属の輪っかをはめた。


「ま、おしゃれなアンクレットだと思ってよね。」


「…うそ、外れない。」


「それ、私にしか外せないから。」


 ミルファはにっこり微笑んだ。


「………。」


 オレはミルファのあまりの強引さに、

 何も言えなかった。


「あ、それから日記にも少し細工しておいたから、

 それはリゼル君へのプレゼント。」


 ミルファは嬉しそうに微笑んだ。


「あ…、ありがとうございます。」


 オレはよくわからないまま、

 一応礼だけは伝えた。


 その後すぐに、オレたちは屋敷を後にした。




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― 新着の感想 ―
[良い点] ひとまず異世界転生人としてミルファさんが興味を持ってくださってよかったですが、さて、この後、どうなることやら… 目が離せませんね!
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