医務室からの帰り道2
「ところでさ、ティターニア、
お前16じゃないだろう。」
「!?」
(やっべっ、いきなりなんで!?)
オレは心の準備が出来ぬまま、
「あの、それにはちょっと複雑な理由が…」
引きつった笑顔で答える。
「ってことは、やっぱり16歳じゃないんだよな。
さすがに無理があるぜ。」
(あははは(泣く)ばれてる。)
「や、やっぱり、わかる。」
オレは諦めて認める。
「そりゃ、わかるだろ。声変わりもしてねーし、
体も細いし。
ま、人それぞれいろいろ事情があるんだろ、
深く詮索はしねえよ。
だったらさ、代わりに、
好みの娘、教えろよ!」
「!?」
(今度は、な、なんで好みの娘!?)
「でも、パイロットになるために、
余計なことをしてる暇はないんじゃ…。」
「え!?それとこれとは別問題、
気になった娘でもいいぜ、教えろよ。
オレはアフィデリスだな。
あのとっつきにくさが、男心をくすぐるんだよな。」
(こ、こいつも、やっぱり普通の男子なんだ。
ただ、急にそんなこと言われても…、
憶えてるのは、あの三人だけだしな…。)
「えーと…。」
オレは三人を思い出す。
(あの中なら…、
リコは、真面目で優等生な王道の美少女だろ、
フルムは、おもしろいめがねっ娘で
サーヤは、大きなほんわか女子。)
「ボ、ボクは…、サーヤかな…。」
「へー、ティターニアは”巨乳”好きのお子様か。」
「え!?巨乳、い、いや、そういうわけじゃ…。」
(た、たしかに巨乳は好きだけど…、
そ、そうじゃなくて、
サーヤはオレに優しくしてくれたからなぁ。)
オレは医務室への道中を思い出してにやける。
「はははっ、何想像してんだよ。」
「え、想像!?いや、あの、そんなわけじゃ…。」
「まぁまぁ、落ち着けよ。
とにかく、一見穏やかで優しそうなあの手のタイプは、
怒らせたら一番怖いと思うぜオレは。」
「え!?怒らせる!?」
「なんてな、
ははははは。」
今のデイニーは、さっきまでの大人びた雰囲気じゃなく、
ただのスケベな年頃男子だった。
オレたちは、そんなくだらないことを話しながら、
しばらく歩いた。
すると、オレたちの前方に建物が見えてくる。
「あれが、オレたちの寮。」
デイニーは古い洋館を指差す
「おぉ…すげぇ!!」
寮は赤茶の壁、赤い屋根と、
建物にからみつくツタが印象的な大きな洋館だった。
オレたちはよく手入れされた庭を抜け、
寮に入ると、入り口の受付に老人がいた。
「デイニー・バッケンハイム、
ただいま帰りました。」
デイニーはきちんとあいさつをする。
「うむ、おかえり。」
老人は簡単なあいさつを返す。
「そうじゃ、バッケンハイム、お主に伝えることが…」
と、言いかけて、老人はオレに気が付く。
「もしや、きみが新入生かね?」
「リ、リゼル・ティターニアです。」
(ん!?
そうだ!!リゼル!!
ちゃんと届いてるのかな?)
「あ、あの…、自分の荷物は?」
オレは慌てて尋ねる。
「あ、ああ、荷物なら届いておるぞ、安心せい。
ワシは、この寮の管理を任されておる、
モンザロームというもんじゃ。よろしくな。」
「よかった~。」
オレは安心のあまり、
つい気を緩めるてしまう。
そこへ、
「おい、ティターニア!!
返事はどうした。」
デイニーに注意されるオレ。
「す、すみません、よろしくお願いします。」
「はっはっは、
そんなにかしこまらんでもええ。
二人のその様子ならば話は早いな。
ティターニア候補生の部屋は、
一緒におるバッケンハイムと同室じゃ。
先ほど言いかけたのは、このことじゃ。」
「えっ…!?」
それを聞いた瞬間、
デイニーは一瞬、
戸惑いの表情を見せた。
「どうかしたのか?」
モンザローム老人がたずねる。
「い、いや、別に、
何でもありません。」
デイニーはすぐに平静を装ったけど、
明らかに動揺している。
(どうしたんだろ、オレと同室は嫌なのかな…。)
オレも少し不安になる。
「そうじゃ、お前さんたちの部屋に客人がきとるぞ。」
「「客人?」」
オレとデイニーは同時に反応した。
――寄宿舎・デイニー&リゼルの部屋――
オレたちは階段を上り、部屋へ向かう。
オレはデイニーが見せた戸惑いの表情が気になった。
(はぁ、あんまり気にしちゃいけないと、
頭ではわかっていても、やっぱり気になるよなぁ…。)
オレはそんなことを考えながら、
デイニーに続いて部屋へ入る。
すると、見覚えのある人物が、
ベッドに腰かけていた。
オレはその人物を見て声をあげる。
「ミルファ…さん!!」
「遅い!!」
客人はオレの保護観察官、
魔導少尉ミルファ・ダリオンとその飼い猫だった。
オレは再会の嬉しさを出来るだけ隠した。
「もー、待ちくたびれたよ!!」
ミルファはあいさつもろくにせず、
ブツブツ文句を並べている
「自分は、パイロット候補生3回生、
デイニー・バッケンハイムであります。」
デイニーはミルファに向かって姿勢を正し敬礼をする。
(あ、そうだった。)
「リ、リゼル・ティターニアです。」
オレもあわてて敬礼する。
「えー、ボクは魔導少佐ミルファ・ダリオン。」
ミルファは座ったまま行儀悪く敬礼する。
「ダ・ダリオン……!?、
ってことは………、
りょ…領主様!!!」
ミルファの名前を聞いて、
デイニーは固まる。
(そうだった…、
この娘チャラく見えて、
偉い人なんだった。)
オレはデイニーの緊張した様子を見て、
ミルファ嬢の立場を再確認した。
「そんなに驚かなくてもいいじゃん、
イケメンくん。」
「あ、あの、ダリオン様がどうしてこんな所に。」
「そこの、ちっこいのに用があって。」
(ち、ちっこい…ってオレのことだよな。)
「ど、どういった用でしょうか?」
オレは一応用件を聞く。
(定時報告とか…、様子を見にきたのかな?)
オレはそんなことを考えながら、
先に届けられた荷物の山をチラッと見る。
(ちゃんとリゼルの日記も届いてるよな…。)
オレはミルファ嬢の再登場に舞い上がりつつも、
そのことが気がかりだった。
すると、ミルファはオレの様子を察知したのか、
「探し物はこれかしら。」
体の後ろに隠していた日記を、
おもむろに取り出す。
「あ”―――っ!!」
オレは思わず大声をあげた。
イヤな予感が、
オレの脳裏をよぎった。




