実機授業7
―――機兵格納庫内・整備科待機室―――
壁にかけられた大型魔導モニターに、
演習場中央で対峙する、
デイニー・バッケンハイム機と、
トロイ・クラヴィッツ機が映し出されている。
その様子を見つめる整備科の学生たち。
「トロイの圧勝で間違いないだろ。」
「相手がデイニーだもんな。」
「ちょっとそんな言い方デイニー先輩に失礼でしょ。」
「…アイツ女子人気、高いんだよな。」
「だけど、いくら人気があってもこの頃の成績じゃ危ないぜ。」
「たまたま調子が悪いだけに決まってるでしょ。」
「いやいや、もう落ち目だって。」
「そうそう、”落ち目のデイニー”」
「トロイの相手は厳しいって。」
◇
ゼクウコクピット内のデイニー・バッケンハイム、
「まっ、お手柔らかに頼むぜ。」
魔導無線を使い対戦相手のトロイへ話しかけた。
「安心しろ……、
誰が相手だろうと、
…俺は手加減をしない。」
トロイは淡々と答えた。
「はははは……、
ただの挨拶のつもりだったんだけど…。」
「無駄話は終わりだ。」
トロイはピシャリと言い放った。
コックピット内は静けさと、
緊張感に包まれた。
『始め!!!』
レリウスの掛け声が、
双方のコックピット内に響いた。
しかし、トロイは動く気配をまったく見せなかった。
それを目の当たりにしたデイニーは、
「まいったな……いつもこれだ。」
一人つぶやく。
「じゃ、行きますか!!」
デイニーはアクセルペダルを踏み込んだ。
ドシュッ!!!ドシュン!!!
デイニーはトロイ機との距離を縮めながら砲撃を放つ。
そして、すぐさま魔導砲から白兵刀(模擬ブレード)へ、
兵装を替えた。
「くらえ!!」
ズザンッ!!!
デイニーは鋭い斬撃を繰り出した。
その斬撃を、
トロイは闘牛士のようにひらりとかわし、
ガギィィィン!!!
かわし際に打撃を与えた。
「………!!」
「くっそ!!」
ブォオン!!!ブゥゥン!!!
デイニーも負けじとさらにブレードを振るが、
ことごとくトロイ機にかわされる。
ガギィィィン!!!ガギィィィン!!!
かわす度に、トロイはデイニー機に
確実にダメージを与えた。
「ちっくしょう!!
こっちだって、やられっぱなしじゃ終われねぇんだ!」
デイニーは何度打ち込まれても、
ギリギリ致命的なダメージを回避している。
「……悪あがきが過ぎる。」
トロイは徐々に苛立ちはじめた。
しぶとく食い下がるデイニーは、
何度も何度も同じ攻撃を繰り返した。
ブゥン!!ブォオン!!
「……ワンパターンなんだよ!」
トロイは珍しく感情を表に出した。
ガギィィィン!!!ガギィィィン!!!
トロイは容赦なくデイニーへ攻撃を加えた。
この状況でデイニーは笑った。
「へへへっ……狙い通りだ、
トロイのヤツ動きが雑になってきやがった…、
さぁビビんな俺、ここが見せ場だ踏み込むぜ!!」
ブゥオオオオン!!!!
デイニー機の斬撃の踏み込みが深くなった。
「ふんっ……そいつもお見通しだ。」
トロイはデイニーの渾身の一撃をあっさりかわした。
「……終わりだ。」
トロイはかわし際に攻撃を放った。
その瞬間だった。
ガギギギィン!!!
「なっ、何!?」
トロイ機のブレードは、
デイニーの機体と腕に挟まれた。
ブレードを掴まれたトロイ機は、
完全に無防備となった。
デイニーのチャンスだ。
「肉を切らせて骨を断つだ!!
いっくぜ――――――っ!!」
「くっ!!」
形勢が逆転した、まさにその時だった。
突然デイニー機の動きが止まった。
「…………………ぐあああっ!?」
突如としてデイニーはうめき声をあげた。
「!?」
その間に、
トロイは掴まれたブレードを手放し、
デイニー機と距離を取った。
「…ちっ…熱くなっちまった…。」
トロイは自分で自分に言い聞かせた。
チャンスをふいにしたデイニー。
「くっ…くっそー…。」
(ちっくしょう…、
よりによってこんな時に。)
デイニーは動きを取り戻したが、
その動きは明らかに鈍くなっていた。
いったん後退し距離を取ったトロイは、
魔導砲を放ちながら、突進した。
ドシュッ!!!ドシュン!!!
デイニーはよけきれず被弾する。
そして、トロイはギリギリまで相手に近づき、
大きく跳んだ。
「……今度こそ終わりだ。」
ドシュン!!!ドシュン!!!ドシュン!!!
トロイは空中から魔導砲を撃ち込んだ。
ビ―――――――!!!
デイニー機は膝をつき完全に動きを止めた。
『勝者!トロイ・クラヴィッツ!』
レリウスの声が演習場に響いた。
―――機兵格納庫内・整備科待機室―――
「トロイ、珍しく危なかったな。」
「デイニー先輩勝てたでしょ、何やってんの。」
「そうだよ、あんな絶好のチャンス逃すなんてな。」
「やっぱ、デイニーはもう落ち目か。」
「落第するのも時間の問題でしょ…。」
「それにしてもさ、トロイの最後の砲撃スゴかった。」
「操縦技術は別格だよ、別格。」
「今年の正規配属は、あの双子で決まりじゃね。」
生徒たちはそれぞれの感想を口にした。
―――機兵演習場・管制塔バルコニー―――
レリウスは手にしたメモに、
模擬戦の評価を記した。
「クラヴィッツ兄弟、
正確な操作スキル、的確な状況判断、
思い切りの良さ、
どれをとっても今年の3回生の中では、
ずば抜けている。
課題は自信過剰による油断、
感情のコントロールの未熟さが、
時おり垣間見えることか。」
「リコ・アフィデリス、
学力、体力、気力、
あらゆる面で非凡な才能を有しているが、
ライデンシャフトの操縦は特に目を見張るもの無し、
しかし、あのしぶとさは評価できる。」
「デイニー・バッケンハイム、
どうもこのところおかしいな。
先ほども、絶好の機会をふいにするとは…。
入学当初は抜群の成績だったが、
残念ながら、期待外れだ。」
――校舎・医務室――
オレはボーっと医務室の天井を見つめている。
医務室から演習場は見えなかった。
ただ、もの凄い爆音が聞こえてくるだけだ。
(はぁ…、オレやっぱ冴えないままじゃん…。
せっかく転生出来たのに、
嫌なことから逃げ出す、変わってないし。
何とも中途半端な転生人生だ…。
それでいて、1年以内に敵を100機撃墜しなきゃ死刑って…。)
オレは天井を見つづけた。
そして、医務官の話を思い出していた。
最初聞いたときは、
いったい何の話をしてるんだか、
と思っていた。
しかし、あの話は、
「もし、ここが戦場で、
仲間が生死をかけて戦っている時、
君は寝ているのかい。」
と、オレに問いかけているようだった。
オレは転生したこの世界で、
本物の戦場に立てるのだろうか。
いつもお読み頂きありがとうございます!
大変申し訳ないのですが、次回の投稿は、7月7日(金)の予定になります。
その後は再び週一ペースで投稿予定となっております。
投稿する前と投稿してから慌ただしく走り続けてきたので、ちょっと休みます。
最初は投稿の仕方がよくわからないところから始めたのですが、おかげさまで多くの皆様に読んでいただけるようになりました。本当に”ライデンシャフト”を書くモチベーションになります。
暑くなってまいりましたので、皆様もお体に気をつけてお過ごしください(*'ω'*)




