最初の授業2
───オルレアン軍学校・パイロット候補生選抜クラス
《リンド・ブルム》3回生教室───
コンコン───
オレはレリウス教官の後に続いて教室へ入った。
入った瞬間、生徒たちの視線が一斉にオレへ集まる。
(し、視線が痛い…)
教室の中は、高校生ぐらいの男女20人ほどが席についている。
(こいつらがパイロット候補生の最終学年…
選ばれし者たちだけあって、
みんなビシっとしてる…。)
授業はすでに始まっていたらしく、
教壇にいる小さな白髪のじいちゃんもこっちを見る。
レリウス、
「ヤム教官、授業中失礼します。」
ヤム、
「おお、レリウス君。
どうかしたかね。」
「今日からこのクラスに編入する、
リゼル・ティターニア候補生を連れて参りました。」
「ほう、編入。
それは珍しい。」
「はい、詳しいことは後ほどシモン中佐にお聞きください。」
「ふむ、わかりました。」
レリウス教官は候補生達へ、
「授業の途中ではあるが、新入生を紹介する。」
パイロット候補生たちの心の声
(この時期に編入!?)
(見たことないぞ!)
(おい、いくつだよ!?)
(小学生!?)
(あの目…大丈夫なの?)
「貴様ら!!」
バシンッ!!!
レリウス教官は鞭を取り出し、教壇を叩く。
教室内の空気が一気に引き締まる。
「このようなことで動揺するとは情けないぞ!!」
「…」
候補生たちは固まった。
(うわぁぁ…鞭だ。グラサンに鞭と女教官だ…。)
「本日付でパイロット候補生となったリゼル・ティターニアだ。
今日からこのクラスの所属となる。」
「「「……」」」
パイロット候補生たちの心の声
(本日付け、ってなんだよ…)
(そんなのありなの…)
(あーあ、ライバルが増えるのか。)
(マジかよ!? )
(おいおい、あんなチビがまともに操縦できんのかよ)
(教官最高…)
「ティターニア。一言、挨拶しなさい。」
レリウス教官に促され、オレは、一歩前に出る。
(…ふぅ、また自己紹介か…)
「え、えー。この度は…、」
オレが少しまごつくと、
バシンッ!!!
鞭がうなる。
(そ、そうだ、ハキハキしなきゃいけないんだった。)
「この度、この歴史あるアルレオンにやってきました、
リゼル・ティターニアです。
よろしくお願いします!」
オレはさっきみたいに、精一杯声を出した
(はぁー…生きた心地がしない。)
オレの紹介は一通り終わった。
3回生の教室は選ばれし20名に対し、
もったいないくらい広い部屋だった。
3人掛けの長机が横に3台、
それが6列あって、
一段ずつ階段状にせり上がっている。
候補生達は前方に詰めていて、
後ろの机は空いている。
「───ティターニア、おまえの席は…、
アフィデリスの隣がいいだろう。
バッケンハイム、後ろの席に移ってくれ。」
名前を呼ばれたバッケンハイムは、
すばやく荷物をまとめ後ろの席に移る。
「ティターニア、わからないことは、
クラス長のアフィデリスに聞くように。」
レリウス教官が告げると、
女の子はスッと立ち上がり、
「了解しました。レリウス教官。」
きりっと答える。
そして、レリウス教官は教室を後にした。
オレは指示された通り席につく。
隣の女の子、
「リコ・アフィデリスです。
よろしく、ティターニア候補生。
どんなことでもかまわないから、
わからないことは遠慮なく聞いて下さい。」
「はい、よろしくお願いします。」
オレは背筋を伸ばして答えた。
(クラス長、…学級委員的なポジションかな?
ん~、しわ一つない服装に、よく手入れされた長髪、
高校生ぐらいの女の子にしては、表情にもすきがない、
こりゃ、かなりしっかりしてそうだ。)
「えー…では…、授業を再開します…」
小さな白髪のおじいちゃん教官がぼそぼそ話始めた。
こうしてオレのオルレアン軍学校での生活が始まった。
───冒頭の授業に戻る───
「…風のセルジューク国、この国のペガサス兵による布陣は、
制空権を支配しながら進軍するという…、
それは、絶大なものであったと伝えられています。
敵の矢が届かない高度まで上昇し、そこから様々な物を投射し、
地上軍と連携して攻略する…。」
(いきなりセルジュークとか、ペガサスって言われてもなぁ…
ペガサスか…)
ヤム教官、
「では、ペガサス兵はどのようなものを、
上空から投射したのでしょうか?」
(ペガサス…流・〇・拳!!
……んなわけないか。)
「ティターニア君、答えてみなさい。」
候補生達が一斉にオレを見る。
(ちょ、ちょと、いきなり!?)
「え、えーと…、
…………矢、でしょうか…。」
オレは何とか無難に答える。
「まぁ、間違ってはいませんが、
いたって普通の答えですね。
アフィデリス君、他にありませんか。」
「はい、火炎瓶や、硫酸、塩酸、死んだネズミ、毒蛇、
などでしょうか。」
リコ・アフィデリスはスラスラ答える。
「うむ、なかなかいい答えです。
実に様々なものが投げ入れられたと記録に残っています。
実際、投射されたネズミや、動物の死骸が原因で、
病気が広がったこともあるようです。
この場合、地上軍の侵攻は細心の注意と時間が必要となるでしょう。
汚染の度合いによっては何年も人が住めなくなるわけですから。
他にも、毒蜘蛛やさそり、人の糞便なども投げ入れられたそうです。」
(おぇ…汚え…。)
「しかし、セルジュークの切り札、ペガサスもまた、
死病の感染の広がりによって歴史から消えてしまいます、
なんとも皮肉な結果です。
…次は…アルカサスの人狼兵について…」
カーン!カーン!カーン!
鐘が鳴った。
「…鐘が鳴りましたか、
今日の授業は、ここまでとしましょう。」
そんなこんなで初授業が終わった。
「はー…」
オレはホッとしてため息をつく。
すると、他の候補生は一斉に教室を飛び出していく。
気がつけば、教室にオレ一人。
(ぼっち再び…か。)
⦅どんなことでもかまわないから、
わからないことは何でも聞いて⦆
と言ってたリコ・アフィデリスの姿もない。
(きっと時間的に昼休みだよな…、
昼飯を食うとしたら、食堂…)
とりあえずオレは教室を出た。
行先は、食堂。
校内を歩くと、
至る所で他のクラスの生徒からジロジロ見られる。
「おい、見てみろよ、
あれ選抜クラス《リンド・ブルム》の制服じゃねぇ?。」
「マジかよ。あんなチビが!」
「おい、声がでけぇよ、聞こえるだろ。」
(ああ、しっかり聞こえてるよ、
あんなチビで悪かったな。)
食堂の場所は誰かに聞けばすぐわかると思っていたが、
甘かった。
あまりにジロジロ見られ、気まずくて聞けない。
オレは仕方なく、近くにいる生徒についていった。
進むにつれ、あきらかにひと気が少なくなる。
(これ…絶対に食堂じゃないな…)
気がつけば、生徒の姿は消えていた。
すぐそばの教室の入り口には、
『拷問研究所』と記された看板がぶら下がっている。
(拷問…)
オレはおそるおそる中を覗いてみる。
薄暗い部屋の中には、
天井からぶら下がったロープや、
内側に刃がついた棺桶のようなもの、
大きなペンチ、
無数のとげがついた石板など、
様々な器具、道具が雑然と置かれている。
オレが一番気になったのは、それらの多くに、
赤黒いシミがついていることだった。
すると、
「ひっひっひっ、迷える子羊が迷い込んだか…。」
中から不気味な声がする。
(す、すいませんでした。
間違えました!)
オレはあわてて扉を閉め、
その場を離れた。
それから、適当に校内を歩いた。
食堂は見つからなった。
あったのは、『占いの館』だの『錬金術同好会』、
『毒』とだけ記された部屋もあった。
オレはオルレアンの学校の中で再び迷子になった。
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操縦士候補生
リコ・アフィデリス
フィレリア王国・軍学校 魔導騎兵操縦科3回生
クラス長
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