王家2
その後も、ジュリアスの近況報告が続き、
その間、様々な料理がテーブルを賑わせ、
昼食会は順調に進んだ。
そして、テーブルには最後の皿が運ばれる。
この日のデザートはドライいちじくとナッツのタルトだった。
みなはデザートを堪能しながら、温かい紅茶を楽しんだ。
食事会が終わりをむかえる頃、
サラはわかりやすい視線の合図をアリエスへ送る。
この後、先日の襲撃事件の追加報告があるはずだと、
彼女は考えていた。
サラから合図を受けたアリエスは、
堅い表情で小さくうなずく。
食事会が済むと、
オーク、サラ、アリエスの三人は、
王宮の離れにある尖塔の一室へ集まった。
アリエスは声のトーンを一段おとし、
報告を始める。
「先日の”ジグバ演習林襲撃事件”についての
さらなるご報告です。」
オーク、サラともに厳しい表情で報告を聞く。
「襲撃場所の捜査と、
残された映像を解析した結果、
あの付近に襲撃犯の協力者が潜んでいたことがわかりました。」
二人は無言のまま、アリエスに話を進めるよう促す。
「そのものが妨害工作をしたとみて間違いありません。
その協力者が単身なのか複数なのか、
その点についてはまだ結論を出せませんが、
その協力者は…、
”魔術師”であることは確実かと。」
アリエスの”魔術師”発言にオーク、
サラの表情がさらに険しくなる。
───魔術師についての捕捉───
フィレリア大陸では、古代より魔力を宿す者が、
一定の割合で誕生する。
(遺伝的要素が強いと考えられているが、未だ解明されていない。)
魔力を宿す者は、出生時に判別され、
国家により厳しい管理下に置かれる。
この管理の一切を取り仕切るのが”魔法省”である。
そのため表向きは、
所属不明の魔術師は存在しないことになっている。
しかし、近年王国を悩ませているのが、
この所属不明の魔術師である。
─────────────────────
サラは厳しい表情のまま口を開く。
「魔法省の”ダリオン”卿に、
協力要請を出しておきます、
何か有益な情報があれば提供してもらいましょう。」
オークとアリエスは、
無言でうなずく。
「襲撃の実行犯について、
何かわかったことはないのですか?」
サラの問いに、
アリエスの表情が曇る。
「どうしました、早く報告なさい。」
サラは言いよどむアリエスをせかした。
「申し訳ありません、
そちらについては、
ほとんど手がかりが得られていない状況です。」
アリエスは正直に現状を話した。
「…そうですか。」
サラは落胆の表情を隠さなかった。
報告を済ませると、
アリエスは深々と頭を下げ、
部屋を後にした。
残ったサラとオークは話を続ける。
「そのものたちの狙いは何だと思う。」
この部屋に入ってから、
初めてオークが口を開いた。
「………。」
「計画を潰そうともくろむか、
それとも…、
別の目的があるのか…。」
オークは窓の先に広がる、
王都の街を見つめる。
「現在集められた情報だけでは、
まだ何とも言えません。」
「そうだな…、
しばらくはジュリアスの警護を
手厚くしておくがよかろう。」
「かしこまりました、
早急に手配いたします。」
サラはさらに続ける。
「この件、アリエスにすべてを
任せるおつもりでしょうか。」
「……不服か。」
「……。」
サラは明言は避けたものの、
その瞳は何を言いたいか明らかだった。
「…それならば、こちらでも探らせればよい。
だが、人選はどうじゃ、
今回の件で、軍中央の人事も
相当の入れ替えがあるのだろう…。」
「はい…。
各地方から、将軍クラスの幹部が
送り込まれる予定です。」
「地方の領主たちも、
だまってはおらぬか…。」
「ヒル中将が中央を離れる前に、
信頼できる配下の者数名を、
中央本部に残すよう、
命じておきました。
その中から今回の任務に当たる者を選びます。」
「そうか…、
軍は再び操りにくくなるな。」
「……。」
サラは無言のまま足早に塔を出た。
塔に一人残された国王オークは、
過去の儀式を思い返した。
オークの記憶の中には、
今は亡き息子たちの姿があった。
────王宮・別棟・親衛隊本部・隊長執務室────
国王への報告を終え、
アリエスは隊長執務室に戻った。
椅子に深く腰かけると、
ここ数日の疲れが一気に全身をおおう。
「ふぅ、真に大変になるのはこれからか…。」
コンコンコンコン
「入れ。」
そこへ、親衛隊副官の一人カイル・ラドニックが、
熱いお茶を用意し、アリエスの前に現れた。
「どうぞ。」
カイルはアリエスの前でカップにお茶を注ぐ。
「今日は神経を休ませる効能のハーブを
ブレンド致しました。」
「いつもすまぬな。」
カップから立ち昇る優しい香りは、
アリエスの疲れた体に染み渡った。
「先日の件だが…、
お前はどう推察する。」
「どう…とは。」
「なぜこのように手の込んだことを…。」
「………。」
「賊らはいったい何がしたかったのじゃ…。」
「犯行の動機…ですか。」
「王宮を襲撃しておれば、
我らバーミリオンが迎え撃ったものを!」
「しかし、実際奴らが現れたのは、
王宮から離れた軍演習林。」
ドンッ!!!
アリエスは机を強く叩いた。
「…わたしが男であったら。」
アリエスは悔しさを滲ませる。
「またその話をされますか。」
カイルはいたって冷静に対応する。
「そもそも何故、
女が王位についてはいかんのだ、
過去をさかのぼれば、
女王の時代もあったのだ。」
カイルはただ黙ってアリエスの不満を聞く。
「それが戦況の悪化により、
強い国王が必要だ、
男子が望ましい、
そして、ついには男子に限ると…。」
「……。」
「何か言ったらどうじゃ。」
「せっかくのお茶が冷めますので、
温かいうちにどうぞ召し上がり下さい。」
「ふんっ。」
アリエスはハーブティーに口をつけた。
「それから、
こちらはベルディア公からの頂きものです。」
カイルは盆に乗せた箱の中から、
パネトーネを取り出し、
アリエスの前に差し出した。
すぐさま、アリエスは素手でパネトーネを掴み、
口いっぱいにほおばった。
「!?」
その時、アリエスの脳裏に考えが浮かぶ。
「ハフィムッ!
〇×△〇#$×!」
アリエスは口にモノを
詰め込んだまましゃべる。
「誰も見ていないからと、
またそのような振る舞いを…。」
カイルは小言を言わずにはいられなかった。
アリエスはハーブティで口の中のパネトーネを
一気に流し込んだ。
「カイル!!
サンダースは今どこじゃ!」
「べ、ベルディア公ですか…、
ベルディア公でしたら、
昨日早朝レイクロッサ基地へ
向かわれとの報告が届いております。」
「ワシも急ぎサンダースの後を追う。」
アリエスは慌ただしく部屋を出た。




