実機授業
─────アルレオン軍学校・第五演習場・午後─────
ガキィィィィン!! ガキィィィィン!!
ライデンシャフトが振るブレード(刃)が激しくぶつかり合い、
巨大な土の演習場に火花が飛び散る。
アルレオン軍学校・午後の授業は、
ライデンシャフト同士(ゼクウ・演習仕様)による実機授業だ。
ナンバリング03(リコ・アフィデリス機)
ナンバリング17(デイニー・バッケンハイム機)
左肩に17とナンバリングされたライデンシャフト(デイニー機)が、
ナンバリング03と記された機体(リコ機)に向かい、
ホバー推進の速度を上げる。
デイニー機は、
そのまま猛スピードで突進し、リコ機へ斬りかかる。
それに対し、
リコ機はデイニー機が振り下ろす斬り込みを左にかわし、
かわし際、相手の胴へブレード(刃)を打ち込む。
ガキィィィィン!!
デイニー機はリコ機の打ち込みを、
間一髪、ブレードで受ける。
デイニー機は受けた相手のブレードを跳ね上げ、
左へ回転しながら、遠心力を使って水平にブレードを振る
リコ機は水平に振られた相手のブレードを、
バックステップを踏みギリギリでかわす。
かわしてすぐに、リコ機は反撃の斬撃をすぐさま打ち下ろす。
ガキィィィィン!!
デイニー機は態勢を崩しつつも、振り下ろされたブレードを、
なんとか身をかがめ、頭上に構えたブレードで受け止める。
そのままリコ機が押し込む。
デイニー機はギリギリ持ちこたえている。
ジリジリと押し込むリコ機。
そこでリコ機の重心がやや右に移った隙を
デイニー機は見逃さなかった。
その瞬間、左サイドスラスターを急速全開にし、
ブレードを受け流し、態勢を立て直し距離をとった。
(すげぇぇぇ迫力……。
これが…ライデンシャフト同士の戦闘。)
ライデンシャフト同士による格闘戦は圧巻だった。
(はは…あはははは…、
コックピットの中から見るのと、
外からみるのじゃ大違いなんですけど…。)
オレは目の前で繰り広げられる模擬戦に、
正直驚かされた。
(こ、こんな奴らを、
オレ倒さなきゃいけないんだ…。)
ビビりはじめたオレの耳に、
「バッケンハイムー!!!
踏み込みが甘ぇぞって何度言ったらわかるんだ!!!
アフィデリスは動きを止めるんじゃねぇ!!!
戦場で的になりてぇのか!!!
お前らの腕じゃ命がいくつあってもたりねぇぞ!!!
おらぁ!!もっと気合入れてやらんかぁ―――!!」
レリウス教官が魔導拡声器を使って、
パイロット候補生たちを叱咤する声が響く。
(お、鬼だ…。
オレ、とんでもないとこにきちまった…。)
バッケンハイムやリコ・アフィデリス以外の候補生達も、
鋭い動きを見せているが、
レリウス教官から発せられる言葉は、
「貴っ様ー!!!どこに目ぇつけてんだコラー!!」
「次情けない操縦してみろ、ぶっ殺すぞ!!」
「勝手に出力下げてんじゃねー!!高出力を保てバカやろー!!」
「てめぇ!!何ビビってんだ!!
死ぬ気で相手の懐に飛び込まんか!!!
〇〇玉蹴飛ばしてやろうか!!」
とても、学校の授業とは思えない言葉が続く。
(元いた世界なら、絶対パワハラだよな…これ。)
最初のうちは、
候補生たちの操る機体の動きに見とれたていたが、
今はレリウス教官の罵詈雑言が気になって、
なかなか集中できない。
(オ、オレ…あんなにプレッシャーかけられて、
上手くやれるかな…。)
オレが自分の心配をしていると、
いつのまにか隣にいたレリウス教官が、
オレの肩に手を置き話しかける。
「ティターニア、どうだ?
3回生たちの力量はつかめたか。」
「ひゃーっ!!!」
オレは思わず悲鳴をあげる。
「おい、何故そんなに驚く。
変な奴だ。
では早速、おまえの腕前を見せてもらおうか。」
「……え。」
(やっぱり…、この特殊な訓練着を着たのは…、
そのためだよな…。
見学だけってわけにはいかないよな…。
ま…まずい、今リゼル、いないんですけど…
ど、どうする…オレ…!!!)
───時はさかのぼって…実機授業前───
昼食も食べ終わり、オレは次の授業が気になった。
(あの双子の片割れは、この後は実機授業、って言ってたな。)
「あのー、この後の授業は何ですか?」
オレはとりあえず3人にこの後のことを聞いてみた。
「この後は、実機授業であります。」
まっ先にフルムが答える。
続いてサーヤ、
「はぁ、私、格闘戦はちょっと遠慮したいんですよねー…。」
「サーヤ、苦手分野をちゃんと克服しないと。」
とリコ。
「射撃は得意なんですけどー…。」
サーヤはため息交じりでポツリとつぶやく。
「なんたって、クラス1のスナイパーですからね。」
すかさずフルムがフォローする。
(へー、人は見かけによらないな、
こんなおっとりした子が…スナイパーか。)
「私、職員室によってから行くね。」
リコは二人に伝え、
「じゃ、私たちはティターニア君と一緒に先に行ってるねー。」
オレはフルム、サーヤと一緒に、
授業で使うライデンシャフトがある第3格納庫へ向かった。
道中、将軍との関係や、生い立ちなど、
いろんなことを根掘り葉掘り聞かれたが、
オレは曖昧な返事を繰り返して、
なんとかその場をやり過ごした。
第3格納庫は校舎から歩いて10分ほどのところにある。
石造りの馬鹿でかい建造物だ。
格納庫の脇に赤レンガ造りの小屋がある。
二人がその建物に入るので、
オレもついていく。
中へ入るとサーヤが、
「はい、ティターニア君はあっち。」
二人が指さす先は…。
壁に男と女のマークがある。
「更衣室?」
フルム、
「はい、ここで訓練着に着替えるであります。」
「あ、はい。」
オレは返事をして、男子更衣室へ入る。
(更衣室か…着替え…、ってことは二人も…、
あー!!ダメだ!!!
何変な想像してんだオレ!!)
オレはなんとか妄想を抑える。
更衣室の中は、オレが思っていたより広かった。
(へー、サッカーとか野球の試合で見る、
キレイなロッカールームじゃん。)
更衣室の中は木製のロッカーが並んでいる。
年季の入ったロッカーだ。
候補生の何人かはすでに着替え始めていた。
(オレも着替えるか…
え…着替え?
そういや、着替えるものなんて、もらってないんですけど…
それに、オレのロッカーは…?)
オレがロッカールーム内でまごまごしていると、
「おい!
そこ、俺のロッカーなんだけど…」
更衣室に入ってきた、クラビッツ・ツインズの片割れ、
トロイ・クラビッツが、オレのすぐ側のロッカーを指さす。
「ご、ごめん。」
オレはすぐによけた。。
よく見ると、ロッカーにはそれぞれのネームプレートが貼ってある。
(あ、ロッカーの場所、決められてるんだ。
まったく、それを先に言ってよ…。)
「おい、ティターニア!!」
(はぁ…、今度は何だ?)
オレは名前を呼ばれて振り返る。
そこには、教室でオレと席を変わるように言われた青年が立っている。
(うお、あらためて見ると、超イケメン!
さわやか!
しかも、背高っ!
ちっ、モテるだろうな…。)
オレはつい反射的に、劣等感を抱く。
しかし、超イケメンはそんなオレにお構いなしと話しかけてくる。
「アフィデリスから、お前に渡してくれとさ。
ほらよ”訓練着”だ。」
と言うと、麻袋をオレに投げて渡す。
(あわっ!!)
オレはあわてて手を出し、
「訓練着…?」
それを受け取りながら質問した。
「ああ、機体授業の時は、
それに着替えるんだ。
制服より動きやすいしな。」
「へえー。」
(体育の授業の体操服みたいなもんか。)
「あ、それから、サイズはガマンしてくれって。
お前に合うサイズが見つからなかったみたいでさ。」
(まぁ、リゼルのこの小学生の体じゃあしょうがないよな。)
「オレは、デイニー・バッケンハイム。
よろしく。」
「あと、ロッカーの準備もできてないから、
空いてるロッカーを使ってくれてかまわないそうだ。
俺の隣でよけりゃ空いてるぜ。」
「あ、ありがとう。」
オレはデイニー・バッケンハイムの横のロッカーに袋を置いた。
オレは少し緊張もほぐれたんで、
まわりを観察する。
10人ぐらいいる他の生徒たちは黙々と準備をしている。
(それにしても、この超イケメンは別として、
ロッカールームの空気、重いんだよな…。)
オレは思い切ってその辺のことを聞いてみる。
「あの、バッケンハイムさん」
「ん!?なんだ?
そんなにかしこまんなくたって、
デイニーでいいぜ。」
デイニー・バッケンハイムは気さくに答える。
(な、なんだ、こいつ、
すげーいい奴じゃん。)
「じゃあ、デイニー、
このロッカールーム、
すごいピリピリしてる雰囲気みたいなんだけど…」
オレは小声で聞く。
「みたいじゃなくて、実際ピリピリしてんのさ、
この後の授業で、気の抜けた操縦をしてみろ、
一発で《落第》の可能性だってあるんだぜ。」
デイニーはいかにも当然だろといった表情だ。
すると、別のところから、
「そいつの言う通り、
みんな気が張ってんだ、
わかったらその口を閉じな。
ま、二人そろっての落第、
楽しみにしてるぜ。」
双子の兄デュロイだ。
デイニーはオレに向かって、
苦笑いを浮かべた。
デュロイの発言があってから、
誰も口を開かなかった。
各自、それぞれの準備をする。
オレも渡された訓練着を着る。
訓練着は言われたとおり、ぶかぶかだった。
ビ─────────!!!
大きなブザーがロッカールームに響いた。
「───!?」
クラヴィッツ・ツインズやパイロット候補生達は、
次々と更衣室を出て行く。
オレが状況を飲み込めず戸惑っていると、
「いくぞ、ティターニア。」
デイニーが声をかけてくれ、更衣室を出た。
外へ出ると、女子生徒たちも訓練着を着こみ、
格納庫内へ入っていく。
緊張感が高まる。




