実機授業4
「バカもんが―――――!!!!」
それを見たレリウス教官が大声で叫ぶ。
「レリウス教官、緊急救助を!!」
フルムが教官へ駆け寄る。
「うむ!!」
レリウス教官は急ぎ魔導メガホンを手に取り、
「救護班!!整備班!!
急ぎ演習場内へ!!!
アルファ班は指示があるまでその場で待機だ!!」
指示を飛ばす。
オレは、以前あったリゼルとのやりとりを思い出した。
―――リゼルとの回想―――
王都・中央軍基地・外れにある古い宿舎
試験に向けて準備をするタツヤとリゼル、
ある日の会話。
「あのさぁ、リゼル」
<なに?>
「そういえば、あの時、
ライデンシャフトに、
初めて乗った時、
リゼルが言ってた、
ライデンシャフトの出力調整って、
どういう事だったんだっけ?」
<あの時説明した通りだよ。>
「あの…、あ、いや…実は…、
あの時はさ、
それどころじゃなくて、
よく…覚えてない…んだよね。」
<え―――――!!>
「そんなにあきれることないだろ。」
<まったく…、そのいいかげんさ、
ホント、直したほうがいいからね…。>
「そう言わずにさ、もう一回説明してよ。」
<もう、しょうがないな。>
<ライデンシャフトは、
機体に搭載されてる、
魔導融合炉の力を使って、
動いてるんだ。
ここまではいい?>
「は、はい。」
<出力調整ってのは、
その魔導融合炉の
”力の解放量”をコントロールする事。>
(ふーん、エンジンみたいなもんか…。)
<ライデンシャフトの元々の性能に加えて、
ルーンリアクターの
出力値の高い低いで、
”機体スピード””操縦反応速度”
それから”打撃パワー”や”装甲の耐久性”
あらゆる機体能力が決まるんだ。>
「そ、装甲も…。」
<だから、ライデンシャフトの出力調整は、
すごく重要なの。>
「そ…そんなに重要だったんだ。
最初”ライデンシャフト”に乗った時、
オレそこまで意識しなかったかも…。」
<…まったく…、
こんなんでよく勝てたよ。>
「じゃあさ、出力どんどんあげて戦えば、
敵なんて簡単に倒せるってことじゃん!
あの時のオレたち、めちゃくちゃ強かったもんな!!」
<…はぁ、ほんと単純なんだから…、
あの時だって、
最後大騒ぎして大変だったでしょ。
高出力状態をずっと続けると、
あの時みたいに、
ルーンリアクターが、
おかしくなっちゃうかもしれないんだから。>
「あ……、
そ…そういえば、そうだった。」
<それにさ、出力をどんどん上げるって、
簡単に言うけど、
普通、高出力での機体制御は
メチャクチャ難しいんだから。>
「難しい…?」
<うん、機体操作を誤ると、
敵を倒すどころか、
自滅しちゃうことだってあるし。>
「じゃあ…あの時のオレも、
自滅してたかも…?」
<うん、その可能性はあったよ。>
「も、もっと早く言ってよ…。」
<だって…、
あの時は詳しい説明してる時間なかったんだもん。>
「確かにそうだけどさ…。」
<だからさ、ライデンシャフトの出力調整で、
一番大事なのは、操縦を誤らない
自分の技術ギリギリの出力を保つ事。
わかった?>
「だけどさ、それって、
どうやって見極めればいいんだ?」
<そのために、パイロットは、
みんな日頃から訓練してるの。>
「ああ…なるほど。
ちなみにさ、その出力調整値って、
平均はどのくらい?」
<出力調整値の目安は、
”機体”によって違うんだけど、
僕が知ってる限りでは、
だいたい”70~80パーセントかな。
このぐらいで操縦できれば一人前”。
”80パーセント以上で操縦出来たら、
エースパイロット”になれるんじゃないかな。>
「へぇ、ライデンシャフトの操縦って、
そんなふうに評価されんだ。
…そうだ!
じゃあ、あの時のオレの操縦、
どれぐらい出てた?」
<タツヤの出力値?>
「そう、オレの出力値!!」
<……100……>
「100パーセントッ!!!」
<ううん、100パーセントじゃないよ。>
「なんだ…、違うのか。」
<…100…プラス20パーセント…>
「え…?」
<だから、120パーセント。>
「…マジ。」
<…まじ。>
―――――――――――
演習場内、倒れた機体のコックピットから、
生徒が運び出される。
その様子を、
オレを含め管制塔にいる全員が、
黙って見つめる。
生徒を運び出した救護班は、
懸命に生徒に呼びかけ続けている。
(ど…どうなっちゃうんだよ……。)
オレは不安に襲われる。
少しして、救護班に動きがあった。
生徒は呼びかけに気づき、
軽く腕をあげた。
それを確認した救護班は両腕を上げ、
頭の上で大きく丸を作る。
(ふぅ……。)
管制塔バルコニーに、
安堵のため息が漏れた。
倒れた機体が演習場から運び出され、
訓練は再開される。
レリウス教官、
「全員一層気を引き締めて訓練に臨め!!
次は、近接戦闘訓練だ!!」
演習場では、
ライデンシャフト同士による、
1対1での打ち込みの訓練が始まった。
ガキィィィィン!! ガキィィィィン!!
ライデンシャフトが振るブレード(刃)が激しくぶつかり合い、
あちこちで火花が散る。
ガキィィィィン!! ガキィィィィン!!
(すげぇ……。)
その光景にオレは目を奪われた。
そして、それは突然やってきた。
アルファ班の近接戦闘訓練終了間際、
「では、おまえの腕前を見せてもらおう。」
オレはレリウス教官から、
突然の宣告を受けた。
(…………!!!)
オレは焦った。
(ま、まずい…、
今、リゼルいないんですけど…。
特別試験のあの時みたいな失敗、
絶対出来ないし…、
…ど、どうするオレ!!!)
「……。」
(よく考えろ……、
ここは、ヒドい操縦を披露して、
大きく評価を下げるよりも、
一時的な撤退によって、
評価の低下を限定的にすべきじゃないか…。)
「……。」
バルコニー中の視線がオレに集まる。
「……」
(…あの手を使うか。)
覚悟を決めたオレは、
「あぁっ…!」
とっさに腹をかかえた。
「お、お腹が…、
……うっ…うぅ…。」
そして、うずくまった。
オレはうずくまりながら、
レリウス教官をチラッと見る。
「…………。」
教官は無言でこちらを見つめている。
「……。」
「……。」
(ダ…、ダメか…。)
額の汗が床板に落ちる。
一瞬の沈黙を破って、
レリウス教官が口を開く。
「……そうか、
それならば仕方ない、
誰か、ティターニアを医務室へ連れて行ってやれ」
教官は表情を変えず、あっさり答えた。
(ふ…ふぅ…何とかうまくいったか…。)
「はい、私が行きます!」
名乗り出たのはサーヤ・ティロ―ロだった。




